11 尾行開始
星で満たされ、青白い光が降り注ぐ紺碧の空の下。
二つの人影が一切の音も立てずに歩いている。
一人はつま先立ちでそーっと歩き、また一人はポケットに手を突っ込みながら,足を進めていた。
2人の前には髪を一つにまとめた若い女性がおり、手元の端末と睨めっこしながら右往左往している。彼女が角を曲がるたびに、電柱の後ろに身を潜め、ゴミ箱に隠れ、次の角を曲がったところで走り出し、後を追っていた。
側から見れば二人はストーカーか,ひったくりの機会を伺う泥棒かー何にせよ怪しいのには変わりがないだろう。
片方の男がサングラスを掛けているというのも、さらに怪しさを倍増させている。
その二人組はー
「すみません一条さん、かれこれ2時間ほど尾行を続けていますが、全く怪しい動きがありませんよ。そろそろ帰ってもいいのではなでしょうか?」
「何言ってるんだ。まだ2時間じゃないか、ここからが本番だよ」
…一条と水無瀬であった。
2時間前、「彼女を尾行しよう」と愉快に一条が言い出してその後、ストーカーまがいの行動をしながら…否,尾行すると言った時点でストーカーなのには変わりがないのだが、彼女の跡をつけていた。
「じゃあこうしましょう、ここから十分以内に何もなかったら帰る。これでどうでしょうか?」
一条は両手を広げて『10』を示し、そっと囁いた。
「うん、いいね、そうしよう」
口角を釣り上げ、首を縦に振りながら言った。
「…あと30秒で10分です」
「もう?!そんなはずはない!彼女には何かあるはずだ!」
「諦めましょうよ一条さん、彼女には何もなかったんです」
「あと5分!否,2分でいい!」
「えー………」
女性の跡をつけながら,あれこれ言い合っている二人の姿。この様子を警察官が見たらどう思うのだろうか。
多分きっと恐らく、即職質されるだろう。
「もう遅いし帰りましょう。こう見えても僕は未成年ですからね、子供は寝る時間です。ああ、眠い眠い」
わざとらしくあくびをしながら水無瀬は言う。
よほど早く帰りたいのだろう。
「否、あと30秒でい
尾行していた女性がカランコロンと扉を鳴らして店に入った。
一条は誕生日の幼児のように、目をキラキラさせた。
水無瀬はハァ、とため息をつき、「だから早く帰ろうって言ったんです」と呟いた。
「ほらほらほら!何かあるって言っただろう!よし行くよ水無瀬くん!」
一条は水無瀬の袖口を引っ張り店の前まで行くと、ドアノブに手を伸ばした。
「お待ちください」
横に立っていたスーツの男に呼び止められた。
「なんだい?」
一条は不服そうな顔をして尋ねた。
男は顔色一つ変えずに答えた。
「本店は服装規約がございます。ラフな服装のお客様は入店をお断りしております。それに、未成年の方もご利用いただけません」
最後は水無瀬の方を見て言った。
一条と水無瀬は目を合わせ、何かを会話したあと,再び男に向いた。
「僕が未成年に見えますか。では保険証を見せますよ、ほら、ここを見てください。生まれたのは23年前の6月2日、今年で23歳です。童顔なのと、身長が低いのでよく未成年だと間違われるんですよ」
水無瀬は普段よりかなり低い声で話しながら、ポケットから偽の保険証を取り出し、男に見せた。
スーツの男は目に近づけて2度,3度見たのち、申し訳ございませんでした、と言った。
「お客様の年齢を間違えてしまったこと、深くお詫び申し上げます。ですが、当店は服装規約がございますので、本日はお帰りになるか、もしくは…」
隣の古ぼけた看板の仕立て屋を指して言った。
「そちらの店で正装がレンタルできます。ご利用になってはいかがでしょう」
日差しが強くて数十秒目を瞑ったら、世界が青くなりました。




