10 怪しいね
「怪しいですね」
「あぁ、すごく怪しい」
女子高生が帰宅してその後、水無瀬と一条は顔を突き合わせて話していた。二人の間には手のつけられていない冷め切った珈琲と、ほぼ空になったココアが置かれている。
「まず、座ってからの言動から見て、彼女は何か隠しているね。髪の毛を触ったり、目を合わせないのはその表れだ」
水無瀬の分として淹れられた珈琲を、一条は自分のほうへ引き寄せ、角砂糖を放り込みながら言った。
「そうですね、それに彼女は僕らが夏帆さんに会うのを恐れているみたいですし。彼女が夏帆さんを殺そうとしているのでしょうか?あえて探偵と接触することで少しでも疑いを薄めようと考えている可能性も…」
「でも、証拠があるわけじゃないからね。ただ怪しいというだけでは逮捕も何も出来ないよ。せめて家から拳銃が出てくるとか、毒が出てきたりとかしないと。
…でも、手遅れになることだけは避けたい。今日私たちと接触するのは相手にとって都合がいいかもしれないが、夏帆さんの家に行くことになったのは想定外のはず。早ければ今日にでも動き出すよ。彼女が犯人だったらの話だけど。」
肩をくすめて一条は言った。そしてチラリと時計を見て、水無瀬くん、これから暇かい?と言った。
「今から彼女を尾行しようとでも言うのでしょう?」
「なんでわかったんだエスパーかよ」
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。
そしてすぐに表情を戻した。
「勿論、夏帆さんが精神病だったり、他の人が殺意を抱いている可能性もあるし、なんなら夏帆さんなんて元から存在しなくて、全て彼女の狂言だっていう可能性も捨ててはいない。ただ、今の情報だけだとなんの判断もできないからね。少しでも有力な情報を集めたいってだけだよ。何もなかったならそれでいい、夏帆さんに会って判断しよう」
そういうと、一条は玄関に向かって歩き始めた。
水無瀬は、しょうがないなぁ、という顔で後ろをついていく。
「では、スパイごっこと洒落込もうじゃないか」
満面の笑みで言った。




