3 柚永と星那
めちゃそっくりの二人。
ほのぼのか、シリアスかーー
「せなお姉さんはあたしの体のほんとのひとなの?」
柚永の精神世界とも呼べるその真っ白の空間で三角形を描くように向かい合う少女の姿をした3人。
体の現在の持ち主である柚永、転生を完了する寸前の主人格である星那。そして、星那の副人格として存在する存在。
『ほんとの人……?……あー!この子が言ったことを気にしてるんだ』
星那は副人格が柚永に放った言葉に対して言っていると気づいた。故に、星那は副人格の頬を人差し指でツンツンとつつきながら柚永に優しく微笑みかけた。
「うん。もうひとりのお姉さんはあたしが"本来は生まれるはずのない自我だ"って言ったの」
柚永は頭の回転が速く、理解も速い為か年相応の幼さをあまり感じない。それはもう星那のように。
柚永の目に映る星那の容姿は17歳の頃の容姿そのもの。柚永の姿を17歳にすれば皮肉なほど星那の容姿に似たようになるだろう。
『だからそうだと言ってい……』
『だから黙りなさいってば』
副人格が無表情のまま言葉を紡ごうとした時、星那がその言葉を遮った。
先程まで柚永に向けていた人間らしい微笑みを完全に消し去り、殺気が込められた鋭い目を宿した冷酷な表情を副人格へと向けた。
『………………』
副人格は星那の凄まじいまでの威圧に逆らうことができずに不服そうにしながらも少し怯えるような表情で黙り込んだ。
「…………ぁ」
星那の変わり具合に驚いたのか、柚永はへたりと尻もちをついて小さく声を漏らす。
『あ、ごめんね?柚永ちゃんを威圧するつもりは無かったんだ』
柚永がしりもちをついたのを見て星那は慌てて先程までの明るい微笑みを浮かべると、柚永を慰めるように頭を優しく撫でた。
星那の手に、柚永は妙に安心感を覚えていた。まるで母に撫でられているような。
「せなお姉さん」
柚永は頭を撫でられながらぽつりと言葉を零した。
『ん?なーに?』
星那は柚永の頭を撫でていた手を離して首をかしげながら微笑みかけた。
「せなお姉さんは、あたしの体がほしいの?」
柚永が放ったその言葉に星那は穏やかだった表情を一瞬苦しそうに歪め、目を瞑って深呼吸をすると、すぐに目を開けて真剣な表情で柚永の目をまっすぐ見つめて言った。
『……うん、そうだよ。私は柚永ちゃんの体を貰わないといけない』
星那の今の表情は、きっとこんな幼子に向けていい表情ではないだろう。
しかし、意図せず芽生えてしまった自我である柚永という幼子の未来を奪ってしまう事への謝罪と、誠意は見せるべきだろうと星那は考えていた。
「そっか……せなお姉さんは、あたしのこと、すき?」
柚永は少し悲しそうな表情をしながら星那に質問を続ける。
『もちろん。……こうして話したのは初めてだけど、私は柚永ちゃんのこととっても好きだよ?』
質問の内容に驚いて少し目を見開くと、微笑を浮かべながら柚永に言い放つ。
「……じゃあ、あたしがせなお姉さんに体を渡したあとでも、あたしのこと、わすれないで……いてくれる?」
もうすぐ自分が消える時が来ることが分かったのか、柚永はずっと我慢していたであろう涙を目に沢山浮かべながら星那に訊く。
『っ…………もちろん。……星那お姉さんは柚永ちゃんのこと忘れないよ』
今にも泣き出しそうな柚永を星那は優しく抱き締めて目に少しの涙を浮かべながら言った。
「……ありがとう、せなお姉さん」
柚永は星那の体を強く抱き締め返すと、大粒の涙を零しながらお礼を言った。
瞬間、柚永の体は淡い光を放ちながら少しずつ崩壊を始めて塵へと化していく。されどもその光は消えず、少しすつ星那の中へと入っていく。
『主人格……本当にコレでよかったんですね?』
星那の命令によって黙り込んでいた副人格がもう良いだろうと星那に話しかける。その体は柚永と同じように淡い光を放ちながら崩壊を始めていた。
「…………えぇ、良いのよ。
柚永ちゃんはあれだけ幼かったのに私に体を渡す決断をしたのだから。
私はそれに報いなければいけないもの」
光に包まれてしまった副人格にはもう、星那の表情を読み取れる程周囲の景色は映っていない。既に副人格の体は半分以上が塵と化し、光は強さを増していき、星那の姿は全体の輪郭がぼんやりと見える程度。
表情を窺えないこの状況で最後に副人格が星那のその姿と言葉を聞いて思った事はただ1つ。
『――これ以上、辛いものを背負うのは……』
その言葉を言い終わる前に、副人格を象っていた体は完全に塵と化し、星那の中へと還っていく。
瞬間、3人の意識を取り込んで成していた真っ白の世界に黒い亀裂が入り、崩壊を始めて星那の意識を表層へと押し上げていく。
こうして、" 望月 星那 " という1000年以上前から幾度となく転生を繰り返す巫女は再びこの世に肉体を得て再誕した。
***
「……柚永ちゃん、またね」
寝言のようにそう呟いた私が目を覚ますと、そこは布団だった。
ゆっくりと起き上がって両手を視界に入れ、ぐーぱーぐーぱーとするのを何度か繰り返すと、自らの意思で体を動かせることを再認識する。
「動かせる肉体があるのは良いけど……この年齢だと少し不便だね……」
そう呟きながら立ち上がると、両手をグーにして力を込め、目を瞑って力の流れを認識する。
「……よし、能力も問題なく発動できるかな」
自らの持っている能力を発動できることを確認し、能力を1つずつ手動で発動していく。
発動した能力ごとに常時発動する権能とその出力を丁寧に調節する。
「……なっ…………何者ですっ……!」
能力の発動と調節が完了した瞬間、侍女と思しき女性が私の立っている居間へと露骨に驚きを露わにしながら入ってくる。
柚永ちゃんの記憶だと……あぁ、奈緒という名の侍女か。確か柚永ちゃんの母を看取った人、だったかな。
「柚永だよ?奈緒さん」
何食わぬ顔でそう言ってみるが、奈緒は訝しむような表情を此方に向けて言う。
「柚永様はまだ10歳です。そのような容姿ではありません」
そう言われて私は両手を再び視界に入れると、小さかった手は大人の女性程まで大きくなっており、よく考えてみれば視点の高さも能力を発動していく前より格段に高くなっていた。柚永ちゃんと話したあの空間での高さだ。
「あれ、ほんとだ。……あー、多分能力を発動して調節してた時に肉体が最適化されちゃったのかな?
体が小さいと逆に成長させちゃうのかぁ……」
近くにあった鏡を見れば、全身が映し出される。
腰まで伸びた藍色の髪、空のように透き通った水色の目、そして相変わらずの童顔。膝までの丈のスカートで紅白の巫女服。1000年前の自らの容姿そのままであった。
「ごめんね?驚かせちゃったよね。奈緒さん」
自らの容姿を認識した後、私は再び奈緒に話しかける。
「まさか…………望月……星那……?」
奈緒は少しの怒りと敵意を込めた表情を浮かべながら震えた声で言った。
「あれ、分かるんだ。そうだよ。私が望月 星那」
未だに私の名前が伝わっている事に驚きながら自己紹介をする。
「柚永様は……?」
「……そうだなぁ、強いて言うなら私に還った……かな?」
難しいことを聞いてくるなぁ、と思いつつ私は奈緒の質問に答える。
「…………して」
奈緒が小さく言葉を零した。
「ん?なんだって……?」
私は聞き返した。
「柚永様を……返して……!」
叫びにも近い絶望が籠った嘆きだった。
「それは出来ない相談かな。柚永ちゃんはちゃんと私と話し合って自分の意思で私に体を渡すって決めたんだから。その結果、私がこの体を貰い受けるのは止めようがないし、消えてしまった意識と私が入れ替わることは出来ない」
「それでも……!だとしても……!」
「貴女、本当に大人?人の話聞いてた?」
この手の会話を何度も聞いてきた。何度も問いかけられてきた。もううんざりだ。
「貴女には分からないであろう情報を一つ教えてあげるね。
私が転生する器になる肉体にはね、本来自我は宿らないの。星那っていう自我が既にあるんだから。
そして、肉体の主導権を持つ自我からしか主導権の譲渡は行えないし、他の自我があったとしてもそれらからの干渉は基本的に行えないの。
主導権を持ってた柚永ちゃんが、『あたしはせなお姉さんにこの体をあげる』って意識したから私が居るわけよ。お分かり?」
「……じゃあ、貴女が柚永様にその主導権とやらをもう1回渡せば!」
奈緒にとってのそれは希望だったのだろう。真っ暗な闇の中で見つけた一筋の光。でも、私はそれを打ち壊さないといけない。
「無理だよ」
短く、言った。
「そんなわけが無いでしょう……!?貴女が今……!言ったことでしょう……!」
奈緒はついに怒りを露わにした。
「私はさっき、" 消えてしまった意識と私が入れ替わるなんてできない "って言ったはずだよ?」
私は、冷たい表情で静かに言い放つ。
「そん……な…………」
奈緒は遂に威勢を無くして膝から崩れ落ちた。
「本来芽生えるはずのない自我は、その人格形成や知識、行動の八割以上が転生する自我に影響される。
柚永ちゃんが年齢にそぐわないような行動をしてたり、やけに頭が良かったり私によく似てたのはそういう事だよ。容姿まで似てたのはただ単に血が色濃く受け継がれてただけだと思うけどね」
私は追い打ちをかけるようにそう言い放つと、奈緒は思い当たる節があったのかそれ以上何か言うわけでもなく、ただ泣いていた。
柚永ちゃんも星那もかわいいね。
ここだけの話、永夜さんや奈緒さんのネーミング結構気に入ってます。
柚永ちゃんはどうなっちゃうかな~?




