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災淵の雪月花  作者: 暁星
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2 跡取り娘

跡取り娘ちゃんが出るお話です☆

かわいいね







「この子が……この望月神宮の跡取り娘になるのね」



 隣に寝かせられた産まれたばかりの赤子の頭を優しく撫でながら、出産の疲れからかぐったりとしながら赤子の母親である望月(もちづき) 永夜(えよ)はどこか悲しそうな目をしながらまだ言葉も分からないであろう赤子に向かって呟く。



永夜(えよ)様、望月神宮の跡取りとなる次代の巫女を誕生させるのは大昔からの使命です。そのように生まれてきたことを哀れむ顔はなされてはいけない」



 タオルで永夜の横に寝ていた赤子を包みながら助産師の女性は言う。



「……えぇ。分かっているわ。そろそろ星那(せな)様が転生なされる頃ですもの。この子はきっと……」



 星神と呼ばれる神を祀る壊宙災禍(かいちゅうさいか)以前……いや、それよりもずっとずっと昔から存在し続けている望月神宮という大きな神社。

 代々、望月の名を冠する女子が巫女として先代の跡を継ぎ、その地と血筋を守り続けてきた。そして、望月の一族の女子には個人差はあれど何か不思議な力が宿るという。

 


 大昔、特筆して強大な力を持った望月の巫女が居たそうな。その巫女は "星那(せな)"という名前だった。



 望月の巫女はその身に宿る力の強さに応じて来世に力や記憶、経験などを引き継がせることが出来る。

 しかし、多くの巫女はそもそもの引き継ぎすらできないほどの微弱な力しか持っていない。

 そもそも引き継ぎができるほどの力を持っていたとしても、引き継げるのはせいぜい先に挙げた3つのうちのどれが1つを断片的に引き継ぐのみ。


 

 しかし、星那という巫女は力、記憶、経験の全てを完璧に引き継げるという。

 その持ち得る力が強大であれば強大であるほど、肉体の老化は遅れる。星那の場合は成人を迎えると同時に肉体の老化が無くなる。それ故に寿命が異常な程に長い。

 寿命が無くなるか、何らかの原因によって命を落とすなどの事が起こった時、望月の巫女の最期の力によって引き継ぎが発生する。

 転生の周期はその死後大体100年〜150年程度。前回の星那の転生が確認され、その死が確認されたのは丁度100年前。

 


 よって、今日生まれた望月のこの女の子は星那の転生体である可能性が非常に高い。……というよりほぼ確実に転生体と言っても過言では無い。



「星那様の転生はどのように完了なさるのでしょうね。私が引き継げたのはきっと僅かながらの才能だったのでしょう。前世の記憶が引き継げていない分、あまり分からないもの」



 永夜は物思いにふけるように遠い目をしながらそんな疑問を口にする。

 


「どのように……とは?」


 

「その子がもう一度目を覚ました時には既にその意識は星那様なの?……それとも、少し成長してから星那様の意識へと塗り変わっていくの?」



 永夜の疑問はごもっともだろう。

 一生懸命愛情を込めて育てた娘が急に会ったこともない遠い先祖の意識に変わるなんて考えたくもないだろう。

 そうなることがあればきっと、永夜はどれだけ星那が望月神宮の祀る星神に近い存在であろうと星那という1人の人間を恨む。

 それはそれとして、星那という太古より全てを引き継ぐ完璧な転生を繰り返す先祖に対して自分のような大した力も無い未熟者がどう接せば良いのか分からないのだ。



「……私には分かりかねます」



「えぇ、大丈夫よ。元より独り言のようなものだもの」



 永夜は少し悲しそうな顔をしたまま俯いてそう呟く。



 …………自分にそう言い聞かせるかのように。



「永夜様、お子様のお名前は決められていますか?」



 場の空気を変えようとしたのか、先程から話している助産師の女性が別の話題を永夜に振る。



「……一応は、ね。でもきっと星那様ですもの。名前はきっと……」



「そうやってネガティブになってどうするんです永夜様!

 名前はその人にとっての宝です。永夜様に前世の記憶があったとして、前世の名前と今世の名前のどちらを名乗りますか?どちらの名前を呼ぶように言いますか?

 人はきっと、どれだけ生きていようとも愛情というものは必要なものなのです。それは、例え最初の生と今の生の生みの親が違ったとしても同じことでしょう」



 永夜は助産師である女性の言葉に何も言えなくなっていた。心のどこかでそれに納得していたからだろう。そして、納得したくないと思っている自分が次の言葉を紡ぐのを邪魔している。



「…………確かに……そう……ね。ごめんなさいね。きっと、私の母やそのまた母も…………同じように悩みを抱えていたんでしょうね。

 ……記憶を引き継いで産まれてくるかもしれないのは星那様だけでは無いもの」



 永夜の言葉には淀みがあった。どうにか言葉を絞り出しているのだろう。



「その通りです。……それで、その子のお名前は?」



「…………柚永(ゆえ)です。望月(もちづき)柚永(ゆえ)と名付けます」



 生まれは11月11日。(ゆず)の実が沢山なっていた。そして、柚の花言葉には『汚れなき人』というものがある。巫女は汚れのない存在というのも由来のひとつ。

 望月の家が永遠に続くという意味も込めてある。



柚永(ゆえ)様……ですか。良い名ではありませんか」



「ありがとう……すみません、少し体力を……使いすぎたようで……」



 片目から涙を零しながら、永夜はそう言葉を紡いでそっと目を閉じた。


 

 それが、望月 永夜が最期に交わした言葉であった。



「えぇ。……ゆっくりおやすみなさいませ、永夜様」



 そしてこれが、看取った助産師の女性……いや、侍女たる女性が永夜という主人の最期を看取った際に掛けた言葉であった。



「…………永夜様……」



 主を看取った侍女は1人、忘れ形見となる赤子を抱えて。










***












 ――10年後、望月神宮の寝殿にて。


 柚永は望月の血を色濃く受け継いでいた。そして、皮肉な程に星那の特徴そのままの容姿であった。

 可愛らしくも整っている童顔に誰もが見惚れる藍色の長い髪、空の色をした瞳。身長で言えば、流石にそのままとは行かないが、それでも語り継がれてきた特徴をそのままに年相応の身長にすれば本当にそっくりであった。



「柚永様、そろそろお勉強の時間ですよ?起きてください」



「……ん…………奈緒さぁん……もうちょっとぉ……」



 侍女の女性は奈緒という名であった。

 奈緒は布団に包まっている柚永の身体を揺さぶって声をかけながら起こそうとしている。

 肝心の柚永はお眠といった様子で起きようとしないのだが。



「だめですよ?早く起きてくださいな」



「……え〜………けちぃ……」



 柚永がそう口を尖らせて起き上がった瞬間の事であった。

 柚永は突然、ひどい頭痛がしたかのように両手で頭を苦しみながら抑えた。



「……柚永様!?……どうされましたか?どこか具合でも?」



 当然、奈緒は柚永の心配をする。そして同時に、嫌な予感がしていた。

 昔から奈緒は自らが感じた嫌な感じという何となくの感覚がよく的中していた。今回のものも同様に、いや、今までのものよりももっと強かった。



「あ、頭が……痛い…………あ……あああああああ……!!」



 柚永が更に苦しみ始め、奈緒はその柚永を少しでも楽な体勢にさせる為にと再び布団に寝かせた。



「柚永様、少々お待ちください。直ぐにお水とお薬を持ってきます」



 柚永にそう伝えると、奈緒は急いで部屋を飛び出して行った。



「だ……め…………いかない…………で……あたしが……あたしじゃ…………なく、なる……」



 手を伸ばし、奈緒を引き止めようとか細い声を出す。しかし、既に部屋を飛び出した奈緒を引き止める術は無い。

 柚永はその幼さでありながら、自らの自我が何かと融合し始めたことに気づいていた。故に、自分が自分で無くなってしまう事にも勘づいていた。





「――あたしは、柚永。あなたは……だーれ?」



 柚永は真っ白の世界で、自らが成長した姿を想像した時そっくりの容姿をした少女に話しかけていた。



『……驚いた。本来宿るはずのない仮初の自我でありながら、主人格に接触しようと試みるとは』



 振り向いた少女は機械のような無機質な表情をして言葉を紡いだ。



「主人格……?なんのこと?」



 柚永は首を傾げる。そりゃあ分かるはずもない。



『そうだ。私は……』



『はい、そこまで。あんたが出るとややこしいから作業に集中してなさいな』



 柚永と少女の2人だけだったはずの真っ白の世界に、柚永の目の前の無機質な表情の少女と全く同じ容姿をした表情豊かな人間らしい少女が姿を表した。



「お姉さん、だーれ?」



『ん……私が誰か、かぁ…………望月(もちづき) 星那(せな)……だよ』





柚永ちゃんの生まれた日は所以である柚の季節を調べた上で当初10月10日の予定でしたが、もう一回調べてみたら11月~1月らしく......泣きながら柚永ちゃんの誕生日を変更しましたという裏話をここで供養......

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