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災淵の雪月花  作者: 暁星
2/3

1 星那という少女

ここからが本編になります。


所々読みにくいと感じる部分があったらすみません。


「」の後に続いている()の言葉は基本「」で話している子の心の声と思っていただいて大丈夫です。





 声が、聞こえた。

 大勢の人が苦しむような声を上げている。



 「キャーーー!!!!!」という騒音とも言える程の甲高い悲鳴が響いた。

 いつまでも続くとも思えるような悲鳴はほんの一瞬のうちに「グチャッ」という何かが潰れるような擬音と共に聞こえなくなった。



 いつもの様に祈りを捧げていた私は祈りが終わると目を開いて正座の体勢から立ち上がり、藍色の長い髪をポニーテールに纏め、大きく伸びをして着ている巫女服のスカートをホコリを落とすようにぱたぱたと叩く。



 気のせいかもしれないと思いつつ、先程聞こえた声が気になって私は(ふすま)を開ける。

 そこには信じられない景色が広がっていた。



 見渡す限り全て、辺り一面が焼け野原と化していたのだ。



 ――まるで、百年以上前に起こった世界大戦で使用されたという核爆弾が投下された直後であるという写真のように。




 寒い。こんな焼け野原にいるはずなのに、肌が凍えて芯まで凍りついてしまいそうなほどに。

 火は暖かかった。私は火の傍に来て暖をとった。



 目に見える範囲で残っているのは、高層ビルであったであろう瓦礫の山と、無傷で残っていた私の生家である "望月神宮" だけ。



 何故神社だけは傷一つ付かずに残っているのだろう?




 そんな疑問を持った瞬間、先代の巫女である祖母が言っていた事を思い出した。



『 良いか、星那(せな)よ。ワシらが祈りを捧げ続ける限り、このお社には星神様が何があっても守ってくださる。そういう結界がこの敷地には張られているのじゃよ。絶対に祈りを捧げるのを忘れてはいかんよ、いいね?』



 当時の私はあまり信じていなかったが、そういう仕来り(しきたり)なんだと割り切って毎日欠かさず祈りを捧げていた。

 これが祖母の言っていたことは本当だったのだと確信を持った瞬間だった。



「……は、はは。おばあちゃんの言ってたこと、本当だったんだ……」


 

 私が混乱した頭で絞り出したのはそんな乾いた笑みが混じった言葉だった。

 しばらくして我に返り、慌てて周囲に生きている人が居るかを探した。



「誰かー!!いませんかー!?」


 

 我ながら頑張ったと思う。誰もいないという孤独感に苛まれ、涙が出そうになるのを堪えながらも必死に誰かいないかと探して回った。

 

 もう誰も見つからない、誰も彼も皆死んでしまったんだ。


 そう諦めかけた時、何か聞こえた気がした。



「ぁ…………た、、たす…………け…て…………」



 苦しみの中、絞り出すような "助けて" という声。

 声の主を探そうと私は必死に辺りを見渡す。しかし見つからない。少し後ずさりした時、動かした左足に何かが当たった感覚がした。



「ひゃあぁっ!!」



 あまりにも驚きすぎて変な声が出てしまった。

 バッと足元を見ながら振り返ると、制服を着た銀髪の中学生くらいの少女が私の方を力ない眼で見つめていた。

 私の足に当たったであろうモノを見ると、少女が私に気づいてもらおうと伸ばした腕だった。



「あっ……ね、ねぇ、貴女……大丈夫??」



 私はどうしていいか分からずそう声をかけた。



「お…………みず……を…………くださ、い………」



 お水をください、そう言われたと気づき、私は自分が飲んでいた天然水のペットボトルのキャップを開けて少女の口に当て、ゆっくりと流し込んでいく。


 ごくごくと吸い付くように天然水を飲んだ少女は、飲み終わった瞬間咳き込んだ。



「大丈夫?落ち着いた?」


 

 私は少女の背中をさすりながら声をかける。

 


「だ、大丈夫……です。助けていただいてありがとうございます……」



 落ち着いたのか、少女はそう言って私の方を見た。


 ……なんだろう、この違和感は?

 そう思って少女の目を再び見た瞬間、気づいた。



(この子……既にこの世に絶望しきってる……)



 少女の目は死人のように曇っていた。光が灯っていないのだ。生を諦めた生者の目をしている。

 心霊スポットや自殺スポットなんかの近くを通りかかった時に見かける人の目。



「貴女、生きることを諦めちゃダメだよ」



 私はそう言葉を投げかけて少女の手を取り、神社まで連れていく。


 神社へ向かう道中、私は()()()()()()()のだが、少女は私に手を引かれながら周囲を恐る恐る見渡しながら怯えていた。



「……大丈夫?」



 酷く怯える少女に私は声をかけた。



「……え、あ…………はい……」



 少女は虚ろな目をしてそう淡白な返事をした。



「……あ、あの…………巫女様……」



「どうしたの?」



 少女は私に恐る恐るといったように声をかけ、私はそれに優しく微笑みかけて返事をする。



「巫女様は……あの死体を見て何も思われなかったのでしょうか……?」



 死体……?そんなもの途中に()()()()()()()



「えっと……死体……?」



 困惑しながら少女に言葉を返す。少女は驚きの表情と共に私に恐怖の視線を向けて言った。



「……はい。私の手を引いてここまで連れていただくまでの間、その道中には…………()()()()()()()()()()()()()()



 見えなかったのですか……?


 信じられないといった目で少女は私を見つめる。

 私は驚きのあまり、言葉が出せずに固まってしまった。



「……そ…………んな……なんで…………」



 深呼吸をして心を落ち着かせ、早歩きで神社の敷地外へ歩いて再び辺りを見渡した。



 そこには、少女の言う通り多くの死体が転がっていた。

 苦しみを顔に浮かべたままの死体、無気力な顔をした死体、力なく目を閉じている死体、小さな子供を庇うようにして倒れている2つの死体。そして……どんな容姿をしていたのかすら判別できないほどに焼け焦げてしまっている死体まで。

 その数は数千、数万にも及ぶだろう。瓦礫の下にもきっと沢山の死体が埋まっている。あの少女が生きていたのは本当に奇跡だったのだろう。



「…………あ、…………あぁ…………ぁあぁぁぁ………」



 死体を見るなんて初めてだった。死体に関わる仕事をしていなければ当たり前だろう。

 その上、1人や2人ではなく、大量に。


 この短時間で驚きが積み重なりすぎたせいか、私の精神はとっくに限界を迎えていた。


 私の精神(こころ)は絶望の色に染まっていた。









***









『星那、良いかい……よく聞くんだよ。あんたは初代巫女と同じ強い力を持って生まれているはずだよ。でもその力は決して誰かに向けてはいけないよ』



 お祖母様でも持ってない力?



『……せな、すごいの?』


 

 なんであんなに無邪気に私は笑ってる?



『あぁ、凄いとも。星那はワシらの誇りじゃよ』



 誇り…………か。



『えへへ……じゃあ、せなもっともーっとがんばるね!』



 頭撫でられて嬉しそう。



『星那、何か辛いことがあったらこの言葉を思い出すんだよ』



 ん……言葉…………?



『……?…………なー…………』



 なんだっけ――










***











「巫女様……?」



 気づけば少女が膝枕をしながら私の顔を覗いていた。とても柔らかい……

 どうやら私は少しの間放心状態になっていたらしい。



「……あ………れ………?私……何を……」



 頭痛がする。ズキズキと頭をひどい痛みが刺してくる。

 あまりの痛みに私は右手で頭を抑えた。



「大丈夫ですか?その……フラフラとしながら心ここに在らずと言った感じでしたが……」



 何度もムニムニと太ももの感触を確かめていると、虚ろな目をしていた少女が困惑しながら私に声をかけていた。



「…………やわらかい」



「…………へ?」


(巫女様は今なんて言った……?私の聞き間違い……?綺麗な藍色の髪……空みたいに透き通った水色の目……おまけに容姿も完璧とか…………良く見てみれば羨ましいなこの巫女様……)



 私がボソッと呟くと、少女は困惑を隠しきれない様子で疑問符を現した。



「毎日この感触に包まれて寝たいくらい」



 現実逃避とも言えるかもしれない。でも、今はただこの感触を味わって精神を回復させなければ。そう思った。



「あの…………巫女様……?……もう膝枕を止めても良いですか?」


(止めさせてくれないかなぁ……死体見すぎて巫女様が狂っちゃった…………てか、巫女様がおかしくなったせいか私の方が逆に冷静になってきた……)



 少女は少し恥ずかしそうな顔をしながらさりげなく私に退くように言ってくる。

 少しだけ待って欲しい。もう少しだけこの感触を味わわねば……!



「もうちょっとだけ……もうちょっとだけだから……!」



 私が意地になって少女の太ももの感触をできるだけ沢山味わおうとスリスリしていると、少女は埒が明かないと思ったのか、私を無理やり引き剥がした。



「いい加減にしてください巫女様」



「そ、そんなぁ……」



 我ながら情けない声が出てしまった。



「………………あ……来る…………」



 やばい。この感じはほんとにやばい。

 なんでか何かすごく嫌な力を感じる。今まで感じた中でずば抜けてマズイって感じる力が。



「……巫女様?」



「貴女、早く外に出て伏せて頭を守るよ!」



 私は少女に向かって要件を叫んで伝えた。

 ただただ急がなきゃという一心で、私は少女の手を引いて外に出るとすぐに敷地内の庭で伏せた。

 少女は困惑していたが、私の必死の様相に圧倒されたのか急いで私と同じように伏せて頭を守るように手を当てた。



「あ、そうだ……貴女、名前は?」



 私がそう問いかけると、少女は答えた。



「アルカナです。巫女様のお名前をお伺いしても……?」



「私は星那(せな)望月 星那(もちづき せな)だよ。」



 私と少女……いや、アルカナは互いに名前を聞きあって、何かを悟ったように微笑んだ。



 直後、世界が白い光に包まれた。



 そして…………凄まじい爆発と衝撃波が巻き起こり、アルカナの身体が瓦礫に埋もれていくのを見た。それが私の最後の記憶だった。













***












 ドゴオォォォォッッッ!!!!!!!!



『凄まじい爆発と衝撃波でいくら神の加護を受けていたと言っても所詮は加護だからね、神社は吹き飛んじゃったんだ。

 私が誰かって?そんな事はどうでもいいよ。今はただの語り部とでも思っておいて。そんな事よりも……ほら、そろそろ来るよ。』



 瓦礫に埋もれていくアルカナという少女を見ると、星那は間もなく意識を落とした。ここでアルカナは命を落とすことになる。


 しかし星那は命を落とさず生き残っていた。傷一つ負っていないし、瓦礫に埋もれてもいない。



 気を失う直前の星那は再び強い絶望の感情に包まれていた。

 それによって1つの人格を形成する事になった。



『それが……いえ。私の口からは辞めておきましょうか。それを言ってしまえば面白くないし』



 でしょ?皆様。初めから全部を知っていては面白くない。初めに言ったはずだよ?



「主人格、星那。ワタシはいずれ必要とされる存在。そして、この少女もまた……主人格には必要となる存在。ならばこの少女も一緒に」



 ()()()()。星那という一人の女の子の中に宿る1つの副人格(サブブレイン)が。



「力は……問題なく行使可能。よっぽど望月の血を色濃く受け継いでいたらしい。

 主人格はこの世界にとって決して失わせてはならないものだ。よって未来へ託す。


 発動。


 外道《輪廻転生(リィンカーネーション)》」



 星那の副人格(サブブレイン)が《輪廻転生(リィンカーネーション)》を発動した瞬間、空間は星那の身体を中心として(まばゆ)い光に包まれ、周囲に転がっている無数の死体のうちの幾つかから様々な色の魂が球体として視覚化されて抜き出された。

 抜き出された魂は空へと上げられていき、突如としてその存在がこの時代から消えていく。



 《輪廻転生(リィンカーネーション)》…………か。中々凄いもの使うよね、あの子。なーんで壊宙災禍(かいちゅうさいか)の真っ最中にあんな芸当ができるんだか。



 ……あ、そろそろ時間かな。バイバイ、皆様。また逢う日まで〜













***















 そして、壊宙災禍(かいちゅうさいか)から千年以上が経過したある日のこと。





「――永夜(えよ)様!産まれました!とても元気な女の子ですよ!」



 助産師の女性は産声をあげている産まれたばかりの小さな子供を大切に抱えながら母親となった女性にそう声をかけた。



「こちらがお子様です」



 永夜(えよ)と呼ばれた女性の隣に赤子を抱き抱えた助産師が赤子をそっと寝かせた。



「可愛い……無事に産まれてきてくれてよかった……」





 この日、望月神宮に跡取り娘が産まれたのだ。






読んで頂きありがとうございます!


話がこんがらがってしまうこともあると思いますが、コメントなど残していただければ返信させて頂こうかと思っておりますので何卒よろしくお願いします。

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