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人気爆発

 雪がちらつく二月に、毛剃りクリームが売れるというのは些か奇妙なことだ。


 しかしラジオで紹介された週末、クローバーシェイビングクリームは売れに売れた。


 穣と茉由子、加えて耕介は東京中を駆けずり回り、工場にあった製品を可能な限り納品したが、日曜日の朝になると追加を求める電報が茉由子の家に大量に舞い込んだ。


「ザイコ4ハコノミ ツイカモトム。アリッタケ ヒキウケル。……余程売れているのね。


 次は……タカクテモイイカラ ハヤクホシイ。トリアツカイタイ レンラククレ……あら、これはお取引がないお店ね」


 片っ端から電報を見ていた紅が言った。嬉しい状況だが緊急事態でもある、ということで紅と耕介は早朝から茉由子の家に来ている。


「まさか、あの辛口な羽田百合子が無名の製品に十点をつけるなんて思ってなかったよね。ラジオで紹介された場合に備えて多めに製造してあったけど、いつまでもつか……はい、これで十七」


 来しなに城南食品工業に立ち寄り、出来たての製品を受け取ってきた耕介は、茉由子に言われた数を箱から出してひとまとめにする作業をしている。

 米の配達で鍛えた体を存分に使い、二百五十個もの製品を一人で抱えて玄関先に現れた時には、美津子は驚いて蛙のような声を出していた。

 なんせ硝子の入れ物に入っているものだから、その量だと成人男性一人の体重よりも重いのだ。


「ええと次は浅草の大きなお店だから、三十でお願いします。工場が週末返上で動いてくださって、本当に助かりましたね」


 茉由子の言葉に紅が頷いた。


「名前が売れたこのチャンスを逃してしまう手はないわよね」


「十八、十九……そうだよ、とにかく知って、手に取ってもらえればあとは製品の実力で勝負なんだから、僕たちは負けない。……えっと、なんだっけ、十八……」


「つぎが二十よ、耕介さん」


「はいはい、二十、二十一……」


 おとぼけた耕介と冷静な紅の様子に茉由子はくすりと笑い、


「あしたは私が学校の帰りに工場に寄って、近いお店に納品しますね。遠方のお店は今日中に行ってしまいましょう」


 と言った。


「茉由子さん、あなただけだと持てても三十個くらいじゃない?」


 紅が鋭く指摘する。


「それはそうだけれど、何度か往復すれば近くの店ならまわれるわ」


「二軒ほどで日が暮れちゃうわよ。そうだわ、月曜日の午後ってお兄様は講義がないのよ。お兄様と行くといいわ」


「はい、三十っと。

 それがいいよ、あさっては僕が担当するけどあしたは難しい。戦略担当の総一郎くんにも肉体労働してもらおう、はっはっは」


「じゃあ放課後、茉由子さんとお兄様は工場の前に集合ね。伝えておくわ」


 紅と耕介は二人でさっさとだんどりを決め、茉由子が口をだす隙もない。口をぱくぱくしている間に次の話題が始まってしまっていた。


「昨日坂東先生からうちに電話があったわ。シアの種を載せた第二弾の船が、あと一週間くらいで横浜に着くんですって」


「おお、じゃあ十日後くらいには受け取れるかな。材料の在庫、今朝工場で聞くのを忘れちゃった。


 茉由子さん、次は何個でまとめる?」


「あっすみません耕介さん。神楽坂で、二十です。あした在庫は聞いてきます」


「よろしく!一、二、三……」


「茉由子さん、渋谷のお店用の納品書、出来たからここに置くわね。次はどこで、何個?」


「紅さん、千駄木で十七個でお願い」


「了解よ。私、どんどんタイピングが早くなってきたわ。任せて」


「九、十、……茉由子さん、今の指示の感じ、なんだかすっかり社長っぽい……十一、十二……」


 耕介の感想に紅がにっこり笑い、小首を傾げて言う。


「儲かったら社員にすき焼きをご馳走してくださいね、茉由子社長」


 茉由子は吹き出しつつ立ち上がり、仁王立ちして宣言した。


「もう、こうなったら死ぬ気で稼ぎますよ!社員の皆さん!」


「そういう感じ、そういう感じ!求めてた!」


 紅と耕介が爆笑する中、茉由子は心の底から思った。


 何かを全力で頑張るって、なんて楽しいんだろう、と。


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