たった一回の超新星で世界は変わる
赤く染まる夕陽が、駅のホームに淡いオレンジ色を投影していた。
そこには、小さな体を持つ少年が立っていた。
彼の瞳には、どこか遠くを見つめるような空虚な表情が広がっている。
「まもなく○番線を新幹線「のぞみ」が通過します。危ないですから黄色い線までお下がりください」
駅にアナウンスが響く。
彼は人をかき分けながらホームの端へと向かい出した。
同時に彼の心の奥深くにしまっておきたい苦い記憶が、少しずつ蘇える。
彼の周りには静けさが広がり、列車の音や人々のざわめきが不気味に遠くに聞こえる。
「今日で14歳か…」
ホームの端でそう呟いた。
新幹線の音が次第に近づいてくる。
「君、そんなところにいたら危ないよ」
20代ごろの男性の声が聞こえたが、のぞみが来るのを確認すると彼はその言葉を最後にホームを勢いよく飛び出した。
目の前にあるのぞみを前に思いがけず過去の断片が蘇る。
しかし、その記憶は苦痛に伴っていた。
「蓮斗ってTREXやってる?」
3時間目終わりに悠人がいきなり話しかけてきた。
悠人は今日席替えして隣になったクラスメイトで、とあるニュースで意気投合していたところだった。
だがその言葉を聞いた途端憂鬱な気持ちになる。
僕の周りでは遊びといえばゲーム一択でそれを元にクラスでのグループもできていた。
でも僕はゲーム機が買ってもらえなかった。
だから僕は最近流行りのTREXは出来なかった。
その結果、クラスでは友達に恵まれず、一人孤立していた。
「ごめん、あんまりゲームとかやってないんだ」
「あっ、そーなんだ」
その言葉を最後に彼も僕に対する興味はなくなり、自分から話しかけてくることも無くなった。
でも、ゲームができないのはしょうがないことだった。
うちは貧乏な家だったからだ。
僕がまだ幼稚園に通っていた頃、両親が離婚した。
理由は父親が浮気していたらしい。
その時から僕は賃貸アパートで母親とおじいちゃんとの3人暮らし。
母子家庭での生活は決して安定しているとは言えなかった。
食事は白ご飯と大豆、カップラーメンがメインで一日3食も食べれる日なんて一ヶ月に1回あればいい方だった。
そんな生活の中でゲーム機が欲しいなんて口が裂けても言ってはダメだと小学生のころから我慢している。
だから友達と遊ぶお金がなかったことが僕が孤立した一つの理由だと思う。
でも、僕にこの状態を覆す力がないからだとも思った。
そんな学校生活を続けていた時だった。
「おい、蓮斗の制服、中古のじゃん!笑」
1人の生徒が机に座っている僕を指差して大声で言った。
「え、マジで!」
他の生徒が反応して注目が集まり、周りがざわつき始めた。
「まあ、そうだけど何が悪いんだよ?」
僕は動揺を隠しながら言った。
「だって、見た目は大事だろ?」
するとその生徒は僕を馬鹿にした口調で答えた。
続けて、
「見た目がダサいと友達もできないだろうし、彼女なんてできっこないよ。笑」
僕はその言葉に傷ついたが、反論することもできなかった。
その後、クラス内で噂が広まり、他の生徒たちからも冷たい視線を感じるようになった。
悪質なのは暴力は振るわないことだった。
男女ともに僕を無視したり馬鹿にした。
心配してくれる子はいたが声をかけたり、手を差し伸べることはなかった。
いじめられる中、自分が情けなくなって涙を流した、でも学校は休まなかった。
だってお母さんを心配させたくないし、学校にお母さんが払ってくれるお金を1円も無駄にはしたくなかった。
でも、それにも限界が来た。
先生に一度相談したが、先生のしたことはみんなの前で注意喚起をしただけ。
その後はいじめは鎮まるどころかエスカレートし、今に至る。
空気が震え、強烈な風が吹きすさぶ中、線路に沿って駆け抜けるのぞみが疾風のように迫ってきた。
そして、その瞬間が訪れた。
一瞬の出来事だった。
蓮斗はのぞみにぶつかり、僅かに体がちぎれていくのを感じた。
同時にその瞬間、光の波が大地を駆け巡り、あたり一体が光り輝いた。
彼はその景色を不思議に思いながらも幻覚だと思い、目を閉じた。
だが、彼には意識が残っていた。
目を閉じて数秒が経過しても意識があったのだ。
おかしい…
彼は目を開いた。
「あれ、僕は自殺…したはずだよね…」
あたりは変わり果てていた。
まず目に映ったのはのぞみだった。
しかし形はひどく変形しており、原型を留めていなかった。
次に衝撃を受けたのはホームにいた人たちだった。
なぜか全員意識がなく、その場に倒れていたのだ。
周囲の状況を理解できず、蓮斗はひどく混乱する。
そして決め手となったには自分自身だった。
「あれ…髪が青い…」
目の前に落ちている髪の毛を拾ってつぶやく。
ふと視界に自分の髪の毛が入る。
「って、これ僕の髪の毛!?」
「え! なんでなんで」
頭がより混乱して本能的に離れようと立ちあがろうとするが驚きのあまり力を入れすぎてしまった。
そしてまたしても信じがたいことが起きた、約5メートルも上に飛んだのだ。
「これは…夢?」
彼は上昇しながら呟く。
だが下降が始まると思考は停止した。
「こんなんで死ぬのは嫌だよぉぉぉ!」
蓮斗は無意識に体全体に力を込めて叫びながら落下していった。
「あれ…なんだ?」
両手に今まで感じたことのない感覚がした、まるで空気に触れてるかのような…
気づいた時には地上に落下していた。
だが体に損傷はなかった。
「なんだよこの夢」
少年は笑い出した。
笑いながら気絶した。