冒険者協会にて
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名前:ロッド
分類:杖
物理攻撃力+1 魔力+3
名前:ローブ
分類:鎧
物理防御力+2 魔法防御力+4
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武器屋と防具屋で最低限の装備品を買った。
これもチュートリアルのクエストで無料でもらえるものだけどな。
オレにそんなものはないから自腹を切るしかない。
回復アイテムとどちらにしようか迷うほど今のオレは金欠だ。
この二つを買ったらポーションなんて一つしか買えなかった。
幸いグリーンポーション共に一つずつ節約できているから、まだ安心ではある。
超初心者装備だけどこれでもないよりはナシだ。
本当はもう少しポイズンキャタピラーで稼ごうかと思っていたけど、オレには目標がある。
クロスホープのギルドマスターであるシェリナさんを少しでも納得させたい。
あの様子だとどうもウィザードに嫌な思い出がありそうだからな。
何があったかまではわからないけど、この一週間でオレがより強くなれば気持ちよく歓迎できるだろう。
あちらも真剣に悩んでくれているなら、こちらも応えるべきだ。
そんなわけでオレは冒険者協会の支部に来ていた。
登録などのシステムはない。
ここはゲームでいえばいつでも利用できるクエスト斡旋所のようなものだ。
主に誰かの困りごとがイベントとして発生して、それを解決すれば報酬が貰える。
報酬はお金やアイテムと様々で、すべてをこなす必要はない。
ただし後の重要イベントのトリガーになっている場合もある。
この世界では果たしてどうかな。
掲示板に張り出されている依頼を見た限り、そういうものはない。
ただしウィザード向けのあの依頼があったはずだ。
「オイオイ! ウィザードがいやがるぜ! まだ絶滅してなかったんだなぁ!」
オレが依頼を探していると、ギルド内のテーブル席でくつろいでいた冒険者にバカにされる。
金髪でいかにもチンピラのような風貌の男だ。
見たところ、クラスはソードファイターか。
装備品を見た限り、中級者入門ってところだな。
ちらほらと王都での店売り以外の装備品を装備している。
ちょうど自信がついてきたって時期だな。
倒せなかった魔物を倒せるようになって、調子に乗りやすい時期とも言う。
オレは金髪の男をジロリと睨んだ。
すると男が気に障ったのか、大股で歩いてくる。
「あ? なにガン飛ばしてやがんだ、コラ」
「別に。公共の場でうるせぇ奴がいるなと思っただけだ」
「なんだと、コラ。お前みたいなカスクラスにうろちょろされちゃ目障りなんだよ。どうせどこかのパーティに寄生しようとでも思ってんだろ?」
「張り出されている依頼を見ているだけってわかるだろ。暗闇状態なのか?」
金髪の男がオレの胸倉をつかんできた。
そういえばこの世界でのPKはどうなっているんだろう?
ゲームでは特定のエリアじゃないと攻撃できなかったはずだ。
ここがリアル寄りと考えるなら、殴り飛ばすくらいはできるだろう。
それに冒険者ギルドがその辺りをどう取り締まっているのかも未知数だ。
受付の女性があわわとばかりに慌てているし、少なくとも容認はされてないのかもしれない。
正直、こんなチンピラは無視するに限る。
だけどウィザードへの侮辱は無視できない。
それは親父への侮蔑に等しいし、オレはそういった現場を見ているからな。
親父は聞こえない振りをして黙って耐えていたように思える。
普通に考えて平気なわけない。
幼馴染からは追放されて、好きな女の子はリーダーの男に取られてしまったんだから。
その後の人生だって誰からも相手にされない日々だ。
「おぉ! いいぞぉー!」
「バゼル! やっちまえ!」
他にも何人かろくでもないのがいるな。
どっちもこのバゼルと大差ない装備品だ。
装備的にポイズンキャタピラーに苦労しそうだな。
もちろん孵化後のベノムフライは無理だ。
「手を離せよ」
「クソザコウィザードがよ。オレ様に偉そうな口を利いてんじゃねぇ」
「口で言い負かされたからって力に頼るなよ。その力は後衛を守るためにあるんだろう?」
「うるせぇッ!」
バゼルが唾を飛ばして青筋を立てている。
ウィザードが不遇なのは知っていたけど、ここまでキレるものか?
よく見るとバゼルが歯軋りをしてかすかに震えていた。
「もう一度だけ言う、手を離せ」
「誰が離すか!」
「じゃあこっちも自衛させてもらうぞ。ブライン」
「うっ……!?」
金髪の男に【ブラインLv1】をかけると、オレから手を離した。
目を片手で押さえてふらふらと後退する。
当たり前だけどこのレベルのソードファイターが暗闇耐性装備なんて持ってるわけない。
トラベルファンタジーでは状態異常耐性の装備品は割と高級品だ。
それも完全耐性のものはほとんどなくて、良くて半分程度の軽減がいいところだった。
耐性装備なしとなれば、【ブラインLv1】で十分すぎる。
「クソッ! 見えねぇ!」
「バゼルとか言ったな。ウィザードをクソザコ呼ばわりしたことを後悔させてやる」
「なにをっ! まさかやろうってのか!」
「そうじゃない。オレはこれからこの依頼を引き受ける。と言っても見えないか」
オレが掲示板から剥がしたのはカエントカゲ討伐の依頼が書かれた紙だ。
それを皆が見えるように掲げた。
「カ、カエントカゲ討伐だぁ!?」
「あれは確かLv【40】を超えるぞ!」
「ファイアブレスのせいで近づくことすらできねぇ奴だ!」
オレが言う前にギャラリーが説明してくれたか。ご苦労。
説明通り、こいつのLvは【45】だ。
前衛クラスからすれば、Lvが自分より高いだけで脅威となる。
何せ格上と接近して殴り合わなきゃいけないんだからな。
そこへいくとウィザードはテクニックさえあれば、格上を狩ることも可能だ。
いい機会だからこいつらにそれを教えてやろう。
「カ、カエントカゲだとぉ……ありゃ上位クラスでもなけりゃまず無理だ! てめぇなんぞに狩れるかよ!」
「ソードファイターからすればそうなんだろうな。じゃあウィザードのオレが狩ってくるからバゼル、お前は謝れ」
「はぁ……?」
「ウィザードを侮辱したことをオレに謝れ。それとこいつに乗じてバカにした奴らも同じだぞ」
オレが啖呵を切ると一瞬だけギルド内が静まった。
やがて一人の男が噴き出す。
「プッ! ギャハハハハハ! おもしれぇ! やってみろよ!」
「言っておくが死体になっても探しにいってやらないからな!」
「そういえばちょっと前まで行方不明になったウィザードの捜索依頼が多かったよなぁ!」
「あんな旨味がない依頼なんざ誰もやらねぇっての! 装備品も金にならねぇしよ!」
腹の底からムカつく連中だ。
親父は見つけてもらえただけ運がよかったってことか。
いいぞ、燃えてきた。
オレがカエントカゲを山ほど狩ってきてこいつらに頭を下げさせる。
自分達の凝り固まった考えがいかに愚かか、バカにでもわかるように実績を見せつけてやろう。
この様子だと度重なる風評被害で、ウィザードは初期の頃ですら弱いと思われているだろうからな。
だから誰もパーティに入れたがらない。
「バゼル、聞いているか?」
「あ? あ、あぁ! やれるもんならやってみやがれ!」
オレが確認を取るとバゼルは我に返ったようにオレを見る。
威勢がいいのは最初だけか?
オレがここまで強く出るとは思わなかったんだろうな。
「言ったな。絶対に忘れるなよ。すっとぼけやがったら、オレがお前らを大笑いしてやるからな」
「勝手にしやがれ!」
オレはニヤリと笑って依頼の張り紙を受付に持っていった。
次の目標はカエントカゲだ。こいつは経験値だけじゃなく、とあるアイテムをドロップする。
今のオレにとっては何としてでもほしいやつだ。
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