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ギルド

「す、すっげぇぇーーーーー!」


 少年シーフが大声を上げてオレに駆け寄ってきた。

 よく見ると思ってたより幼いな。年齢は大体12歳前後ってところかな?

 12歳でノービスで転職条件を満たしたと考えるとなかなか末恐ろしい。


 武器はアイアンナイフ、初期の武器だな。

 シーフは【二回攻撃】から繰り出される手数と高い素早さによる回避のおかげで、意外と育成は簡単なほうだ。

 ソードファイターよりも回復アイテムの消費を少なく抑えられる上に【盗む】のおかげで金策も捗る。


「助かったよ! 兄貴がいなかったら死ぬところだった!」

「あ、兄貴?」

「兄貴と呼ばせてくれ! その強さに惚れちゃったんだよ!」

「構わないが……」


 助かったのはいいけど、なつかれちゃったな。

 悪い気はしないし、ここで「兄貴呼びはやめてくれ」なんて問答は無駄だ。

 呼びたいなら好きに呼んでもらおう。


 それにレベルは【14】と言っていたし、初心者なりに色々と影響されやすいのかもしれない。

 オレも始めたての頃はあれもこれもと色々なクラスに目移りしたからな。


「ところでお前、名前は? オレはウィム、ウィザードだ」

「オイラはリク、シーフだよ。兄貴を見るまではウィザードがそこまで強いなんて思わなかったよ」

「やっぱりウィザードはあまり強くないと思われてるのか」

「いや、オイラは今でも強いと思ってるよ。でも兄貴はなんていうか別格だよ」

「今でも?」


 なんだか訳がありそうだな。

 あまり深い事情に立ち入るのもよくないので、スルーして二人で森を出ることにした。

 リクは大量のドロップアイテムを持っていて、町で全部売ってギルドの活動資金にするという。


 聞いたところによるとリクはギルド【クロスホープ】のメンバーらしい。

 様々な希望が交わるという意味が込められたギルド名とのこと。

 なんとも初々しいと思えてしまう。


 ゲーム内のギルド名なんてノリでつけてるところが多くて「〇〇たんを愛でる会」なんて普通にあった。

 カーソルを当てると赤裸々とそんなギルド名が表示されるものだから、ちょっと笑ってしまう。

 いや、否定するわけじゃないんだけどさ。


 一言でギルドといってもその特色は様々だ。

 まったり楽しむギルドもあれば、対人戦やGVGギルドバーサスギルドをメインとしたガチギルドもある。

 クロスホープはどちらかな、と思ったけど生死がかかってるんだからまったりなわけないか。


「ねぇ、兄貴。兄貴ってどこかのギルドに所属してる?」

「どこのギルドにも所属してないぞ」

「そりゃよかった! なぁ! うちのギルドに来てくれよ! 兄貴みたいなウィザードが必要なんだ!」

「ウィザードが? 世間での評価はあまりよくないみたいだが……」


 オレがそう言うと、リクは少し俯いた。

 なんかまずいこと言ってしまったか?


「そんなことないよ。他の奴らはウィザードを悪く言うけど、オイラはそんなことないと思ってる」

「他のギルメンもそう思ってるのか?」

「う、うん」


 なんだか歯切れが悪いな。

 やっぱり何か事情がありそうだ。

 オレとしてもコンテニューがないリアル世界でウィザードのソロをやり続けるつもりはない。

 ギルドに所属すればそれなりにメリットがあるから、お誘いがあればぜひお願いしたいと思っていたところだ。


 ただ問題は人間のほうだがな。

 一抹の不安を覚えつつもオレ達は王都クリンディラを目指した。


                * * *


「ありがとう! グリーンハーブ足りてなかったんだ!」


 王都グリンディラでオレ達は手持ちのドロップアイテムを商人に買い取ってもらった。

 ねっちょりした液体は一つ120ゼルだが、グリーンポーションの材料にもなるグリーンハーブは一つ300ゼルだ。

 商人のクラスはこうして冒険者達からアイテムを直接買い取ることができる。


 今はねっちょりした液体とグリーンハーブの買い取りをしている商人に売った。 

 普通に店で売るより高額で買い取ってくれることが多いから、露店を見かけたらチェック必須だ。

 

「へへへっ! 結構な金になったよ!」

「よかったな。オレは装備を整えたいところだが、その前にクロスホープのギルドマスターに会わせてほしい」

「じゃあ、拠点に案内するよ!」


 クロスホープの拠点は王都の中心街からやや南西にある二階建ての建物だった。

 設立二年で二階建ての拠点とはなかなかすごいな。

 ギルドの拠点は資金を使って買い取り、増築なんかもできるようになっていた。


 部屋数が増えれば多くのギルドメンバーを受け入れられる。

 廃人のギルドなんかは城みたいになっていて、もはや一つの軍隊みたいになっていたな。


 ギルドに入ると、他のメンバーは出払っているみたいだ。

 他には誰もいない。

 二階に上がり、リクがギルドマスターの部屋のドアをノックする。


「シェリナさん! 新しいギルドメンバーを見つけてきたよ!」

「リクか。入れ」


 入るとそこにはデスクで頬杖をついている女性がいた。

 流れるような赤い髪が印象的なナイトだ。

 ナイトはソードファイターの上位クラスの一つだな。


 身に着けている装備からして最低でも中級者以上とわかる。

 シェリナはオレとリクを見ると姿勢を正した。


「初めましてだな。私がクロスホープのギルドマスター、シェリナだ。あなたがギルドに入りたいと?」

「ウィザードのウィムだ。よければ共に戦わせてほしい」

「そうか。ありがたい話だな。しかしウィザードか……」


 シェリナが渋い表情を見せる。

 やっぱりウィザードにはいい顔をしないな。


「やっぱりウィザードじゃ力不足か?」

「……クロスホープとしてはあまり歓迎できない」

「そうか。それは残念だ」


 こうなることは想定していたから、さほどショックはないな。

 シェリナに偏見があろうがなかろうが、いきなりやってきた奴が歓迎されると思ってるほどオレはおめでたくない。

 ギルドのことを考えてきちんと判断しているなら、まともなギルドマスターだろう。


「シェ、シェリナさん! そりゃないよ! 兄貴はめちゃくちゃ強いんだぜ!」

「兄貴?」

「ウィムの兄貴は一人でベノムフライを討伐したんだ! Lvも【32】なんだよ!」

「なに? ウィザード一人であれを? 信じられん……」


 シェリナが表情を強張らせる。

 過剰に誇るつもりはないが、これも実績の一つだ。

 オレはオレなりにこうして少しずつウィザードへの偏見をなくしていきたい。


 だけど今すぐというのはやっぱり難しいみたいだな。

 シェリナが咳ばらいをしてからオレを見た。


「ウィムといったな。今の話が本当なら君は普通のウィザードではないのだろう。だが……すまない。少し考えさせてくれ」

「構わない。ギルドマスターなら当然の判断だと思う。オレはオレで、あなたを振り向かせるよう実力をつけていくつもりだ」

「誤解しないでほしい。今の話が本当ならぜひ歓迎したい。問題は私の、いや……私達の心の問題なのだ」

「心の問題?」

「事情は言えないが、心の整理をさせてほしい。一週間だ、あなたさえよければ一週間だけ待ってほしい」


 やっぱりあまり聞けない何かがあるみたいだ。

 これ以上は追及すべきじゃないだろう。

 どっちにしろオレのやることは変わらないからな。


「あ、兄貴……ごめん。シェリナさんを悪く思わないでくれよ。オイラからもずっと説得し続けるから、本当に待ってほしい」

「気にするな。いいギルドマスターだよ」


 リクは気にしているみたいだけど、オレは本当に気にしてない。

 むしろシェリナさんを完全に頷かせるくらい強くなろうと思えるほどだ。

 シェリナさんはああ言ってたけど、どうもウィザードに対して強く決断できない何かがあるみたいだからな。


「シェリナさん、一週間待つよ。それまでオレはオレで、やれることをやっておこう」

「兄貴……」


 悲しそうな顔をするリクに背を向けて、オレは片手を上げて別れを告げた。

 クロスホープか。オレの最初の目標はシェリナさんに認めてもらうことだ。

 何があったか知らないけど、後ろめたさなく即決で誘ってもらえるよう強くなろう。

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