ライバルっていいな
「ビルキットッ! 聞いたぞ! 貴様、底辺ギルドに負けよったな!」
屋敷にてビルキットの父親であるウルデンが怒鳴り声を上げた。
仕えている使用人が怯えた表情で立っており、固唾を飲んで見守っている。
ビルキット自身も父親にここまで叱責された経験がなく、黙ったままだった。
「パパ、ごめん」
「相手はあの小僧がいるギルドだろう! 資金は十分に渡したはずだ! どうなっている!」
ビルキットは答えない。
父親の怒声よりも、彼の中にはウィムの言葉と殴られた痛みがずっと残っていた。
平民ごときが、そんな悔しい思いと同時に今の自分の不甲斐無さを痛感している。
「貴様をプリーストにしてやるのにどれだけ金がかかったと思っている! レベリングの費用や時間がどれだけかかった! 言ってみろ!」
「……ごめん」
「質問に答えろッ!」
「ぐっ!」
今日、ビルキットは初めて父親に殴られた。
ブルデロン家の跡取りとして甘やかされて育ったビルキットにとってはショックだ。
父親のウルデンとしても、息子に対する怒りが収まらない。
ウルデン自身、生まれながらにして貴族階級だったことで身分によるプライドが恐ろしく高い。
平民など無条件で下の存在であり、負けるという概念が彼の中になかった。
そんなウルデンは先日、働き手を集めていたところをウィムという少年に妨害されている。
二度に渡って屈辱を味わったせいでウルデンは気が気ではない。
二度目の拳をビルキットに振るおうとした時、さすがに使用人達が止めに入る。
「ウルデン様! お止めください!」
「えぇい! どけぇ!」
ウルデンがビルキットから引きはがされた。
ビルキットは床に倒れたまま天井を見つめている。
「ビルキット! 貴様には失望した! 平民……ましてやあんなウィザードごときに負けるようでは当主は任せられん!」
「……いいよ。そんなもの弟にでも譲ってくれ」
「な、なんだと!」
ビルキットが切った口の中から垂れる血を腕で拭く。
息子に睨まれたウルデンは思わず体を硬直させた。
今まで父親に逆らわなかった息子の行動とは思えなかったのだ。
「僕は一からやり直す。冒険者のことをしっかり勉強する。そして改めてあのウィムに挑む」
「何をほざいている! 誰がそんなことを命令した! 貴様はしばらく頭を冷やせ! 屋敷から出ることは許さん!」
「いや、僕はこの屋敷を出る。そして冒険者として生きていくよ」
ビルキットが父親に構わずに部屋から出ていこうとする。
最初こそ本気ではないと思っていたウルデンだが、息子が部屋から完全に出ていくとハッとなった。
ドアを開けてビルキットを追いかけて肩を力強くつかむ。
「ま、待てぇ!」
「僕はもうパパの力は借りない。だから僕に構わないでくれ」
「い、い、いったい何があった! まるで別人だぞ! そ、そうか! あのクソガキに何かされたな! だったら私が……」
「余計なことをするな」
ビルキットの声が低くなる。
別人のような息子の声にウルデンは震えた。
「ビ、ビ、ビルキット……?」
「もしあいつに何かしたら僕が許さないからな」
「どうした、ビルキット! 本当に何があった!」
「あんな平民すら貴族の権限を使わないと勝てないなんて、いい笑いものだよ。ブルデロン家の名が泣くぞ」
言い終えたビルキットが父親の手を肩から外す。
「あそこまで平民にコケにされちゃ嫌でも目が覚めるさ。それじゃパパ、元気でね」
そう呟いたビルキットが去ると同時にウルデンが床に膝をつく。
たった今起こったことが信じられず、ビルキットを見送るしなかかった。
* * *
「ユユル、今更だけど今回は大変だったな」
「いえ、ウィムさんのおかげで無事にクロスホープへ残ることができました」
GVGが終わってから数日が経過して、オレ達は疲れを癒していた。
さすがのオレもゲームとは違うリアルの対人戦は肉体的にも精神的にも疲れる。
バゼル達は昼まで寝ていて起きてこない。
シェリナさんも気丈に構えていたけどソファーでこっくりこっくりと船をこいでいる。
片手に持ったままのコーヒーカップが危うく落ちるところだった。
この人が誰よりも疲れているんだろうな。
GVGでの戦績はすべてギルドマスターとして責任を負わなきゃいけない。
そんな風に考えていそうだ。
それにあのローゼンクロイツとの邂逅もある。
あのギルドはおそらくガチギルドだろう。
ギルドマスターのウナキは戦績主義でかなり厳しい人物だと考えられる。
ゲームでもそういうギルドがあって辟易したことを思い出した。
一度ギルド狩りに遅刻したことがあって、ギルドマスターに「遊びじゃねぇんだよッ!」と通話で怒鳴られたことがあったな。
ゲームをやってて遊びじゃねぇなんて怒鳴られたのは生まれて初めてだ。
もちろん抜けたけどな。
平常運転なのはメルチャとフーイーだけだ。
メルチャは朝早くから露店を開きに行って、フーイーはせっせと弓の手入れをしている。
オレとユユルはシェリナさんの隣でくつろいでいた。
たまにウトウトしたシェリナさんがよりかかってくるのが気まずい。
「クロスホープでよかったのか?」
「え、なんでそんなことを?」
「いや、あの時はオレが勢いで助けたけど本当はどう思ってるのかってね」
「ここでよかったって思ってますよ。今、こうしている時も一切緊張せずにくつろげますし……。いいオーラというか、そんなのがここにあるんです」
そういうのは確かにあるかもな。
色々な人間がいるけど、中には悪い人じゃないけど一緒にいて疲れる人がいる。
性格以外にも波長とかそういうのが合わないんだろうな。
「それはよかった。オレも最初に出会ったギルドがここでよかったって思ってる。もし鉄人団だったら……いや、ウィザードの時点で入れてもらえないか」
「あの人達、口癖のようにウィザードなんか弱いって言ってましたから……。ウィムさんを見て目が覚めたと信じたいです」
「そうだな……ん?」
来客のベルが鳴った。
珍しいことがあるもんだ。
まさか鉄人団の報復とかじゃないよな?
そこまで恥知らずだとは思いたくないな。
静かにドアを開けるとそこには以外な人物が立っていた。
「ビ、ビルキット?」
「フン、ここがクロスホープの住処か。狭くてなんとも貧乏くさいな」
「なんでここがわかったんだよ。ていうか何の用だよ」
貴族のお坊ちゃんが護衛もつけずに狭くて貧乏なギルドに来きたのか。
だけどこいつ、GVGの時とは少し雰囲気が違うな?
何か憑き物が落ちたというか、どこか吹っ切れた顔をしている。
「場所なんていくらでも調べられる。それより君がいるならちょうどいい」
「なんだよ。再戦ならお断りだぞ。皆、疲れているからな」
「それはいずれの話だ。僕は一から冒険者をやり直す。そしていつか君達に勝つ」
「へ、へぇ。そりゃ唐突だな」
冗談を言いにきたようには見えない。
その挑戦的な眼差しが真実だと物語っている。
もしかしてお坊ちゃんなりに心を入れ替えたのか?
「安心しろ。パパの力は借りない。僕の力だけでお前を倒す」
「わざわざそんなことを言うために来たのか。じゃあ、お前のパパの報復はないと考えていいんだな? 実は何気に危惧していたんだぞ」
「パパに最低限のプライドがあれば何もしないさ。それより君は自分の心配をしろよ」
「……本気みたいだな」
ビルキットが無言で頷く。
あのお坊ちゃんがここまで変わるとはな。
「いいか! お前は僕だけの力でお前を倒してやる! それまで負けるんじゃないぞ!」
「おう、楽しみにしてるぞ」
ビルキットはオレに挑戦状を叩きつけていなくなった。
一部始終を見ていたユユルといつの間にか起きていたシェリナさんが後ろにいる。
距離を取ったフーイーなんか弓を構えているんだが。撃つ気だったのか。
「彼はおそらく強くなるな」
「シェリナさん、オレもそう思うよ。貴族のお坊ちゃんがプライドを捨ててあそこまで吹っ切れるなんて、普通はできないからな」
「我々も負けてられんな。私も本腰を入れて最上位クラスを目指そう」
「オレは上位クラスだな。ウォーロックになれば今までとは比較にならない強さが手に入る」
あのビルキットが本気になった以上、こっちも気合いを入れないといけない。
何せあいつはすでに上位クラスだから、テクニックさえ身につければどのギルドからも退く手は数多だ。
居場所次第で大化けするだろう。
いいな、本当に燃えてきた。
やっぱりこうでなきゃな。
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