GVG後
「クロスホープが勝ったぞ!」
「ひえぇ! 鉄人団に賭けてたのにぃ!」
魔法空間から帰ると冒険者協会内が賑わっていた。
賭けが行われていたようで配当はオレ達が2倍、鉄人団が1.5倍だったらしい。
鉄人団が老舗ギルドということ、上位クラス二人や装備の充実度で倍率が低く設定されたのか。
まぁどうでもいいな。
「ぼうや、やるじゃない。しっかり見ていたわ」
「あんたは確かローゼンクロイツのブラックスミスの女性か」
ローゼンクロイツの女性他、総勢30名がやってきた。
このギルド、驚いたことに全員が女性だ。
それもほぼ上位クラスばかりで、装備もかなり高レベルのものが揃っている。
デッセンみたいに地竜の剣の適正Lvの制限に引っ掛かっている奴はいない。
この女性にしても戦闘特化の装備で、レアなウインドアックスを持っている。
【スピードフォースLv1】が使用可能になる上に攻撃速度が上昇する優れものだ。
「ローゼンクロイツがクロスホープのウィザードに話しかけてるぞ……」
「国内における去年のGVG勝利数七位の上位ギルド……マジで全員が美人揃いだな」
ギャラリー達がローゼンクロイツ登場を前にしてかなりどよめいている。
優良ギルドらしいがウィザードは一人もいないな。
そして上位クラスどころか最上位クラスまでいるか。
上位クラスのナイトから派生した最上位クラスの一つ、ソードマスター。
あれこそがウィザードを終わらせた火力お化けクラスだ。
特に両手剣や二刀流型のタイマン性能が他の追随を許さない。
そのソードマスターの褐色肌の女性がオレをまじまじと観察してきた。
紫色のポニーテールを揺らして、顔は幼く見える。
「ディアーリ、そいつが例のウィザードか?」
「ウナキちゃん、そうよ。戦い見ていたでしょ? 私の目利きも大したものでしょ?」
「ちゃん付けはやめろ。疑って悪かった。男でなければ強引にでも我がギルドに引き抜いたところだ」
「それってシェリナちゃんへの当てつけ?」
ウナキというギルドマスターとシェリナさんが睨み合った。
もしかしてシェリナさんは元々ここのギルドにいたのか?
個人間の事情には立ち入らないほうがよさそうだな。
「シェリナ、私が目をかけてやった恩も忘れて楽しそうだな」
「あなたの行き過ぎた戦果至上主義がなければ今でも恩を返していただろうな」
うわぁ、戦いが始まってるよ。
こりゃ本当に関わるべきじゃないな。
「シェリナさん、GVGの戦勝手続きに行こう。すでに鉄人団がお待ちかねだ」
「うむ、そうだな」
なんとかもっともな理由をつけてローゼンクロイツから離れることができた。
少し振り返るとウナキが鋭く睨んでいる。
ありゃなかなかの戦闘狂だな。前世で言う典型的なガチギルドの雰囲気がある。
* * *
GVG終了後、冒険者協会支部の受付で互いが交わした条件を改めて提示することになっていた。
オレ達が勝てば鉄人団は二度とユユルに近づかない。
鉄人団が勝てばユユルを鉄人団に引き渡すこと。
クロスホープの勝利により前者の条件を冒険者協会が了承する。
「クロスホープの勝利により、鉄人団のメンバーはユユルに近づかないこと。
もし破られることがあれば鉄人団はギルドの解散及び冒険者協会への出入り禁止を命じる」
新興ギルドならともかく老舗ギルドなら解散は致命的だ。
これはゲームではなかったことだけど、一度違反によって解散すればメンバー全員は二度とギルドの設立及び加入ができなくなる。
更に冒険者協会の利用禁止は痛い。
割がいい依頼を引き受けられなくなるだけじゃなく、レイドクエストへの参加も不可能になる。
鉄人団のブランタークは喋らず、デッセンが床に座って項垂れていた。
他のメンバーもお通夜ムードだ。
さすがにこの状況で追い打ちをかける気にはなれないな。
そんな様子なのにシェリナさんがブランタークに近づいた。
「……なんだ、シェリナ嬢。見下して笑いにきたであるか」
「ブランタークさん。ユユルに関しては冒険者協会から指示された通りだ。賢明な判断を頼む」
「更に恥を重ねるほど愚かではないである」
ブランタークの声が沈んでいる。
シェリナさんはずっと座っているブランタークを見下ろしたままだ。
「かつての鉄人団は王都の子ども達の憧れでもあり、ローゼンクロイツにも劣らないギルドだった。ブランタークさん、あなたはこのままでいいのか?」
「フ……かつての上位ギルドが見る影もなく、今や新興ギルドにすら敗北してしまった。更に生き恥を晒せと?」
「先代の墓に堂々と花を供えてほしい」
「知った風な口をッ!」
ブランタークが立ち上がってシェリナさんを睨む。
昔のことは知らないけど恥だと思うなら立って前へ進むべきだ。
過去の栄光なんぞ忘れて一からやり直せばいい。
「……ユユル、お前がそこまで強かったとは驚きである。前衛で戦うヒーラーなんぞ聞いたことがないである」
「あなたがバカにしたウィムさんのおかげです。それだけじゃなく……私はクロスホープのおかげで前へと進みました」
「その小僧が……」
「ブランタークさん。私はこれからも負けません。どうかお元気で……」
ユユルがブランタークにぺこりと頭を下げる。
ユユルなりの決別の意思表明のように見えた。
ユユルの言う通り、落ち込んでいる暇があったら前へ進むべきだ。
命があるんだからそれができるはずだ。
少なくとも今度は貴族のお坊ちゃんなんぞに頼らずにな。
「おいぃ! お前ら、何をまとめた空気にしているんだ! 特にブランターク! この僕がいながらなんて様だ!」
ビルキットが空気を読まずに吠えた。
ボンボンは本当にどうしようもないな。父親がアレなだけある。
ブランタークは少し黙ったままだ。
「何とか言えよッ!」
「申し訳ありません……。ご協力ありがとうございました。鉄人団一同、これからは一からやり直す所存です」
「そんなことはどうでもいいんだよ! この僕に恥をかかせやがって! なんで僕が負けなきゃいけないんだよ! せっかくいい装備をくれてやったのにさぁ!」
「返す言葉もありません」
ブランタークに食ってかかるビルキットの肩にオレが手を置くと振り返る。
「いい加減にしろッ!」
怪訝な顔をしたそいつの顔をオレは思いっきりぶん殴った。
ウィザードのオレの力じゃ大した威力はないけど殴られたことがないのか、ビルキットは態勢を崩して倒れた。
「い、痛い! パパにも殴られたことないのに!」
「うるせぇっつってんだよ! お前はそのド平民に無様に負けたんだ! せっかくパパの力で上位クラスになって装備も整えたのに哀れだよなぁ!」
「な、な、なぁ、なんだ、とぉ……!」
「悔しいか! 悔しいだろう! だけどそれが今のお前なんだ! パパの力を借りても誰にも勝てなかった! これが現実なんだよ!」
多数の人間が見守る中、オレは構わず貴族のお坊ちゃんの胸倉を掴む。
さすがに一呼吸おいてシェリナさんが止めに入るが構わずオレは続けた。
「ウィム、よせ」
「お坊ちゃん、よく聞け! 悔しいならてめぇの力で強くなってみろ! 少なくともオレ達はそうした! 金持ちのパパなんかいなくても強くなった! お前はどうだ! パパがいなきゃ何もできねぇのかよ!」
シェリナさんに止められながらもオレが怒鳴り続けるとビルキットが黙った。
誰もがこの状況に絶句しているが知ったことじゃない。
オレはこいつみたいな養殖育ちが大嫌いなんだ。
別に他人の力を借りるのは悪いことじゃない。
協力してくれる人がいるならそれは幸せなことだ。
だけどこいつみたいに他人の力を借りておきながら恩を感じることもなく責任転嫁する奴が嫌いなんだ。
養殖育ちはこういう奴が少なくない。
アドバイスに従って装備を整えたのに弱かっただの、ネガキャンのオンパレードだ。
挙句の果てにうまい人間が使っているウィザードを見て始めたものの、使いこなせずにまたネガキャンをする。
確かにトラベルファンタジーは優しいゲームじゃない。
ライト層お断りな側面はある。
だけど人の話をよく聞いて糧にして感謝をする。
これができるだけで少しは快適なゲームライフを過ごせるだろう。
ここはゲームじゃない以上、誰かに頼りっぱなしの甘ったれは生き残れないはずだ。
「へ、平民のくせに……ぐすっ……ふぎぃぃーーーー!」
ビルキットは盛大に泣き始めた。
大勢の前で床に突っ伏していつまでも。
こいつにはオレよりも恵まれた環境がある。
それで這い上がってこれないようじゃ冒険者の真似事なんてやめたほうがこいつの為だ。
熱くなってしまったオレは居心地が悪くなり、一人で冒険者協会を出た。
勝負の後、外の空気が異様においしい。
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