side 鉄人団
「まずいである。奴ら、想像以上に強くなっているである」
鉄人団のギルドマスターであるブランタークは頭を抱えていた。
ヒーラーである役立たずとしてユユルを追い出してしまったものの、後任が見つからない。
道行くヒーラーらしき人間に声をかけたものの、すでに他のギルドに所属している。
上位クラスのプリーストに至っては鉄人団のような格下のギルドを見下す者さえいた。
ブランタークは激しくプライドを傷つけられたが、反論したところで事実だ。
鉄人団はかつては上位クラスで賑わい、王都でも名を馳せたギルドだった。
GVGではその名が示す通り、前衛クラスが圧倒的火力をもって制圧する。
どんな攻撃をもってしても怯まず進む姿はまさに鉄人と呼ぶに相応しかった。
ところが雲行きが怪しくなったのはブランタークの代になってからだ。
先代の威光を笠に着て、自分に従わない者を追い出す。
ユユルに対する仕打ちは今に始まったことではなかった。
こうして優秀な人材がいなくなり、新しく入ってきたのはイエスマンばかりで実力が伴わない者達ばかりだ。
素性が知れない男達を寄せ集めてお山の大将を気取った結果、鉄人団はかつての強さが見る影もないギルドに成り下がった。
しかしブランタークは己が間違っているとは思わない。
今日まで自分が正しいと信じてきたのだ。
「ブランタークさん! やっちまいましょうよ! 特にあのウィムとかいうクソガキはこの俺の手でぶっ倒してやりますわ!」
「う、うむ。そうだな……。期待しているぞ、デッセン」
「あんな弱小ギルド余裕だぜ!」
「獣の穴くらいオレ達だって攻略できるんだよ!」
デッセンに続いて残りのメンバーも沸き立っている。
そんな者達とは裏腹にブランタークの胸中は不安が渦巻いていた。
ブランタークとて理解している。
今の鉄人団が良くないこと、現メンバーでは勝ち目がないこと。
薄々わかってはいるものの、ブランタークは今まで目を逸らしてきた。
しかし自分が正しい。自分は上位クラスのナイトだ。
装備もそこらの冒険者では揃えられないと自負している。
老舗ギルドの精鋭というプライドがブランタークを現実から遠ざけていた。
どうしたものか、と顎に手を当てて考えた時だ。
「やぁ、失礼するよ」
「む! 誰だ!」
鉄人団のギルドの入り口に一人の男が立っていた。
金髪で高価な装備で身を包んでいる様子からして、ブランタークはこの男が並みの人間ではないと気づく。
「僕はビルキット、ブルデロン家の長男さ。冒険者は趣味でやってるけど上位クラスなんだ」
「ブ、ブルデロン家といえばアイテム商で財を成した大豪商ウルデスの……! し、し、失礼しました!」
ブランタークは冷や汗をかきながらビルキットに謝罪した。
他の者達もさすがに貴族の訪問とあっては畏まるしかない。
直立して一斉に頭を下げた。
「あのウルデス様のご子息がこんなところにどのようなご用件である……いや、ご用件でしょうか?」
「えーと、なんだかってギルドとGVGをするんだろう? パパが君達に手を貸せというから来てやったんだ」
「はい、クロスホープとのGVGです。なぜそれを?」
「聞けばクロスホープにパパを舐めたガキがいるらしいね。そいつはあの偉大なパパの尊厳を踏みにじった。ド平民の分際で許されないことだよ」
「な、なんと!」
ブランタークは頭が現実に追いついていないものの、どこかぼんやりと思い当たる人物がいた。
その人物とビルキットを比べて口元が緩む。
(まさかあの小僧が貴族の逆鱗に触れていたとは!)
ブランタークの沈んでいた気持ちが一気に浮上する。
自分達に加勢しにきたビルキットは上位クラス、片やウィザードの少年とあっては勝負にもならない。
クロスホープへの憎しみを再燃んさせて、自身の正しさを確信した。
「本来はド平民なんか相手にしないところだけどね。ブルデロン家を侮辱したとなれば、僕も張り切って制裁をしようというわけさ」
「ビルキット様、その通りです! 由緒あるブルデロン家を貶めるなど許されることではありません!」
「そういうことさ。まったく、パパも鼻が利くね。こんな弱小ギルド同士の小競り合いの情報なんて手に入れるんだからね」
「……ビ、ビルキット様が協力していただければ何の心配もありません」
ブランタークは内心、ビルキットの言葉に苛立った。
しかし相手は貴族であり、機嫌を損ねれば支援どころかギルドの存続すら危うくなる。
喉まで出かかった言葉をのみ込んでブランタークは苦笑いをした。
「フン、だけどこのギルドはまるでなっちゃいないな。下位クラスだらけなのはしょうがないとして、装備がひどい」
「そ、それは、ありますな……」
「見るも無残で汚物を視界にいれるがごとく苦痛でしょうがない。だけど安心したまえ。こんなことだと思って僕から君達へ施しを与えよう」
「施しというと……まさか資金援助ですか!?」
「何を言っている。君達に金を与えたところでろくな使い方をしない。僕が装備を選んでやろうと言っているのだ」
言い方は極めて腹が立つが、これも奴らに勝つためだ。
特にこれであのシェリナとウィムに吠え面をかかすことができるのなら我慢するところだろう。
ビルキット様が私達を品定めするかのように見ている。
デッセンがビルキットに期待の眼差しを向けていた。
「よくもまぁこんな装備で生き残ったものだよ。ひとまず全員に武器を買い与えよう」
「武器ですか! よっしゃあ!」
「仮にも僕に従ってもらうんだ。ガラクタ同然の武器で戦われたら、ブルデロン家の名折れというもの」
「そ、そうっすよね! それでどんな武器をいただけるんですか?」
「そうだなぁ……GVGといっても要するに攻撃力が高い武器があればいい。地竜の剣辺りがいいだろう」
地竜の剣は市場価格が数百万に達する武器とあって、ブランタークは声が出そうになった。
(まるで子どもに玩具を買い与えるかのように気軽に高額品を……なんということだ)
ビルキットが現れてからたった数分、すでにこの場の主導権は彼の手に渡っていた。
鉄人団のメンバーはビルキットに賞賛の言葉を口にして敬っている。
その様子にブランタークはどこか空虚なものを感じてしまった。
(いや、勝てばよいのだ)
自身の心に立ち込めた暗雲を振り払って、ブランタークはビルキットに感謝した。
これで鉄人団が栄光を取り戻すのであれば、と。
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