GVG(ギルド対ギルド)の決意
「すまない」
ギルド本部に帰るなり、シェリナさんがオレ達に頭を下げた。
言わんとしてることはわかる。
流れで鉄人団とのGVGを決定してしまったんだからな。
シェリナさんの性格上、本来はこういう大切なことは勝手に決めないだろうな。
ましてやリクなんかGVGの存在すら知らなかったほどだ。
そんな初心者を抱えているのに今回の決定だからな。
いや、オレも同罪なんだけどさ。
「仲間を守るためとはいえ、つい感情的になってGVGに持ち込んでしまった。異論があるなら甘んじて受け入れる」
「異論なんかあるわけねえっすよ! あのクソオヤジどもをぶっ潰してやりましょうや!」
「バゼル、感謝する。他の皆はどうだ?」
「え? お、おう! 皆はどうよ!」
めちゃくちゃ熱を入れて賛成したのにあっさり流されたバゼル君かわいそう。
シェリナさんもシェリナさんでもう少し感謝の気持ちを込めて言ってやってもよかっただろうに。
それが素なのはわかっているんだけどさ。
「んー、うちとしてはGVGそのものより条件が気になるなー。ギルドポイントはどない感じや?」
「まだ申請をしていないから何とも言えないが、おそらく5000ポイント程度だろう。鉄人団との戦力差はほぼない以上、妥当なところだな」
「5000か。まぁまぁやな」
「メルチャとしては異論はないのか?」
「せやな。割に合わん相手っちゅうわけでもない」
GVGでの勝利報酬としてのギルドポイントは相手ギルドとの戦力差が考慮される。
相手がこちらより下なら獲得できるギルドポイントが下がり、上なら上がる。
これは単純に弱いものいじめ防止のためだ。
他にも互いの勝利時の約束事があまりに過激だった場合も承認されない。
例えば勝ったギルドが負けたギルドを処刑するとか、奴隷にするなんてのもNGだ。
ただこの辺の匙加減はGVG管理委員会の中の人次第だから何とも言えない部分ではある。
それと勝負内容には厳正な審査があり、ギルドポイント稼ぎの自作自演とみなされた場合は厳しい処分が下る。
例えば一人でギルドを二つ作って戦わせて、片方を稼がせるとか。
もちろん違う人間同士で結託した場合も同様だ。
ゲームだと確かバレたら垢バン&永久追放だったかな。
「フーイーはどうだ?」
「え、その、た、対人戦とかやったことないんで……」
「経験は気にしなくていい。GVGに異論があるのであれば遠慮なく言ってもらいたい」
「……ないです」
フーイーが両手の指でツンツンしながら答えた。
このギルドは特にユユルを初めとした女性陣同士の仲がいい。
フーイーとしてもユユルのためなら戦いたいという気持ちがあるのかもしれないな。
「ユユルちゃんを……あんなに怖がらせたのは許せないし……できれば脳天を矢で貫きたい……」
「わかった。フーイー、当てにしているぞ」
ボソッとすごいこと言わなかったか?
実は一番対人戦に向いているまでありそうだな。
なんか急に弓の手入れを始めたし、今からでも殺る気じゃないか。
「ユユルちゃん……大丈夫だからね。私が射殺するから……」
「う、うん……」
本人もドン引きしてるけど大丈夫か?
あいつは心配ないとして最後はリクか。
何せGVGすら知らなかったほどだから、対人戦なんて普通は拒否してもおかしくない。
そのリクは不安そうにソファーに座ったまま俯いている。
「リク、正直に言っていいんだぞ」
「やるよ」
オレがリクに聞くと顔を上げた。
雰囲気的にびびってると思ったけど、まさかの即答か。
「オイラ、皆のサポートができればいいやって思っていたけど……。ユユルねーちゃんがあんなに怖がってるの見たら、なんだかやらなきゃって思ったんだ」
シェリナさんはリクに「よく言った」とは言わない。
自分がリクにそう決心させてしまったと自覚しているからだ。
「ありがとう。そしてすまない」
「謝らなくていいよ! でも、ちょっと怖いかな……」
リクが一応決心してくれたものの、ユユルはまだほとんどしゃべっていない。
ユユルも戦力である以上はトラウマを乗り越えて決心してくれないとこの戦い、勝ち目はないだろう。
それにただでさえ対人戦は向きと不向きが色濃く出る。
単純な強さだけの話じゃなくて、精神的な面だ。
GVGは何も互いに確執がある場合のみやるわけじゃない。
実力試しや親善試合の感覚でやることのほうが多い。
つまり恨みもない人間相手にどこまで本気で戦えるか、だ。
意外と割り切れない人も多くて、実はオレもどちらかというとこっちだったりする。
格闘技なんかも同じだ。
センスはあるのに恨みがない人間を殴ることに抵抗があってやめてしまう人がいると聞いた。
ましてやユユルの場合、嫌な因縁がある相手に対して明らかに気落ちしている。
問題はそのユユルの答えだ。
シェリナさんがユユルの手を握って真っ直ぐ目を見る。
「ユユル、今回の目的はあくまでお前を守ることだ。お前のGVGへの参加は強制しない」
「そ、そう……じゃあ」
「待った」
オレがユユルの言葉を遮った。
シェリナさんとユユル、皆の視線が刺さる。
「ユユル、心配ない。お前は今回、支援に徹してくれ」
「え? あの、ウィムさん?」
「シェリナさんはお前を守ろうとしてくれている。だけどオレとしてはお前も一緒に戦ってほしい」
ギルド内が静まり返った。
何か言いたそうなバゼルが口を開きかけたけど、オレが片手で遮る。
「ユユルはクロスホープという新たな居場所を手に入れた。クロスホープがお前にとっても大切な場所なら、協力してくれ」
「おい、ウィム! てめぇ!」
「バゼルは黙っててくれ」
興奮気味のバゼルを相手にしないでオレはユユルだけを見た。
ユユルは目を合わせないものの、何かを考えている様子だ。
「いいか、ユユル。ヒーラーはパーティにとって重要だ。だけど中には守られることに慣れて調子に乗って傲慢になる奴も少なくない。オレはユユルにそんな風になってほしくないし、クロスホープの皆はお前のために戦う決心をしてくれている。だからお前も皆の想いに応えてくれ」
「ウィムさん……私……」
「オレは根拠なくこんなことを言ってるわけじゃない。お前は強い。その辺のヒーラーなんか比較にならないほどにな」
「私が……」
「考えてもみろ。経験が浅いのに獣の穴であそこまで戦える奴なんてほとんど知らんぞ。これでもオレの言葉が信用ならないか?」
ユユルが杖をぎゅっと握った。そして俯いていた顔を上げる。
「ウィムさん……私、皆さんの好意に応えます」
「ありがとう、お前がいてくれないと始まらないからな。なぁに、うちには優秀な前衛クラスがいるだろ? 必ずお前を守ってくれるし、オレもついている」
「はいっ!」
今回は出なくていい。そう言って安心させるのは簡単だ。
だけどその優しさがユユルのためになるか?
これから先、鉄人団なんか比較にならない魔物や人間と戦う機会がくるだろう。
その時になって逃げ癖がついていたらどうだろう?
今回の戦いで完璧な動きはできなくても、立ち向かうことから逃げてはいけない。
泳げなくても少しずつ水に慣れていくように、今回の戦いも糧にしてほしい。
「ユ、ユユルちゃん。大丈夫なのか?」
「バゼルさん、心配かけてすみません。大丈夫です、ウィムさんのおかげで決心しました」
「そ、そ、そうか。ウィムのおかげか……」
なんかちょっと切ないバゼル君。
お前はシェリナさんかユユルのどっちかにしろよ。
「ユユル、私からも礼を言う。不甲斐無いギルドマスターかもしれないが、仲間を守るためなら全力を尽くす」
「シェリナさん、ありがとうございます。GVGの申請をお願いします」
「あぁ、行ってくる」
シェリナさんがギルド本部から出て冒険者協会へと向かう。
そして今日の夕方、GVG管理委員会から正式にクロスホープVS鉄人団のGVGが承認された。




