鉄人団、再び
「ユユル、まさかクロスホープに拾われていたとはな」
突然現れてなに言ってんだこのチョビヒゲ野郎。
その態度からして微塵も自分の行動を疑っていない。
もしかしてこの流れでユユルがはいそうですねと戻ると思ってるのか?
そうならないのはユユルの様子を見れば一目瞭然だ。
さっきまでの元気が消えて、今はオレの後ろに隠れている。
「な、なんですか」
「そう構えないでほしいのである。あの時は私もどうかしていたのである。ユユル、クロスホープでヒーラーをやっているのであるな?」
「だったらどうなんですか……」
「うむ、たかがルーキーギルドのクロスホープが獣の穴の最深部まで攻略した……これは間違いなくヒーラーのお前が加入したからである」
なに言ってんだこのチョビヒゲ野郎。
こいつまさかヒーラーの有無ですべてが変わるとか思っているのか?
確かにユユルが抜けた鉄人団にヒーラーが見当たらない。
これは完全にオレの偏見だけど、こいつらはユユルが抜けたことによって大幅に戦力ダウンしたんじゃないか?
感情的になって追い出したはいいけど後釜が見つからなくて途方に暮れていた。
だから藁にもすがるようにこんなところにまで足を運んだ。
何も知らない将来有望なヒーラーでもいれば儲けものだからな。
残念だけどヒーラーはどこのギルドでも取り合いなんだ。
回復クラスがいなけりゃ話にならないからな。
「てめぇ! 舐めたこと抜かしてんじゃねえぞ!」
「よせ、バゼル」
いきり立つバゼルをシェリナさんが片手で制する。
冷静に見えるけど、たぶん「たかがルーキーギルドのクロスホープが」の下りでたぶん怒らせているぞ。
「お言葉だが、ブランタークさん。ユユルの活躍は否定しないが、獣の穴を攻略できたのは全員が互いを信じて全力を出したからだ。見誤らないでいただきたい」
「そうは言うがな、シェリナ嬢。ヒーラーであるユユルの存在が大きいのは否定できんだろう?」
「大小などない。一人でも欠けていたら今ある結果は出せなかった」
「フッ、まぁいいである。ではそう主張するのであれば交渉するである。ユユルをこちらに引き渡していただきたいのである。もちろん相応の金額は用意するである」
「断る」
ひゅー、即答だよ。
金さえ出せばユユルを突き出すと思っているのか。
それに応じたらオレ達がユユルを売ったことになるだろう。
こんな大勢の前でそんな恥知らずな真似をするわけない。
シェリナさんが冷めた目でブランタークを見ている。
「金額は300万ゼルでいかかであるか?」
「聞こえなかったのか? 断ると言っている」
「さ、300万ゼルであるぞ!」
「くどい。私が何も知らないとでも? あなた達のユユルに対する仕打ちはしっかりと聞いている」
「ぬぅぅ……!」
ブランタークが不機嫌そうに唸る。
交渉なんて偉そうに言っているが、提示する金額がしょぼすぎる。
300万ゼルなんて廃人装備の一つすら買えない。
ふざけた交渉を持ちかけてユユルを怯えさせやがって。
この怯えよう、どれだけひどい扱いを受けたって言うんだ。
オレは我慢ならずにチョビヒゲ野郎の前に立った。
「チョビヒゲのおっさん。300万ゼルもあるなら、仲間の装備を何とかしてやれよ」
「な、なんだ、この小僧め! 装備なら徹底しているではないか!」
「どこがだよ。そこのデッセンなんか安物の装備だろ。それじゃヒーラー以前の問題だぞ。装備がしょぼいとそれだけダメージが蓄積しやすいからな」
「それはこいつらがうまく戦わんからである! それにヒーラーさえいれば何とかなる!」
話にならないな。
大体こいつら8人に対してユユル一人で支援できるわけない。
よっぽどの熟練者ならやれないこともないけど、ろくにノウハウも知らないんじゃ無理だ。
TP管理の難しさすら理解してない脳筋集団に理屈を理解させるのは難しそうだな。
「ユユルねーちゃんをいじめていた奴らのくせに今更なんだよ!」
「金額を提示したからはいよこせで取引とか、舐めとるんちゃう? 大体ユユルちゃんなんか300万どころか億積んでも全然足りひんで?」
「おうよ! これ以上ユユルちゃんに手ぇ出すってんなら俺が潰す!」
リク、バゼル、メルチャによってブランタークが更に気圧されている。
ブランタークの横でデッセンが睨みを利かしているな。
お前、散々バカにしてきたくせにカエントカゲを討伐したオレに謝らなかったのは忘れてないからな。
「こ、この弱小ギルドめ……!」
「なぁ、ここで揉め事を起こしてなにかいいことあるか? 気に入らないなら一つだけ方法があるだろ?」
「方法だと?」
「まさか知らないのか? しょうがないな、シェリナさん。どうする?」
オレがシェリナさんに振ると、わかっているとばかりにブランタークを指した。
「鉄人団。引き下がらないのであればGVGで決着をつけよう」
「じ、GVGだとぉ! 正気か!」
「それはこちらのセリフだ。まさか散々ふざけたことを抜かしておいて、GVGを受ける覚悟がないとでも?」
「う、うぬぬぬぅ! ほざきよったな! いいだろう! 受けて立つ!」
おぉ、てっきり引き下がるかと思ったけど度胸があるな。
などと感心しているとリクがオレの手をくいくいと引っ張る。
「兄貴、GVGってなに?」
「GVGはギルドバーサスギルド、つまりギルド同士での戦いだ。揉め事が起こった際にこれで決着をつければ望みを通せる。例えば今後一切ユユルに近づくな、とかな」
「へぇーーー! でもあいつらが約束を破ったら?」
「GVGで決めたことは絶対だ。もし破れば冒険者協会から厳しい処分が下る」
「きびしーー!」
「でも勝てばギルドポイントが貰えるぞ」
ギルドポイントで拠点を大きくするのもよし、ギルドダンジョンを獲得するのもよし。
これは一応ギルドメンバーが戦った際にも獲得できるけど微々たるものだ。
大きいギルドポイントを得るにはレイドクエストやGVGをこなす必要がある。
今のクロスホープのギルドポイントはシェリナさんが管理している。
使い道は今後の相談によって決めていくだろう。
「では成立だな。後日、条件をまとめて冒険者協会に申請を行う」
「我々が勝った際にはユユルをいただく! それに加えてシェリナとそこの小僧! 貴様らには私の靴を舐めて謝罪させるである!」
「謝罪だと……?」
ブランタークが呼吸を荒げながら、オレを指す。
「当然である! 特にそこの小僧は少し活躍したとはいえ、しょせんはウィザード! 現実を思い知らせてやるである!」
「あ? 上等だよ。てめぇこそ二度と冒険者をやろうなんて思えないほどにぶっ潰してやるよ。そこの落ち武者ハゲと一緒にな」
気が付けばオレはシェリナさんを差し置いてブランタークに啖呵を切っていた。
一瞬だけまずいとは思ったものの、シェリナさんはオレを咎めない。
ゴブリンレイドの時に散々見せつけてやったのにまだ理解してないみたいだな。
だったら直接身に染みこむほど教えてやるだけだ。ウィザードの強さをな。
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