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戦いのコツ

 皆の希望で冒険者ギルドの訓練場で、戦い方のコツみたいなものを教えることになった。

 ウィザードのオレが前衛クラスにそんなもん教えるというシュールさがなんとも言えない。

 ただコツといってもオレは別に戦闘のプロってわけじゃない。


 ゲームで培った魔物の行動パターンや動きに合わせて攻略しているだけだ。

 ゲームだからもちろん繰り返し死に覚えてようやく身に着けた。

 ノーミスボス攻略動画なんてものも上げていたくらいにはやり込んでいたな。


 オレは素早さにほとんど振ってないけど本当は基本的にもっと振ったほうがいい。

 シェリナさんみたいなタンク役や支援特化型はともかくとして、素早さが高ければ動きが速くなる。

 素早さが低いと目に見えていて頭でわかっていても回避できないことがある。


 オレみたいにギリッギリの素早さで頑張っている奴なんてほんの一握りだ。

 というわけで皆の素早さを聞いたところ、リクやバゼルはきちんとしている。

 ユユルもオレが指導した甲斐があって順調だ。


「フーイーはまったく素早さに振ってないんだな」

「だってぇ……」


 五メートルくらい先からフーイーがモジモジして答えた。

 アーチャーでも最低、10程度は振ったほうがいいんだがな。

 ただ無振りで生き残ることができているのは、この天性とも言える距離感のおかげだろう。


 敵に近づかれる前に仕留められる距離を一瞬で判断して立ち位置を決めている。

 アーチャーはあまりやり込んでないといえど、さすがにオレにも無理だ。

 試しに一歩だけ近づいたら同時に一歩下がった。お前はダンジョンの仕掛けか。


 オレ達が集まっていると、訓練場にいた冒険者がヒソヒソしている。

 まーたウィザード差別か?


「もしかしてあいつらが獣の穴を攻略したギルドか?」

「勇姿の剣の奴らが騒いでたもんな。ウィザードがとにかくとんでもなく強かったとか……」

「どうせデマだろ? ドルバーサはLv【50】のパーティでも壊滅するくらいやばいんだぞ?」

「まぁクロスホープなんて聞いたことないもんな。見ろよ、メンバーがほぼ下位クラスだらけだ」


 おいおい、獣の穴を攻略したくらいで噂が立つのかよ。

 いや、くらいでなんて言っちゃダメだな。

 でもこの王都なら上位クラスどころか最上位クラスの人間だっているだろ。


 オレ達みたいな新興パーティが獣の穴を攻略したからって騒ぐほどじゃないと思うんだが。

 でもここにはあいつらを除いて上位クラスらしき人間はあまりいないか。

 ゲームでも初心者修練場と呼ばれていた場所だからな。


「気にせず始めよう。ただなぁ。戦いのコツなんだが、これは相手の動きをよく見ろとしか言えないんだよな」

「よく見てるんだけどなぁ」

「リク、本当に見ているのか? 相手の攻撃前の動作とか、動き方のパターンを把握するってことだぞ。例えば先日のバーサは【ぶん回し】前に一瞬だけ肩をだらりと下げるんだ」

「えーーー! そうなの!?」

「ほんの一瞬だし普通はわからないから教えなかったんだ。そればかりにこだわって殺される……なんてことがよくある」


 主にゲームの中でな。

 初心者ほど意識しすぎて動きが雑になる。

 それにここはゲームの中じゃないから、死に覚えなんて出来ない。

 ましてや魔物の数なんて無数にいるからな。

 例えばバーサの動きを覚えたとしても、バーサ相手にしか通用しない。


 かくいうオレだってまったくのペナルティなしで死んだわけじゃないんだ。

 死んだらペナルティとして経験値の2%が失われてしまう。

 たった2%と思うところだけど、高レベルになるほどこれが響いてくる。

 一日かけて2%の経験値を稼いだのにたった一回のミスで無駄になった時にはすべてのモチベーションが消し飛ぶ。


「例えばバーサは攻撃の感覚が長いから、大体タイミングが読める」

「じゃあ兄貴はバーサと何回も戦ったことがあるの?」

「バーサとは戦ったことがない。ただし親父の横でずっと戦いを見ていたからな。そういうので見切りのコツとか身に着いたんだろう」

「見ていただけで! さすが兄貴だ!」


 リクは純粋で助かる。もちろんウソだ。

 親父はオレを狩場に連れていったことなんてない。

 我ながらとんでもなくデタラメなことを言ってるな。


「だからまぁ……一つの狩場でずっと戦い続けるのもいいんじゃないか? 例えば獣の穴でずっと戦っていれば、あいつらの攻撃に慣れてくるからな」

「なるほどー! じゃあレアドロップ狙いも兼ねて一つの狩場に絞ればいいんだ!」

「ただし一番大切なことがある。何かわかるか?」

「大切なこと……」


 リクが考え込んだところでバゼルが手を上げた。

 別に授業じゃないんだけどな。


「おっす! 必ずぶち殺すって気合いだな!」

「それも大切だけど、ぶち殺されたら元も子もない」

「じゃあやっぱり気合いだろ!」

「戦いの場で気合いがないとか論外だろ。大切なのは引き際だ」

「引き際ァ!?」


 顎が外れんばかりにバゼルが驚いている。

 こいつは言葉選びといい、リアクションも古いな。


 フーイーを見てみろ。

 済ました顔で、なに当たり前のこと言ってるのと言わんばかりだ。

 シェリナさんなんか張り切る我が子を見守るかのような態度だぞ。

 オレは一体なにをさせられているんだか。


「そう、引き際だ。まだいける、あと少しで倒せる。そんな気持ちは誰もが持っている。だけどそれが命取りになる場面は多々あるんだ。うまい人間はそれを理解して退く。だから生き残る、だから強い」

「あぁ、確かにそれはあるかもな……」

「だろ? オレも他人のことは言えないんだけどな。だからこそ、これが一番難しい。生き残ればまた強くなる機会があるから、引き際を常に頭に入れておくのが大切だ」

「お前、すでに熟練の風格があるんだが本当に冒険者になり立てか?」


 そこはタブーなんだ。

 転生者ですと発言してこの場にいる何人が納得するだろうか?

 ファンタジー世界だから意外と許容されないかな、と考えたこともあるけどさ。


「ウィムさん、それじゃとにかくいっぱい殴って強くなればいいんですね!」

「ユユル、わかってそうでわかってないな」

「うぅーー! 早く狩りに行きたくなりました!」

「こんなにアグレッシブなヒーラー見たことない」


 オレのせいでもあるんだが、何かに目覚めさせてしまったみたいだ。

 メイスをぶんぶん振ってはその辺にいる冒険者に目をつけている。

 私と一戦交えませんかと言わんばかりにな。


 そんなユユルへ近づく冒険者達がいた。あれは確か――

 

「おい、貴様。まさかユユルであるか?」

「え? ブ、ブランタークさん?」


 そこに現れたのはかつてユユルが所属していた鉄人団の連中だ。

 ギルドマスターのブランターク他、落ち武者頭のデッセンの姿もある。

 確か全員が前衛クラスという極端なギルドだったか。


 こいつらが現れた途端にユユルは急に元気を失った。

 かすかに後退して怯えている素振りすら見える。

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