ウィザードの真価とレベリング
王都クリンディラの北に広がる広大なフェルムの森は様々な魔物が生息している。
西のムルクード王国を初めとして、様々な方面へ繋がっていた。
その中には中級者向けから上級者向けのダンジョンもあり、うっかり迷い込むと大変なことになる。
オレの手持ちはというとわずかな金と保険としてポーションとグリーンポーション一つずつのみだ。
生活はいつもカツカツで貯金なんかする余裕がなかったし、しょうがないな。
母親には健康的な体に生んでくれたこと、親父にはオレに食わせてくれて感謝している。
フェルムの森に足を踏み入れると、最下級の魔物であるゴブリンが遠くをうろついていた。
前衛クラスならあれを狩ってコツコツとレベリングをするんだけど、オレは戦わない。
大前提としてウィザードは非常に打たれ弱い。
ゴブリンとはいえ、接近して殴られたらウィザードでは耐えられないのだ。
この時点でウィザードのソロがいかにハードルが高いかよくわかる。
何せ普通は誰かとパーティを組むのが定石だからな。
だけどこの世界ではウィザードは残念クラスとして知られている。
オレとパーティを組んでくれる相手はなかなかいないだろう。
根気よく仲間を探し続けるよりはソロである程度レベリングをしたほうがいい。
何せ金策にもなるからな。
ゴブリンを避けながらオレは慎重に森を進む。
目的のあいつはムルクード王国方面とは逆方向にいたはずだ。
西方面をスルーしてオレは北側に進んだ。
そしてついにそいつを見つけることに成功する。
確かあいつの名前とパラメータは――
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ポイズンキャタピラー
Lv :34
HP :344
MP :0
使用スキル:【毒攻撃】
弱点:火
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オレの頭の中には魔物のデータが入っている。
現状のオレのステータスから、被ダメージと敵の命中率もわかった。
オレはほぼ丸腰だから、あいつのダメージをほぼ軽減できない。
ポイズンキャタピラーはLvが【34】とあって、駆け出し冒険者の相手としては適切じゃない。
おまけに【毒攻撃】を持っているから、討伐するならグリーンポーション代もかかる。
あんなの普通はスルーすべき魔物だ。普通なら。
トラベルファンタジーはステータスやスキルゲーと思われがちだが、プレイヤースキルでかなりカバーできる。
プレイング次第ではジャイアントキルも可能だ。やるならこの距離だな。
(ファイアボールッ!)
心の中で念じると三発のファイアボールがポイズンキャタピラーに直撃した。
焼かれたポイズンキャタピラーがオレに気づいて、ノロノロと向かってくる。
落ち着け、少しバックステップで離れてからもう一度!
この距離ならギリなんとかなるはずだ!
(ファイアボールッ!)
ギリギリのところでファイアボールが発動、オレとの距離がわずかのところでポイズンキャタピラーに命中する。
ポイズンキャタピラーがプスプスと煙を立てて動かなくなった。そして死体が消える。
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ウィムはLv【13】 → 【19】に上がった!
クラスLvが【1】 → 【4】に上がった!
【ねっちょりした体液】をドロップした!
【グリーンハーブ】をドロップした!
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実はここに来る前に少し狩りをしてLvは【10】から【13】に上がっていた。
ドロップもいい感じだな。
【ねっちょりした液体】は基本的に換金アイテムだ。
何に使うんだと思ったけど、どうも裏設定でドリンクに使われているとか。マジかよ。
グリーンハーブはアイテム合成の材料になるからそこそこの値で売れる。
クラスLvが上がりにくいのはゲーム準拠だな。
特にこのポイズンキャタピラーはクラス経験値をあまり持っていない。
上位クラスになりたければ、狩場を変えたほうがいいだろう。
さて、ステータスは当分の間、器用さに振ろう。
この器用さはウィザードの場合、実は魔法の詠唱速度に影響している。
だから早まって魔力を上げたとしても、詠唱速度が遅すぎて使い物にならない。
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器用さ:17【+6】 → 【23】 UP!
SPを【3】消費して【ファイアボールLv6】を習得した!
【ファイアボールLv5】以上習得により、新たに【ブレイズ】を習得可能になった!
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【ファイアボール】は下位魔法だけど、Lvを上げるほどヒット数が上がる。
【ファイアボールLv5】は五発ヒットするから、低魔力でもそこそこの威力が出るはずだ。
下位魔法だからと侮ってはいけない。
【ブレイズ】は範囲攻撃としてそこそこ優秀だけど、現時点ではMPがもたないからスルーだ。
単に強い魔法だからと何も考えずに習得する初心者がたまにいる。
ちなみにHPとMPの振り分けはない。
Lvが上がるとクラスに応じて上昇する。
当たり前だけどウィザードのHPの上昇値は全クラス中最低だ。
逆にMP上昇は下位クラス限定ならトップとなっている。
体力はわずかながら被ダメージの軽減と状態異常の被弾率に影響する。
前衛クラスの耐久型だと必須のステータスだが、初心者がやると回復アイテムによる金欠に悩まされるだろう。
魔力はMP回復率や魔法の威力に影響する。
トラベルファンタジーでは休憩することによって少しずつMPが回復するシステムがあった。
素早さは回避率や動きの速さ、攻撃速度に影響している。
プレイヤースキルを駆使するなら実は少しだけ振っておかなきゃいけない。
ポイズンキャタピラー狩りに限れば、あいつらは動きが遅いから接近される前に仕留められるけどな。
仮に前衛クラスがこいつらを狩るとなれば最低でもLv【30】以上と相応の装備が必要になる。
それでも攻撃力が高いから、前衛クラスでは相手にしないほうがいいだろう。
前衛クラスが狩りにくい魔物を狩れるのがウィザードの強みの一つだ。
この調子でオレは二匹目のポイズンキャタピラーを探しに歩いた。
奴らは動きがかなり遅い割に経験値がなかなか多いから捗る。
器用さ【23】もあれば同じ距離でファイアボールを放てば安全性は更に高まる。
ポイズンキャタピラーがオレに気づいたと同時にファイアボールをぶつけた。
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ウィムはLv【19】 → 【22】に上がった!
クラスLvが【4】 → 【6】に上がった!
【ねっちょりした体液】をドロップした!
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今回はねっちょり液だけか。
ドロップにばらつきがあるのはしょうがない。
これでもオレにとっては貴重な資金源だ。
今回のステ振りとスキル振りはこうしよう。
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器用さ:23【+3】 → 【26】 UP!
SPを【2】消費して【ファイアボールLv8】を習得した!
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この調子でレベリングをしていこう。
ここはトラベルファンタジーの世界であってゲームじゃない。
接近されたら即終了、一つのプレイングミスで命を落とす。
ゾクゾクしてきたな。
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