獣の穴 5
冒険者の名前はリード、三人パーティで獣の穴にやってきて四層で戦っていた。
三人で四層まで到達できる時点で実力者だと思うけど、バーサは一体や二体じゃないらしい。
あいつら、大したスキルを持ってないけどとにかくタフで物理攻撃力が高い。
物理防御力が高くて見かけによらず動きが早いから、慣れていないと殴り殺されるだろうな。
クロスホープはもちろん有無を言わさず四層の現場に駆けつけた。
相変わらず迫るワータイガーに加えて、四層から登場するファイアフォックスも地味に厄介だ。
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ファイアフォックス
Lv :38
HP :497
MP :70
使用スキル:【火属性攻撃】【ファイアボールLv4】
弱点:氷
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通称火狐。わかりやすく氷が弱点だけど魔法防御力が高い。
例えばこいつにはオレの【アイシクルLv1】でも半分もダメージが入らない。
本当は【サイレス】があれば戦いやすいんだけどな。
こういう相手には下手に攻撃せずに【ブラインLv1】でサポートに徹するのが吉だ。
ゲームではこいつを初めとして、意外と魔法防御力が高い強敵が多いのもウィザード不遇に繋がった。
確かに今のオレじゃこういう相手にダメージを伸ばすのは難しい。
廃人装備が整えば関係なくなるんだけど、それはもっと先の話だろう。
それに状態異常でサポートするなどやることはある。
火狐はシェリナさんやバゼルを軸に何とかしてもらおう。
基本的には【ブラインLv1】、追加で新しい火狐がやってきたら【ポイズンLv1】をかけておけばいい。
「あ、あんた達強いな……。それにウィザードなのに、なんでそんなに戦えるんだ?」
「ウィザードが残念クラスだなんてのはまやかしだ。よく見ていろ」
リードがポーションを飲みながら、オレに話しかけてくる。
火狐討伐も相まってオレを含めてだいぶLvが上がっているな。
オレもちょいちょいステータスを振り分けながら戦っている。
「ブラインッ!」
「オラアァーーーー! 狐野郎ォォーーーー!」
「やりゃあぁーーーー!」
バゼルとユユルが火狐に二人がかりで挑んでくれるから殲滅速度は早い。
バゼルはああ見えて状況をよく見ているな。
熱くなっても一人じゃ厳しい相手には遠慮なく仲間を信じる。
ただし飛んでくる【ファイアボールLv4】が痛い。
魔法防御力が高いオレを狙ってくれたらいいんだけど、そうもいかないか。
「シェリナさん! ヒールです!」
「ユユル! 助かる!」
お、ユユルの奴やるな。
シェリナさんが消耗しているのをちゃんと見ていたか。
支援型じゃなくても、こうやって痒いところに手が届くのが殴りヒーラーの強みだ。
「いたぞ! あれがバーサだ!」
「八体もいるのかよ。そりゃきついわ」
全身毛むくじゃらの野人、通称ゴリラ。
ボディビルダーも真っ青なほど腕と足が異様に太い。
目玉は突き出さんばかりにギョロリと動かして、猫背でリードの仲間と戦っていた。
前衛が近づくまでに先手でオレとフーイーが仕掛ける。
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バーサ
Lv :43
HP :733
MP :0
使用スキル:【ぶん回し】【ヘヴィストライクLv5】
弱点:火
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【ファイアボールLv10】なら火弱点のバーサを確殺だ。
火狐と違って魔法防御力がそこまで高くないのがありがたい。
フーイーの【ダブルショット】でギリギリまで削って、接近後は前衛クラスが止めを刺す。
開幕で残り五体まで削れたのは大きいな。
「相変わらずクソ火力だな、おい!」
「クソとか言うな! バゼル! 接近後は任せたぞ!」
バーサが両手を組んでバゼルに一気に振り下ろす。
あれは【ヘヴィストライクLv5】だ。
人間側のスキルを敵側が使うことがよくあるけど、モーションは相手によって違う。
こいつの場合は両手を組んで振り下ろす、だ。
見かけによらず攻撃速度が速いから発動までのラグがあまりないんだよな。
見た目脳筋だからって侮っていると痛い目を見る。
「ウガアァァーーーーッ!」
「あぶねっ!」
バーサの【ヘヴィストライクLv5】が危うくバゼルに当たるところだった。
さすが回避型のソードファイターだな。
器用さ全振りのおかげでスムーズにバーサを連続で討伐できている。
バゼルとリク、ユユルでバーサを一体押さえてシェリナさんが残りという配分だ。
バーサの【ぶん回し】は範囲攻撃だから、あまりよくないけどな。
ただやらえる前にやるの精神で早期決着をつけるというのも正しい。
そしてリードが仲間達と合流したようだ。
「リード! 応援を呼んできてくれたのか!」
「あぁ! クロスホープとかいうギルドらしい!」
「聞いたことないギルドだけど強いな……。あのバーサが次々と倒されていく……」
「特にあのウィザード、バーサを一撃だからな」
それからリードの仲間達は今、メルチャの回復アイテムで補給している。
気持ち的には生き返ったといったところか。
「ほな、一つ500ゼルでどうや?」
「え?」
「まぁツケにしておくわ」
「えぇ?」
商魂たくましいな。
リード含めて全員がドン引きしてるぞ。
オレとしてはレイドクエストと違ってそこまで求める必要はないとは思うけどな。
狩場での助け合いは冒険者の義務とも言える。
「よっし! 残り三体!」
「残りはオレがやる! ファイアボール!」
バゼル達のおかげで一体をファイアボールで仕留めることができた。
この隙に消耗したバゼル達がポーションで補給、シェリナさん側にオレとフーイーは支援攻撃をした。
シェリナさんは苦しそうながらも、バーサの猛攻に耐えている。
あれだけの数のバーサを押さえるなんて、さすがは上位クラスだ。
いや、あの人の実力が単純に高いだけか。
オレが見ている限りでは大手ギルドから抜けていいような人じゃないんだよな。
むしろ引く手も数多だろうに、あの人はあえてクロスホープを設立したわけだ。
シェリナさんも皆と同じく訳アリってことか。
「フーイー! 終わらせるぞ! ファイアボール!」
「ダブルショット!」
オレ達二人の攻撃で残りのバーサがようやく倒れてくれた。
それにしてもフーイー、戦闘になると普段からは想像もできないほどの声を出す。
そして終わるとまた静かになる。
「フーイー、お疲れ様」
「あっ、おちゅっ、かれっ!」
握手を求めようとしたら一瞬で距離を取られてしまった。
嫌われているわけじゃないとわかっていても、ちょっと悲しいものがある。
「クロスホープ! 助けてくれて感謝する! あなたがギルドマスターか?」
「あぁ、シェリナだ。そちらは?」
「俺達は勇姿の剣ってパーティで活動している。俺がクルース、あっちがリードとガムルブだ」
男三人の好青年パーティだ。装備を見る限りではかなり強い。
リードがソードファイター、クルースがヒーラー、ガムルブがウォーリアだ。
ウォーリアはソードファイターの重装備版で、下位クラスのタンク役を担える。
ウォーリアのガムルブとヒーラーのクルースだけであいつらの相手をしていたわけか。
だけどあと少し遅かったら取り返しがつかない事態になっていたのも事実だ。
「本来、あのバーサ達は五層にいるはずだ。なぜ四層にいる?」
「それはわからない……」
シェリナさんが疑問に思うのも当然だ。
オレはクルースの目が一瞬だけ泳ぐのを見逃さなかった。
「俺達が五層のドルバーサに挑んだからだ。クルース、正直に言おうぜ」
「リード!」
おいおい、助けられておいてウソついたのかよ。
仲間のフォローがなかったら黙ったままだったわけだ。
まぁそんなところだと思ったけどな。
前世のゲームでもこういうことはよくあった。
強敵と戦ったはいいけど敵わなくて逃げた際に、他の人間に押し付けてしまうケースがある。
五層のドルバーサから逃げてきた時に取り巻きのバーサが追いかけてきたんだろう。
敵わなくて逃げることは誰でもあるから、これ自体はしょうがない。
ただしここはゲームじゃないから階層をまたいで逃げたところでバーサは諦めないだろう。
今回はオレ達がいたからよかったものの、そうじゃなかったら多くの犠牲者が出た可能性がある。
オレはシェリナさんより前に出た。
「お前らはもう帰れ。もしオレ達も敵わなかったらどうなっていたかわかるだろ?」
「すまない……」
三人が出口に向かって歩き始めた。
メルチャがとことこと追いかけて、クルースの肩をつんつんと叩く。
「これ、回復アイテム代の請求書な!」
「え、あ、あぁ、えっと……」
「えぇ! 恩人にウソついて欺こうとした上に払わんって!? そういう不誠実なのはあかんで!」
「い、言ってない! だけど手持ちがないんだ!」
「じゃあ住所が書かれたメモ渡しておくわ! 払わんで逃げる真似せえへんと思うけど……妙な噂が立つの嫌やもんな?」
メルチャのウインクですべてが伝わったようだ。
三人が目に見えてブルってる。
商人同士のネットワークってやつか。
あいつの強さは戦闘じゃ発揮されないのがよくわかる。
オレとしてはそこまでする必要はないと思うけど、あえて止めなかった。
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