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獣の穴 3

「いやぁー、うちのギルドに来てくれるなんてユユルちゃんはお目が高いでぇ!」

「は、はぁ……」


 メルチャがユユルの手を握って上下にぶんぶんしている。

 他人との距離を一瞬で詰める奴だな。さすが商人。


 クロスホープの面々にユユルを紹介すると、驚くほど簡単に受け入れられた。

 元からこうする予定だったけど万が一でもユユルがよろしくない人間だったら困る。

 だからユユルの実力以上にオレはどういう人間か見極めていた。


 結果はたぶん問題ない。

 少しずれているところがあるけどモチベーションは高いし、アドバイスもよく聞く。

 地道な練習も嫌な顔一つせずに積み重ねて強さに対して正直に向き合っていた。


「シェリナさん、ユユルの型は殴りヒーラーだけど下手な前衛より役立つはずだ」

「フフ、お前が認めたのだから心配はしていない」


 ギルドマスターのシェリナさんが問題なく受け入れてくれたのも安心している。

 この人は強さ云々よりも人間性を重視するタイプに見えるな。

 ここにいる人間は決して高Lvの冒険者じゃないけどいい奴らばかりだ。


 唯一、チンピラのバゼルがどう当たるかだが――


「おいおい、ウィムよぉ。下手な前衛ってのは誰のことだよ?」

「誰もお前のことだとは言ってないぞ。というか十分強いだろ」

「バッ、おまっ! わかりすぎてんなぁ!」


 まぁちょろいな。

 調子に乗ってユユルに握手を求めて、オレが守ってやるだのなかなかのテンションだ。

 たぶん今のあいつよりユユルのほうが経戦能力が上だけど、めんどくさいから黙ってよう。


「バゼルさん、頼りにしてますね!」

「えっ!? で、でもオレにはシェリナさんが……」

「は?」


 なんか赤面してるけど大丈夫か、あいつ。

 勘違いしてやらかしそうなタイプに見えるんだが。

 女に免疫がない奴の特徴が出まくってるな。

 いや、オレもたぶん人のことは言えないんだが。

 

「ユユル姉ちゃん! レアアイテムが出たらオイラがプレゼントしてあげるね!」

「楽しみにしてますね」


 リクの純粋なコミュニケーションに心が洗われるな。

 そこで先を越されたと言わんばかりにぐぬぬしているチンピラは少し見習ったほうがいい。

 そしてフーイーは相変わらず距離を――え?

 なんか普通に距離を詰めてるんだが?


「ユユル、よろしく」

「フーイーさんですね、よろしくお願いします」


 あぁアレか。女の子同士なら問題ないのか。

 考えてみたらいつもシェリナさんかメルチャの隣に座っているもんな。

 

                * * *


 クロスホープの皆で獣の穴を攻略することになった。

 どうやらオレが知らないところで他の皆もレベリングしていたらしく、ギルドの平均Lvは30を超えている。

 50万ゼルで武器や防具を新調したおかげでゴブリンレイドの時より強くなっていた。


「兄貴、三層にいるワータイガーからレアドロ狙おうよ!」

「ワータイガーのレアドロップといったら闘魂のハチマキか? 魔石もそこそこ有益だったな」

「そうそう! さすが兄貴、よく知ってる! 前衛クラスならあると嬉しい装備じゃない?」

「確かにな。お前の【お宝ハンター】があればレアドロゲットも夢じゃない」


 リクのシーフのスキル【お宝ハンター】があればドロップ率が上昇する。

 だけどこれを習得すると優秀なスキル【ポイズンダガー】や【ナイフ投げ】のLvを削るか諦めなくちゃいけない。

 でもリクは上位クラスであるアサシンへの転職を目指していないと言っていたからな。


 目指しているのは上位クラスの妨害サポート型のローグだ。

 成長すれば敵の装備を剥いだりパラメータを下げることができる。

 オレやシェリナさんのアドバイスを聞いて、目標に向かって邁進中だ。


「本番は二層からだ。ワータイガーはゴブリンと同じくリンクする。かなりの数に囲まれるだろう。打ち合わせ通りシェリナさん、タンク役を頼む」

「あぁ、任せておけ。ウィム達は安心して後方で戦ってくれたらいい」


 前衛はシェリナとバゼルだ。

 ユユル、フーイー、リクには二人が漏らした敵を仕留めてもらう。

 オレは後方でその場の判断で優先すべき敵を討つ。


 メルチャは今回、完全にアイテム補給要員だ。

 さすがに商人にワータイガーの相手をさせるのは酷だからな。

 

「こんなの、は、初めてです……」

「ユユル、鉄人団ではこういうギルド狩りにはいかなかったのか?」

「いえ、私はいつも怒鳴られていましたから……。こういうのは慣れてなくて……」

「あぁ……」


 確かに仲間と戦うってことは互いに信頼し合ってないと成立しないからな。

 それがなければただの主従関係における作業でしかない。

 シェリナさんはユユルの実力を知らないのに信用してくれている。

 オレが連れてきたからってのもあるけど、引き入れたからには絶対に軽んじたりしない。


 二層に辿りついて、オレ達はできるだけフォーメーションを崩さずに歩いた。

 オレ達を見つけたワータイガーが二体ほどやってくる。

 ワーウルフより動きが速くて、索敵からの戦闘までが恐ろしくスムーズだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━

ワータイガー

Lv  :30

HP  :266

MP  :0

使用スキル:【スピードフォース】【追加攻撃】

弱点:地

━━━━━━━━━━━━━━━━


「来たな。ファイアボールッ!」


 弱点は地だろうが関係ない。装備がパワーアップしたおかげで確殺だ。

 残り一匹をバゼルが相手にしている横から新たに二匹現れた。

 シェリナさんが二匹抱えて、また新たに三匹。


 ちょっとペースが早いな。リンクはこれが厄介だ。

 リク、ユユルが一匹ずつ相手にしてオレが再びファイアボール。

 そして新たに四匹。いや、多いって。


「チッ! 数だけは多いな!」

「バゼル兄ちゃん! 助けるよ!」

「悪いな!」


 バゼルにリクが加勢してまとめて四匹を相手にしている。

 リクはこんな時でも【盗む】を使う余裕があるみたいだ。

 この前のゴブリンレイドの時と比べて明らかに強くなったな。


 オレも負けてられないな。

 数が多いから一匹ずつ片づけるよりは【アイシクルLv1】で削ろう。


「アイシクルッ!」


 ワータイガーを二匹まきこんでアイシクルを放った。

 ところがワータイガーを二匹とも倒せてしまう。

 これは、うん。思ったより装備による補正が大きいな。


 装備で魔力が上がったおかげで確殺数が変わったんだ。

 今やこの程度の魔物なら【アイシクルLv1】で確殺できる。


「ウィムさん、す、すっご……」

「ユユル、これがウィザードだ」


 なんてついドヤ顔してしまった。

 ウィザードが弱いなんてのは誤りだ。

 ワータイガーと同レベルの前衛クラスが一匹を相手にしている間に、オレはまとめて二匹討伐できる。


「ひゅう! さすがウィムだぜ! オレも負けてられねぇな! オラオラオラァ!」


 バゼルがより気合いを入れてワータイガーに挑んだ。

 散々罵倒されてきただけに、素直に褒められると気持ちいいな。

 とはいえ、TP管理を間違うと何もできなくなる難しいクラスでもある。


 今はメルチャがTP回復アイテムのマナポーションを持っているけど、これに甘えていたら枯渇する。

 普段からTPを意識して動かないと、いざという時には一瞬で底が尽きるのがオチだ。

 ましてやこの魔物の数だからな。


(魔物の数……)


 ふと疑問が湧き上がった。

 ゲームの時は自動的に魔物がポップされたけど、この世界ではどうなってるんだ?

 まさかこの獣の穴にこれだけのワータイガーが生息してるってのか?


 ボスモンスターなんかもそうだ。

 特にここの最下層にいるあいつはとっくに討伐されていてもおかしくない。

 それなのに露店にはボスモンスターのレアドロップ品が売っている。


 ゲームとは違う生息地でもあるのか?

 それとも――


(そんなことは今はどうでもいいか)


 どうにもこの数を相手にしているうちに、いらんことばかり考えてしまう。 

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