ヒーラーのあれこれ
オレとユユルは適当な喫茶店に入って席に着いた。
それぞれ一番安い品を注文して腹ごしらえをしつつ話を聞くことにしよう。
「私が悪いんです。雇ってもらったのにろくに支援もできなくて……」
「ゴブリンのレイドクエストの時だろ? 見てたよ。ありゃどう考えてあいつらが悪い」
「そ、そんなことはないですよ」
「本当にそう思ってるか?」
「……拾ってもらった人にそんな風に思いたくなくて」
オレが追及するとユユルは黙ってしまった。
それから話してくれた内容によればユユルは孤児院育ちで、両親はいない。
そのまま順調な人生を歩めばよかったけど、孤児院の院長は成長した孤児達にある命令を下した。
それは冒険者になって稼いで恩返しをしろというものだ。
院長は孤児を引き取っては冒険者をやらせて私腹を肥やしている。
何人も冒険者にさせたものの、怪我をしたり帰ってこない子もいた。
それでも院長にとってはどうでもよかったんだろうな。
数うちゃ当たるの理屈で、とにかく孤児達を拾っては冒険者デビューさせた。
なんでそこまで冒険者にこだわるのかわからなかったけど、院長は冒険者をやって挫折したらしい。
自分の夢を子ども達に叶えさせることによって承認欲求を満たしたいようだ。
とんだ馬鹿野郎もいたものだな。
ユユルは院長によって送り出された後、ヒーラーになった。
とても前衛で戦う勇気や力がないと思ったからだそうだ。
「それで院長の言う通り、冒険者をやっているわけか。お前自身はどう思うんだ?」
「ど、どうとは?」
「冒険者をしたいと思っているのか?」
「いえ、それは……」
嫌々やったところでモチベーションなんか上がるわけない。
更にようやく拾ってくれたギルドがブラックときたら、もはや生きる意味さえ見失うだろう。
ユユルはテーブルに視線を落としたままだ。
どうも孤児院の院長は善意の人として知られていて、多くの人達が多額の寄付や支援を行っているらしい。
でも実際は体罰がひどくて脱走した子もいるそうだ。
そんな中、ユユルは自分を育ててくれた院長への恩返しだと思い込んで生きてきた。
ここで冒険者なんかやめて他の仕事をしながら慎ましく暮らせなんて言うのは簡単だ。
だけどオレとしては危険と隣り合わせの冒険者という仕事にやりがいを見つけ出してほしかった。
それにここでリタイアしたら院長はともかく鉄人団に屈したことになる。
要するに負けてほしくないというオレのエゴだ。
事情を聞いた後もオレはユユルへのアドバイスをやめるようなことはしない。
「ま、やる気がないならやる気を引き出せばいい。要するに楽しさを見出せばいいんだ。ユユル、ステータスとスキルの開示をしてくれ」
「開示、ですか?」
「あ、知らないのか。ステータスを開いた時に右下に開示のONかOFFってのがあるだろ?」
「これですね! 気づきませんでした!」
「開示すると他人がステータスを閲覧できるようになる。ほとんどの人間はOFFにしてるけどな」
廃人なんかは装備を見せびらかすためにONにしていることがあったな。
見せびらかすだけあって、とてつもない装備のことが多い。
オレはもちろんOFFだ。
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名前 :ユユル
クラス :ヒーラー
Lv :15
クラスLv:7
HP :147
TP :69 クラス補正+4
力 :8
体力 :2 クラス補正+1
器用さ :4
魔力 :13 クラス補正+2
速さ :2
装備 :ロッド
純白のローブ
スキル:【ステータス】【ヒールLv2】【杖修練Lv7】
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「こ、こんな感じです……」
「うん。問題ない」
「えぇ!?」
意外とスマートなステータスの振り分けで拍子抜けしてしまった。
ヒーラーの初期ステータスは力【1】、体力【2】、器用さ【4】、魔力【6】、早さ【2】だ。
つまりユユルは力と魔力にそれぞれ【7】ずつ振っている。
【ヒールLv2】で止めているのもグッドだ。
TPが少ないのにスキルLvだけ上げていっても、消費ばかり増えて使い物にならないからな。
あまり気にしなくていいのはウィザードみたいなTPが多いクラスだけだ。
ユユルのこれはヒーラーのとある型と見事にマッチしていた。
惜しむべき点があるとしたら、最初に優先すべきステータスを間違えている点か。
でもこのLvならまだ軌道修正が利く。
「ユユル、これは何を思ってこういう振り方にしたんだ?」
「それは……最初は前衛クラスなんて出来ないと思ったんですけど、やっぱり自分だけ後ろにいるのはよくないと思って……」
「それで力に振り分けたのか?」
「は、はい……。でもそれがよくなかったみたいで、鉄人団のブランタークさんに怒られました……」
ブランタークってあの鉄人団のチョビヒゲギルドマスターか。
いかにも硬そうなおっさんだもんな。
これにキレたってことはヒーラーのことを深く知らないんだろうな。
「確かに魔力は魔法の強さに影響するステータスだけど、最初はあまり気にしなくていい。スキルLvが低いうちは大して影響ないからな。オレも今のところ魔力は振ってない」
「そ、そーなんですか……?」
「支援特化型にしても器用さを優先して魔力は後回しだな」
「支援特化型? ということは他にも?」
「あぁ、ヒーラーは支援特化型だけじゃない。近接型……通称殴りヒーラーというものが存在する」
「殴りひぃらぁ!?」
声が大きいな。
驚くのも無理はないか。オレも最初聞いた時はネタだと思ってた。
実際トラベルファンタジーのサービス開始当初はネタ扱いされていた。
ところが研究が進むうちに殴りヒーラーの強さが見直され始める。
これのすごいところは下手な前衛より活躍する点だ。
「ヒーラーの強みは回復魔法と支援魔法を使える点だ。これを自分に使いながら前に出てうまく戦えば、前衛以上の活躍ができる」
「ちょ、ちょっと、理解が追いつかないんですけど……」
「考えてもみろ。前衛のくせに自前で回復と補助魔法を使えるんだぞ」
「そんなに、私が、そんなに……」
ユユルがなぜか指折りして何かを数えている。
この様子だとかなり焦っているな。
多少の誇張はあるけどウソは言ってない。
何せ過去に対人戦で廃装備を整えた殴りヒーラーにTPを枯渇させられた苦い経験があるからな。
オレがムキになってそいつを狙い撃ちなんてしなけりゃよかったんだけどさ。
それ以来、どうにも苦手な相手の一つだ。
「お前なら順調に育てば立派な主力として活躍できるぞ。確かに支援特化型には支援の面で劣るけど、活躍の幅は広い」
「私なんかが……い、いいのかな……」
「いいんだよ。今までバカにしてきた鉄人団に吠え面をかかせてやろうぜ。思い出せ、お前をゴミのように捨てた奴らの顔を!」
「あぁ、段々と腹立ってきました……メラメラメラ……」
ユユルが立ち上がって店の中で杖をびゅんと振った。
なかなかのスイングだな。口でメラメラとか言ってるし。
一瞬だけ潜在的な殴りヒーラーとしての素質が垣間見えた気がした。
「やる気になったか?」
「は、はいっ!」
「よし、じゃあさっそく装備を整えてからレベリングといこう」
「師匠! お願いします!」
なんか変なノリになってるな。
兄貴の次は師匠か? いや、さすがに定着するとは思えない。
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