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貴族も冒険者も金次第

「なんだ、お前は? その身なりはまさかウィザードか?」


 男がオレを訝しがる。

 オレをウィザードと判断したのか、小馬鹿にしたように鼻で笑った。

 押さえろ、オレ。さすがに貴族らしき奴にケンカを売るわけにはいかない。


 何より今のオレはクロスホープ所属だ。

 問題を起こせばギルドに迷惑がかかる。

 実際、問題児を抱えて評判を落としていったギルドをいくつも見てきた。


「ユユルに何をさせるつもりだ……いや、何をさせるつもりですか?」

「お前のようなガキは知らなくていいことだ。それともお前も私に雇われてみるか? これ欲しいだろう?」

「いえ、いりませんよ。それよりオレと大して年齢が変わらなさそうなユユルに、ガキが知らなくてもいいことをさせるんですか?」

「いちいち賢しい小僧だな。この際だから大人としていいことを教えてやる」


 男が険しい顔つきになった。

 ド平民のオレにこんなに舐めた口を利かれたんだからな。

 そりゃ貴族様にしてみたらプライドを傷つけられたなんてもんじゃない。


 貴族様が連れているこの護衛はだいぶ強いな。二人とも上位クラスのナイトだ。

 ということは最低でもLv【70】以上か。

 狩場にもよるけど、クラスLvとの兼ね合いで上位クラスへの転職条件を満たすLvがそのくらいだからな。


「世の中にはそうまでしないと生きられない人間がいるのだよ。この娘もおそらくそうなのだろう。そんな連中を放っておけば魔物か盗賊に殺されるか捕まるか野垂れ死ぬかのどれかだ。ひどい話だろう? そいつらにだってうまいメシを食って生きる権利があるというのに……だから私が手を差し伸べているのだよ」

「なるほど。それはもっともですね」

「理解したか! 平民にしては上出来だ! ブホホホホッ!」


 どちゃくそに反論したいけど、ここは我慢だ。

 それより今はユユルをなんとかしなきゃいけない。

 他人のことに構ってる場合じゃないけど、さすがに変態の餌食にされるってわかってる子を放っておけない。

 そんなユユルがオレの顔をジッと見つめている。


「あの、以前お会いしましたよね? ゴブリンのレイドクエストではマナポーションを分けていただいてありがとうございます」

「あぁ、それより今は君のことが気になる」

「えっ……そ、それって……」

「いや、そういう意味じゃなくてな。そこまでしてスキルリセットをしたい理由はなんだ?」


 ユユルが口籠ってしまった。

 ただ話してもわらないとあそこの男が強引にでも連れて行きかねない。

 次の手を打つためには話してもらわないと困る。


「私、レイドクエストで役に立てなくて……。ギルドマスターに追い出されちゃったんです。スキル振りを間違えているみたいで……」

「なんだそりゃ。まぁわかった。オレでよければ相談に乗るよ」

「え、あなたが?」

「あそこのデ……貴族のお方についていくよりは解決策を示せると思う」


 デブって言いかけたわ。

 めっちゃ睨んでくるし、たぶんデブって言おうとしたのバレてる。


 解決策を示せるかどうかはわからないけど、よほどひどくない限りはマシな状態にできるはずだ。

 スキルリセットがほぼ叶わない以上、それしかない。

 人生、欲しがって後悔して歩みを止めるなんてもったいないからな。


「ブッ……ブホホホホッ! スキル振りを間違えた小娘をお前が助けるだと?」

「それが何か?」

「そもそもお前はクラス選択を間違えているだろう! 今時ウィザードなど魔物の餌のようなものだ!」

「……あ?」


 オレが睨むと護衛が察して武器で制してくる。

 さすがの周囲もどよめいて、誰か止めろよだの無理だの囁き合っていた。

 

「……なんだその目は? やけに反抗的だな?」

「ウィザードが魔物の餌ならオレはここにいませんよ」

「ならばLvを言ってみろ」

「【43】です」


 オレの答えにデブが少しだけ虚を突かれたようだった。

 ウィザードが魔物の餌という認識の人間からすれば信じられないだろう。

 護衛達も顔を見合わせているほどだ。


「フン、まぁまぁだがその程度なら運がよければ達成できるだろう。思いあがるなよ」

「魔物の餌でも運さえあれば生き残れる、と。その認識で大丈夫ですか?」

「なんだと? どういうことだ?」

「もしオレがこれからも生き残ってLvを上げていけば、どんどん苦しくなると思いますよ。その度に運よかっただけって思い込むんですか?」

「き、貴様ッ!」


 デブがキレたと同時にオレは護衛から離れた。

 これはオレからの挑戦状だ。

 ウィザードへの侮辱は親父への侮辱、魔物の餌呼ばわりしたことを後悔させてやる。


 興奮して呼吸を荒げているデブとオレの睨み合いが続く。

 気がつけばあれだけキラキラボックスに熱狂していた冒険者達が少なくなっていた。

 いくらレアアイテムがあろうが、こんな人間性の奴の元で働きたくないだろう。


 それにあのデブが約束を守ってキラキラボックスを譲るとは思えない。

 ユユルへの発言といい、まともな仕事をさせる気すらないだろう。


「ユユル、よければ行こうか」

「え? えっと……」

「あいつのところへ行くか?」

「いえいえいえ!」


 オレは強引にユユルを連れてこの場を離れた。

 デブがぶちぎれて追いかけてくるかと思ったけど、その様子はない。

 ちらりと後ろを見たら、あいつの周りには誰もいなくなっていた。


 残ったのは凄まじい護衛二人と目つきをしたデブだけだ。

 こりゃ恨みを買ってしまったな。

 オレも頭に血が昇りすぎたのは自覚している。


 だけど貴族様ともあろう方が平民の低俗な発言で感情をかき乱してるんだ。

 だったら尚更オレみたいな平民が大人しくできるわけがない。


「あの、いったいどこへ?」

「ひとまずどこか適当な場所で話を聞こう。あ、オレが奢るから心配しなくでいいぞ」

「そ、そこまで! 悪いです!」

「大丈夫だ。一番安いもの限定だからな」

「あ、はい……」


 こう見えてもオレは堅実なんだ。

 下手に散財せずにできるだけお金を節約する。

 ましてやゲームと違って今は食費がかかるんだからな。

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