初レイドクエスト成功
「ゴブリンリーダーが毒にかかってるならチャンスだ!」
ゴブリンリーダーが頭を抱えるように苦しそうにしている。
その隙に前衛クラスが一斉に攻撃を開始した。
バゼルとリクが二人で取り巻きのゴブリン達を倒して、さすがのメルチャも参戦している。
「金がぁ~~~! 金が飛んでいくでぇ~~!」
「あまり無理するな。後ろに下がって回復アイテムを配ったほうがいい」
「ウィム君はやっさしいなぁ!」
オレの好意を遠慮なく受け取ったメルチャがタタタと後ろに走っていった。
半分は戦略的な意味合いを含むけどな。
メルチャの前衛としての実力は総合力としてリクとそんなに変わらない。
無理に戦いに参戦してもらうよりは傷ついた前衛クラスのサポートをしてもらったほうがいい。
下がってきた前衛クラスにポーションを手渡す役割があるだけで戦線が維持できた。
商人の攻撃スキル【マネースマッシュ】はソードファイターの【ヘヴィスラッシュ】の劣化版だからな。
ザコ戦ならともかく死の危険が大きくなるボス戦ではダメージソースとして期待できない。
それを言うならリクも同じなんだけど、あいつには【盗む】がある。
ボスモンスターからレアアイテムを盗んだとしても分配対象だが、貢献度は上がる。
貢献度は魔物と戦う他に支援など、有益な行動をとれば上がっていく。
レイドクエストでの【盗む】は全員のためにもなるため、貢献度上昇の対象だ。
初期バージョンでは攻撃したキャラのみ貢献度が上がるため、支援クラスはただ働きだったな。
今思えばとんでもないことだ。
「ファイアボールッ!」
ゴブリンリーダーへの【ファイアボールLv10】のダメージは思ったより大きい。
火輪の耳飾りのおかげでダメージが爆増している。
幸い耐性がない上に魔法防御が低いから前衛クラス以上の火力が出ていた。
「ひいぃぃ! もう無理だぁぁ!」
「馬鹿野郎! 死ぬくらいなら引っ込んでやがれッ!」
冒険者の一人が怪我をして情けない声を上げていると、バルゼが庇うようにして立った。
更にリクのほうもちらちらと様子を見ているから面倒見がいい奴だ。
そんなバゼルにヘイトを向けたのか、ゴブリンリーダーが目線を移す。
「ゴアアアァァーーーー!」
「まずいっ! 【グランドアタック】は私でなければ耐えられない!」
シェリナさんが代わりにゴブリンリーダーの【グランドアタック】を受けた。
あのスキルはスタン効果があるため、体力に振っていないクラスだと極めて危険だ。
体力によってスタン確率が変わるから無振りだとかなりの確率で効いてしまう。
スタンの時間はそう長くないけど、その間は当然回避や防御ができない。
どれだけ素早さが高くてもスタンになれば無防備だ。
特に素早さ特化型の場合、打たれ弱いからスタンした途端に死ぬことが多い。
シェリナさんの体力ならスタンの確率は大幅に減らせる。
ズシンと響くゴブリンリーダーの斧をシェリナさんが剣で歯を食いしばって受け止めていた。
ゴブリンリーダーは毒の影響で呼吸を荒げながらもまだ粘っているな。
そして何が油断ならないかってあのゴブリンリーダー、HPが半分以下になるとあれを使う。
「グウォガァァーーーーーー!」
「【マイトフォース】に【クイックアックス】だ! HP管理に気をつけろ!」
シェリナさんを差し置いてオレが思わず叫んでしまった。
【マイトフォース】は物理攻撃力上昇、【クイックアックス】は物理攻撃速度上昇だ。
これが非常に危ない。
取り巻きのゴブリンの相手をしているリクが狙われたら危ないな。
さすがに回避型のリクでもただでさえLvが足りてないし、手数を増やされると当てられる確率が上がる。
バゼルはともかくリクは引かせるべきだ。
「シェリナさん! リクにゴブリンリーダーの相手は危険すぎる!」
「そうだな! リク! 下がれ!」
シェリナさんが命令してもリクは下がろうとしない。
あのバカ、意地になってやがる!
今、シェリナさんは余裕がない。だったら――
「馬鹿野郎ッ!」
オレが前線に出てリクを突き飛ばした。
その直後、ゴブリンリーダーの一撃がかすってしまう。
「ぐっ……!」
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HP :14/240
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「兄貴!」
「だ、黙れ、いいから下がれ……」
すぐにメルチャが駆け寄ってきてポーションをくれた。
クッソいてぇ。かすっただけでこれかよ。
ウィザードは張り付かれる=死だからな。これはさすがにムチャしたか。
ポーションを飲みほしてオレは何とか立ち上がった。
「兄貴、ご、ごめん……」
「話は後だ」
すでに戦線は崩壊しつつある。
ポーションが尽きて戦えなくなった前衛クラスがシェリナさんの戦いを見守っていた。
メルチャのポーションも底を尽きかけて、そろそろ作戦を変更しないと危ないかもな。
他の冒険者に死者が出ていないのはシェリナさんがほぼ攻撃を受けているからだ。
とはいえ、あの人だってそろそろ限界が近づいているように見える。
「シェリナさん! あいつは毒ダメージのおかげで長くない! 後はオレとフーイーの攻撃でギリギリ仕留められるはずだ!」
「……信じるぞ!」
血だらけのシェリナさんが身を引くと、ゴブリンリーダーは苦しそうにしながらも追う。
ズシンズシンと巨体を揺らすも、毒のせいでいよいよ終わりが近いのがわかる。
「フーイー! オレと一緒に攻撃しろ! 接近されるギリギリで倒れるはずだ! お前ならわかるだろ!」
「この距離、ファイボールを撃ちこめる回数約4回ダブルショットが6回で手数は私のほうが上だけどちょっと厳しいよ! それでもいけるっていうならやらないこともないけど信じていいのかな! 信じるね!」
めっちゃ早口で喋った!?
何にせよ従ってくれるのはありがたい。
オレは【ファイアボールLv10】、フーイーは【ダブルショット】の連発だ。
ゴブリンリーダーは攻撃を受けてのけ反りながらも、ヘイトを向けたオレを目指している。
びびるな。オレの計算が確かなら、ギリギリいけるはずだ。
シェリナさんのHPは限界に近付いているし、もう戦える奴はほとんど残っていない。
ここはゲームの世界と似ているけど紛れもなく現実だ。
誰かが死ねば命が尽きる。コンテニューなんかない。
クロスホープに所属していたウィザードが死んだ時のように誰かが悲しむ。
「グ、ゴアアァァ……!」
「くたばれぇぇーーー! ファイアボーーーール!」
ゴブリンリーダーが目の前に迫って斧をオレ達に向けて振り下ろす。
オレが最後の【ファイアボールLv10】、フーイーが【ダブルショット】を放った。
「ゴ、ガァァ……」
ゴブリンリーダーがふらりと揺れてズシンと音を立てて倒れた。
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ウィムはLv【39】 → 【43】に上がった!
クラスLvが【24】 → 【26】に上がった!
【ゴブリンの大斧】をドロップした!
【ゴブリンの耳】をドロップした!
【グランス鋼鉄】をドロップした!
【ゴブリンリーダーの魔石】をドロップした!
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ゴブリンリーダーの経験値はギルドやパーティの貢献度に応じて振り分けられる。
どうやらクロスホープの貢献度はかなり高かったみたいだな。
他の連中もレベルアップしたみたいで喜んでいる。
「か、勝ったぞ! レベルが一気に【30】になった!」
「あのウィザードがやっちまったのかよ!」
「あんなに強いならなんでザコ呼ばわりされてんだ!?」
それはこっちが聞きたい。
やり直しができない世界といっても、さすがに情報が統制されすぎている気がした。
何かあるのかもしれないけど、オレにそれを気にしている余裕なんかない。
今は初レイドクエスト成功を喜ぼう。
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名前 :ウィム
クラス :ウィザード
Lv :43
クラスLv:26
HP :302
TP :533 クラス補正+30
力 :1
体力 :1
器用さ :34
魔力 :8 クラス補正+15 魔力アップ+5
速さ :10
装備 :ロッド
ローブ
火輪の耳飾り
スキル:【ステータス】【ファイアボールLv10】【アイシクルLv1】【ブラインLv1】【ポイズンLv1】
【魔力アップLv5】【術式研究Lv9】
残りステータスポイント:0
残りスキルポイント:0
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