パーティの連携
フェルムの森の奥地にあるゴブリンの村の近くに辿りついた。
ゴブリンの村は高い柵に囲まれていて、高台まで作られている。
高台には弓矢を持ったゴブリンが見張りをしていて、オレ達は見つからないギリギリの位置にいる。
ゴブリンアーチャーがいるのか。これは厄介なパターンだな。
基本的に物理遠距離攻撃持ちの魔物は器用さがかなり高くて回避が難しい。
リクのようなシーフを初めとした回避特化クラスには天敵と言える。
高台はここから見えるもので二つ、入り口にはゴブリンが二匹。
それぞれ剣とハンマーを持っているな。
ゴブリンは一見してすべて同じに見えるけど、実はそれぞれステータスや弱点が違う。
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ゴブリン(剣)
Lv :23
HP :181
MP :0
使用スキル:【ファイアースラッシュ】
弱点:氷
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ゴブリン(ハンマー)
Lv :25
HP :213
MP :0
使用スキル:【グランドアタック】
弱点:風
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ゴブリンアーチャー
Lv :30
HP :287
MP :0
使用スキル:【ダブルショット】
弱点:なし
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「シェリナさん。遠距離攻撃が可能なオレとフーイーでゴブリンアーチャーを仕留めるべきだ」
「フーイーならやれる。ウィム、頼む」
「あぁ、残りのゴブリンアーチャー二匹の射程外からギリ仕留める」
「頼む」
ゴブリン村にはいくつか入り口がある。
オレ達がいる南側、西側、東側のそれぞれに冒険者達が散っていた。
今、ここにいるのはクロスホープだけだ。
まとまらなくて正解だったな。
あの入り口の狭さじゃ全員が通るのは無理だし、その間にゴブリンアーチャーに狙い撃ちされて終わりだ。
フーイーを見ると、やけに落ち着き払っている。
こんな時でもメンバーからやや離れた位置にいるのか。
「フーイーは心配ない。ウィム、お前は左側にいる高台のゴブリンアーチャーを頼む」
「あぁ、今のオレならギリ確殺できるはずだ」
ゴブリンアーチャーとの距離を慎重に詰めていく。
射程ギリギリまで近づいたところでオレは【ファイアボールLv10】を放った。
同時にゴブリンアーチャーがオレに向けて弓を構えるが遅かったな。
そしてわずかに遅れてフーイーがもう一匹のゴブリンアーチャーを仕留めていた。
あいつが撃った矢がギリギリフーイーの足元に刺さっている。
まさか敵の射程を読んだのか?
「よし! 突入するぞ! 私が盾になる!」
シェリナさんが二匹のゴブリンに戦いを挑んで、スキル【スピアレボリューション】を放つ。
槍スキルの範囲攻撃で、取り立てて高威力でもないが非常にコスパがいい。
この程度の相手なら一撃だ。
シェリナさんはナイトの体力型だ。
槍と盾を装備して前衛に立って守る上級者向けのスタイルだな。
いわゆるタンク役は装備にお金がかなりかかるから、初心者にはお勧めできない。
更にダメージが積み重なるから回復アイテム代もかかる。
「突破するぞ!」
シェリナさんが開けてくれたおかげでオレ達はゴブリン村に突入できた。
さっそくバゼル、リクが一匹ずつゴブリンを相手取る。
バゼルはともかくリクの殲滅速度が気にかかるなと思ったら、やはりゴブリンが集まってきた。
これがリンクだ。
仲間が戦っていると集まってきて加勢する習性をリンクという。
一匹の強さは大したことがなくても、これのせいで死が見えることが多々ある。
「アイシクルッ!」
リクに集まられる前にオレが【アイシクルLv1】の範囲攻撃で仕留めた。
「リクはシェリナさんかバゼルの近くで戦え」
「わ、わかった!」
シェリナさん、バゼルが前衛の主軸で討ち漏らした個体をリクとメルチャが叩く。
後衛にはオレとフーイーだ。割とこのパーティはバランスがとれている。
惜しい点としてはヒーラーがいないところか。
そういえば鉄人団にヒーラーの女の子がいたな。
よく勧誘できたなと考えると少し羨ましい。
さて、ウィザードにとってのゴブリンだが前衛がいてくれてよかったと心から思える。
数が多い上に動きが早いから、さすがのオレもテクニックじゃカバーしきれない。
種類によっては【アイシクルLv1】じゃ確殺できないこともあるな。
例えばゴブリン(槍)なんかは盾を持っているから耐久力が高い。
状況を見て【ファイアボールLv10】で確殺していくしかないな。
ふと西側の入り口を見ると、見事にゴブリンに囲まれている奴らがいる。
あれは鉄人団だな。ゴブリンだろうと、十体近くに囲まれたら命の危機だ。
それでも持ちこたえられるのはヒーラーの子のおかげだ。
「ユユリ! 私にもヒールをよこせぇ!」
「は、はいぃ!」
「こっちもだ!」
「ただいまぁ!」
かわいそうに、ヒーラーの子が目を回している。
鉄人団は全部で八人、一人で八人の回復なんてよほどの上級者でないと不可能だ。
回復による支援は一見して楽そうに見えるけど、仲間に優先順位をつけて仕事をしなきゃいけない。
更に繊細なTP管理も求められるから、適当なことをやっていたら一瞬で尽きる。
下位クラスのヒーラーのTPはそこまで多くないからな。
ブランタークはあれだけ大口を叩いておきながら、ゴブリンに囲まれて悲鳴を上げていた。
落ち武者頭のゲーバンなんか敵前逃亡してるぞ。
ただでさえ数で負けているのに一人欠けたら、一気に苦しくなるだろうな。
案の定、ブルタークが押され始めた。
「ゲーバン! 貴様、なにをしている!」
「お、俺の装備とLvじゃ無理ですよ!」
「無理はウソ吐きの言葉である! ポーションをたんまり用意したのではないか!?」
「もう尽きましたぁ!」
あっちがいよいよ決壊しつつあるな。
一応、あんなのでも討伐メンバーだから助けてやるか。
「アイシクル」
「おぉっ! た、助かったのか!?」
オレが【アイシクルLv1】で数を減らしてやると、ブルターク達が安堵した。
それからオレに恐れおののくようにして棒立ちだ。
お礼くらい言えよ。
「ウィ、ウィザードの魔法であるか! こ、こ、こんな……」
「びびってる暇があったら仕事しろ。こっちだってそんなに余裕ないんだからな」
「うぅ……!」
鉄人団はヒーラーの女の子を除いて見事に前衛クラスしかいない。
リーダーのブランタークは両手剣装備のナイト、後はゲーバンとデッセイを含めて全員がソードファイターだ。
支援クラスがほぼいないのはしょうがないけど、あれじゃジリ貧になるのも当然だな。
あのヒーラーの女の子が不憫でしょうがない。
「ケッ! あのクソギルドは相変わらずだな!」
「バゼル、クソギルドよりもゴブリンの数を減らそう。それにそろそろゴブリンリーダーが来るかもしれない」
「そうだな! 気合い入れてもうひと踏ん張りだッ! おおぉーーーーッ!」
雄叫びを上げてバゼルがゴブリンに【ヘビィスラッシュ】を浴びせる。
シェリナさんが壁になってくれているおかげでかなり安定しているな。
オレも実はもう少しでLvアップする。
Lvが【20】台のゴブリン達じゃ今のオレには経験値が足りてなかったからギリギリだった。
この分だとゴブリンリーダー戦であの魔法がたぶん必要になってくる。
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