ギルドへ加入
約束通り、オレはクロスホープの拠点を訪ねた。
そこにいたのはリク、商人とアーチャーの女の子だ。
ソファーに座っていたリクがオレを見るなり、パッと表情が明るくなる。
オレに駆け寄ってきて遠慮なく抱き着いてきた。
「アニキ! 来てくれたんだね!」
「約束だからな。リクも元気にしていたようだな」
「そりゃアニキがギルド加入するってんなら元気になるよ!」
「いや、まだ決まったわけじゃないけどな」
リクはだいぶオレを歓迎してくれている。
まさかバゼルよりオレのほうへ来るとはな。
それを見て面白くなさそうなのがバゼルだ。
「リク、ついこの前までオレになついてたのにえらい変わり身じゃねえか」
「バゼルのあんちゃんだって好きだよ」
「ついでかよ。落ち込むぜ」
オレは兄貴でバゼルがあんちゃんか。
ふとテーブルを見るとリクがドロップアイテムを並べていた。
大半が通常ドロップアイテムだけど、魔石がある。
この一週間、こいつもがんばったんだな。
ギルドのためだと言ってここまで体を張るギルドメンバーは貴重だ。
大手のギルドではろくに狩りに参加しなかったり、フェードアウトする奴が珍しくないからな。
商人の女の子がリクが収集してきたドロップアイテムを楽しそうに仕分けしている。
このクロスホープ、商人がいるのは心強いな。
商人がいればわざわざ手間をかけて王都の店にドロップアイテムを換金せずに済む。
売値もこちらで決められるため、融通が利きやすい。
ソロプレイヤーでも中級者となれば商人キャラを作成して売っていたもんだ。
商人は育成が大変だから面倒なんだよな。
劣化ソードファイターみたいな性能だから、狩場が限られてしまう。
「リク君、えらいがんばったなー。この【キラーアントの魔石】なんかそこそこの売値がつくで!」
「えへへ! メルチャねえちゃん、そいつを売ってギルド資金にしちゃってよ!」
「でもうちで使っても役立つんよなー。物理攻撃力+20はでかいで」
「それは任せるよ。ところでギルド加入者がいるんだ」
「ほぇ? 珍しいなー」
メルチャと呼ばれた商人の女の子がオレを値踏みするように見る。
オレに価値があるかどうか見定めてるのか?
あの白くて大きい饅頭みたいな帽子は【ジャハナのターバン】だ。
効果は商人のスキル【マネースマッシュ】使用時のTP消費減少、威力アップだったか。
そして鍛冶屋で鍛えれるほど威力が上がる上に魔石のスロットがある優れものだ。
なかなかレアなものを持っているな。
「うちはメルチャ、あんたは?」
「ウィムだ。ジャハナのターバン持ちとはかなりの実力者だな」
「おぉ、いきなり装備を褒めるかー。嫌いやないで?」
「あ、あぁ」
別に下心があったわけじゃないんだが。
商人をやっていると普通のコミュニケーションでも探り合いみたいなことを考えるのか?
確かに商人の場合、頻繁に値切り交渉のメッセージがきて煩わしいことが多々あるからな。
どうしても疑心暗鬼になってしまう部分はあるのかもしれない。
「わかっとると思うけどうちは商人やってて、あっちで離れて座っているのがアーチャーやってるフーイーや。変な子やけどウィム君が嫌いなわけやないから誤解しないでな。他人との距離の詰め方がわからんだけなんや」
「物理的な距離が開いているな……」
「安心してな。うちらに対してもあれなんや」
「ギルメンとの距離が開いてる……」
銀色のロングヘアーの女の子が距離を取りながらもオレから目を離さない。
ジッと見つめられているけど遠い。
試しにオレが少し近づくと、ほぼ同時に離れる。
オレが一歩だけ下がると一歩詰めてきた。
なんか面白いぞ。昔、RPGであんな感じの仕掛けがあった気がする。
こっちの動きに合わせて石像が動くやつ。
あれでパーティ組んで戦えるのか?
なんだか思ったより癖が強いメンバーだな。
ラヴィータ訛りのメルチャはともかくとして、フーイー、チンピラ。
こいつらが一緒に戦っている姿が今一想像できんな。
このメンツの中でリクがいい清涼剤だ。
「ウィム、来たか」
「シェリナさん、お言葉に甘えてまた来てみたぞ」
ギルドマスターのシェリナさんが二階から降りてきた。
待たせて申し訳なかったな。
本来ならこっちから上がっていかなきゃいけない。
「一週間、心変わりせずに来てくれるとはな。実は内心、心配だったのだ」
「そうか? ウィザードを拾ってくれるギルドが他にあるのか?」
「見る目があれば拾うさ。ところで一週間前よりも強くなったか?」
「あぁ、カエントカゲを狩ってばっちりレベリングしたよ」
シェリナさんが無言で笑った。
こっちの腹は決まっている。あとはこの人次第だな。
「あのカエントカゲを、か。凄まじいウィザードがいたものだ」
「足手まといにはならないつもりだ。オレをこのギルドに入れてほしい」
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ウィムがギルド【クロスホープ】への加入申請を出しました。
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「あぁ、もちろん断る理由などない。ようこそ、クロスホープへ」
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ギルド【クロスホープ】のギルドマスターがウィムの加入を認めました。
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シェリナさんと握手を交わした。
これでオレは晴れてクロスホープの一員だ。
リクが大はしゃぎでオレを歓迎して、バゼルがソファーに腰を落とす。
「兄貴! やったね! これで一緒に戦えるよ!」
「あぁ、ご指導を頼む」
「またまたぁ。オイラが助けられるに決まってるよ」
一時はどうなるかと思ったけど、ギルドへ加入できたのは幸運だ。
ギルドメンバーはちょっと癖があるけど、悪い奴らじゃないと信じている。
バゼルもチンピラムーブの件を不問にすればただの良い奴だ。
現状、フーイーだけがちょっと心配だけどな。まだ距離を置いてるし。
「歓迎しよう、ウィム。さっそく……といきたいところだが今日のところは休んでほしい。他のメンバーとも親交を深める必要があるだろう」
「このギルドはどんな活動をしているんだ? ガチギルドか?」
「ガチギルド?」
「いや、なんでもない。ギルド狩りなんかもやるんだよな?」
「もちろんだ。それにウィム加入を記念して、我々クロスホープはレイドクエストに参加しようと考えている」
レイドクエスト。
大人数のパーティやギルドが集う大規模討伐だ。
【貢献度】に応じて報酬が貰えるので、ガチギルドなら絶対に参加すべきクエストの一つだろう。
「レイドクエスト!? オイラ、活躍できるかなぁ!」
「バーカ。お前はオレ達が戦っている横で【盗む】してくれりゃいいんだよ」
「うちが苦手なクエストやなー。上位クラスになれば戦力になるんやけど遠いわー」
リク、バゼル、メルチャがそれぞれレイドクエストに対する意気込みを語っていた。
メルチャの心配はもっともだが、役割はちゃんとある。
シェリナさんが活かしてくれるかどうかはわからんけど。
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