冒険者協会で清算
「本当にすまなかった! オレ、どうかしてたんだ!」
「そうだな」
何が悲しくてチンピラと一緒に王都クリンディラへ帰らなきゃいけないのか。
帰り道、チンピラことバゼルはオレに何度も謝ってきた。
単純に命を救われたこと。侮辱に対する謝罪、胸倉を掴んだこと。
休憩する度にほぼ直角で頭を下げてきた。
チンピラなのか真面目なのか、わからなくなってきたな。
確かに謝らせるつもりだったけど、ここまで真摯に反省されると「お、おう」となってしまう。
これはきっとオレの中に、徹底して屈辱を与えようという思いがあったからだろう。
現実を知らないチンピラに事実を突きつけてぐぬぬさせてやりたい。
そんな願いが成就しなかったわけだ。
ここまで改心されたら何も言えないな。
そしてバゼルは聞いてもいないのに、ぽつりぽつりと語り始めた。
「オレが所属しているギルドにウィザードがいてな。ギルマスもオレもそりゃ頼りにしていた。うちじゃウィザード差別なんてものはない。よく皆で討伐にいったもんだ」
「いいギルドマスターなんだな。ぜひそういうギルドに所属したいもんだ」
「あぁ、ギルマスも以前は別にギルドにいたらしくてな。そこで疲れたもんだから、今のギルドを立ち上げたらしい」
「そういう行動力は尊敬したいな」
現状が嫌だから自分が居場所を作るなんて誰にでもできるもんじゃない。
そういう信念をもったギルドマスターがいるならぜひお目にかかりたいもんだ。
そんないいギルドに所属してるってのにこのバゼルはどこかのウィザードに絡んだ。
うん、まぁそれはもういいだろう。だからこそ疑問がある。
「それはわかったけど、なんでオレに絡んだんだよ?」
「……半年前、そのウィザードが死んだ。ほんの一瞬だったよ。勝ち確の戦いだったのにほんの……ほんの少し……何かが掛け違ったのかな……。オレがいけなかったのかな。あいつが前に出すぎたのかな。ずっと考えてもわかんなかった……」
バゼルが急に声のトーンを落とした。
涙声になって、さすがのオレもどう答えていいかわからない。
そのウィザードとオレを重ねたってことか?
「あいつはいつも自信過剰だった。ウィザードの火力には助けられたが……。『自分のおかげ』なんて言われたらよ。そんなあいつにオレは内心ムカついてたんだ。ウィザードへの偏見は捨てたつもりだったのに、つい……。あいつが死ぬ前日、大ケンカをしちまった」
「要するに八つ当たりか。たまったものじゃないな」
「本当にすまねぇ……。まさか今時、あいつ以外にウィザードがいるなんて思わなくてよ……。お前を見た時、つい絡んじまった……」
「マジでいい迷惑だ。二度とやるなよ」
バゼルが声を出さずに頷いた。
少しかわいそうな気もするけど、オレじゃなかったらあのまま殴られて終わってたからな。
けどまぁ、しつこいほど謝罪はされた。
「オレはこの足で冒険者協会に行く。討伐依頼完了の手続きをしなきゃいけないからな。お前も付き合え」
「オ、オレもか?」
「当たり前だ。お前と一緒に笑ってた奴らにわからせるんだよ」
「そ、そういやそうだな」
と言っても、あいつらが冒険者協会にいればの話だけどな。
* * *
「おぉ! ウィザード様のお帰りだぜぇ!」
「挫折したもんだから怪しまれないように日を置いてご登場ってかぁ!」
いや、普通にいたわ。たぶん一人残らずいる。
こいつら冒険者の仕事やってないのか?
レベリングだの装備だの考えたら、こんな暇している場合じゃないと思うんだが。
特にあの落ち武者みたいな頭した男の装備は店売りの中でもそこまで高くない。
装備がない場合はまず店売り品の最高級のものを揃えるのが目標になる。
そこまでやって初心者卒業だ。
そう考えるとこのバゼルなんかはまだ頑張っているほうだな。
剣はモンスターのドロップ品であるツヴァイハンダーだ。
レアじゃないにしろ、魔石を装着できるスロットがある。
普通の店じゃスロット付き武器や防具は売ってない。
だから強くなりたければいずれはそういった強力な非売品が必須になる。。
バゼルの場合はどこかの露店から買ったものだろう。
ツヴァイハンダーはバゼルが討伐できない魔物のドロップアイテムだからな。
直接ドロップを狙えなくても、お金を貯めて買うという方法がある。
で、あいつらは?
まぁいい。偶然にも全員がたまたま仕事をしていなかったということにしておこう。
オレはそんな暇そう、じゃなくて休憩している奴らに【火の鱗】と【トカゲの尻尾】を見せつけた。
ヘラヘラと笑っていた奴らの表情が固まる。
「あ、あれってカエントカゲのドロップアイテムじゃ?」
「ウィザードが討伐してきたってのかよ?」
「しかもいくつあるんだよ、あれ……」
冒険者達がどよめいている。
見下していた奴が突然成果を上げてきたらそりゃ焦るよな。
ただ怖いのは早まって分不相応な魔物に挑むことか。
こいつらの中にもそういう手合いがいるかもしれない。
「誰かが一緒にいたんだろ! じゃなきゃウィザードがあんなもん討伐できるわけねぇ!」
「そ、そうだ! 正直に言え! もしかしてバゼルか!?」
「バゼル! そいつと一緒にいるってことはそうなんだろ!」
バゼルわずかに心苦しそうな顔をした後、オレより前に出た。
「いや、これはこいつが単独で狩って討伐していた。オレはこいつを尾行していたが、魔物に見つかって助けられたんだよ」
「バゼル、お前なに言ってんだよ……?」
「オレも少し前はお前らと同じ考えだった。いや、自分をそう思わせようとしていた。だけどオレはもう自分にウソはつかねぇ」
「お前、そいつに何かされたのか? おい!」
多数に迎合せず、バゼルは正直に話したな。
ただのチンピラかと思っていたけど見直したよ。
さて、次はあいつらの番だな。
「バゼルはオレに対して非礼を詫びた。今だって嘘偽りはない。このドロップアイテムは正真正銘、オレが一人で集めたものだ」
「ウソだろ……。ウィザードがカエントカゲなんて討伐できるわけ……」
「お前らと一緒にオレを罵倒していたバゼルは皆の前で正直に話した。で、お前らはどうなんだ? オレとバゼルにここまでさせておいて、まだウソつき呼ばわりするか?」
「チッ、悪かったよ」
何人かがオレに謝った。残りは不服そうに俯いたり、目を逸らしたままだ。
形だけでも何人かに謝らせることができたし、オレとしてはもうこいつらはどうでもいい。
問題は散々コケにした相手に結果を出されても尚、謝罪できない奴らだ。
特に落ち武者みたいな頭をした男はずっとオレを睨んでいる。
「ケッ! なぁに謝ってやがるんだ! お前ら、ウィザードだぞ? 絶対誰かに助けてもらったに決まってんだろ!」
「デッセン、もういいだろ……。それ以上はお前の所属ギルドに迷惑がかかる」
「うるせぇ! その気になりゃ鉄人団は動くぜ!」
「だから落ち着けって……」
他の冒険者がデッセンという男をなだめている。
鉄人団のデッセンね、名前覚えたわ。
死んでも頭を下げないってんならそのまま死んでくれ。
この後、勇み足でカエントカゲ討伐に向かって死のうと知ったことじゃない。
オレは受付でカエントカゲのドロップ品を清算した。
かなりいい金になったし、ワンランク上の杖でも買っておきたいところだ。
偉そうなことを言ってるが、オレなんか店売り品の最下級装備だからな。
さてと、ちょうど今日は約束だったな。
クロスホープに正式な答えを聞きにいこう。
ところがギルドを出るとなぜかバゼルもついてきた。
「おい、バゼル。お前はどこに行くんだ?」
「お前こそどこに行くんだよ。オレは所属ギルドに帰るんだよ」
「どこのギルドなんだ?」
「クロスホープってギルドだよ。ギルドマスターがマブくて有名なあそこだ。名前くらい聞いたことあるだろ?」
おおう。
薄々勘づいていたけど、まさかのクロスホープのメンバーか。
ていうかマブくてってお前。こっちの世界じゃ死語じゃないのか?
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