婚約破棄が横行する国で
すいません。
短編登録すると連載に出来ないみたいで、王の苦悩を本編の後に足しました。
この国では学生の婚約破棄が流行り数十年。
被害者は1000人を超えるとか、超えないとか・・・。
この事態に国王は幼少の頃からの婚約を禁止し、15歳から通う学園に入学以降にしか婚約できない制度を作った。
だが、結婚が政略的な意味を持つことを変えることに失敗し、未だ卒業パーティーでの婚約破棄は横行する・・・。
今年もまた卒業パーティーのシーズンがやって来た。
「父上、どうしましょう?婚約破棄されそうです」
「何を言っているんだ?」
「カーシーズ、ケントリプス、アルマイヤー、サバスコール、ポインセト、他にもいるかも、そして私が婚約破棄されると学園中、その噂で持ちきりです。過去最大の婚約破棄が行われるのではないかと」
「なんだそれは・・・」
唖然とする父。
「ですから・・・」
「違う、婚約破棄される理由は?」
「私の理由はよくわかりません。ほとんど会話・・・接触もなかったので」
「それでなんで婚約破棄なんだ?」
「わかりませんが、私が知る限りの噂ですと、親の決めた相手が気に入らないとか、体臭が嫌、将来禿げそう、もありました」
「なんだそれ・・・」
今度はぽかんとする父。
「父上、大丈夫ですか?」
「今の婚約破棄ってそんな理由なのか?」
「そうですね。去年は生理的に無理、とか喋り方が気持ち悪い。っていうのもあったと思います」
「昔はまだ、いじめられたとか、嫌がらせされたとか、殺されかけた。そんな理由だったぞ!!」
「今は、婚約破棄がステータスシンボルっていう時代ですからねー」
「ステータスシンボルって・・・」
「不思議なもので、卒業パーティー以外での婚約破棄は殆ど無いのですが、卒業パーティーでの婚約破棄は増える一方です」
「クライエイト家に婚約破棄する気か聞いてくる」
「宜しくお願いします。なるべく破棄の方向でっ!!」
「ナルボット伯爵、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「ええ、一昨日までは元気でした」
「おや?」
「息子から聞きまして、クライエイト家から婚約破棄されると・・・」
「な、なんですと?!」
「例の、卒業パーティーでの婚約破棄だそうです。学園中その噂で持ちきりだとか・・・」
「ちょっと、申し訳ありません。席を外させていただいても?」
「どうぞ、ごゆっくり」
ナルボット伯爵は後は知ったことではないと言う風体で、執事が入れてくれたお茶にブランデーを垂らして悠然といただいた。
「レイラ!レイラはどこにいるんだ?!」
「なんですのお父様?私はここにおります」
「お前、卒業パーティーで婚約破棄しようとしているのか?!」
「だ、誰から聞いたんですの?」
「今、ナルボット伯爵がおいでだ」
「まぁ・・・」
「婚約破棄するのか?!」
「その・・・予定になっております」
「婚約破棄の理由は?」
「ほとんど交流しませんでしたの。流行りの婚約破棄をしたかったので」
「婚約破棄した後どうするんだ?」
「特には考えておりませんが・・・」
「お前から婚約破棄するってことは、私が手掛けてきた仕事も駄目にする。ということは解っているんだろうな?」
「大人の事情など知りません。勝手に婚約者を決めたお父様が悪いのではないのですか?」
「卒業したらお前ももう大人だろう!!」
「卒業前ですもの。まだ子供ですわ」
「婚約時にあれほど説明したのに理解していないのか?いや、もういい。わかった。卒業と同時に出ていきなさい。家族のことを思いやれない娘などいなくていい」
「まぁ、お父様、御冗談を」
ケラケラ笑う娘を冷たい目で見下ろした。
「冗談ではない。ローラ!ローラはいるか?」
「お父様。何でしょう」
「ナルボット令息を知っているか?」
「お姉様の婚約者の方で、とても気遣いができてお優しい方ですわ」
「仲がいいのか?」
「何かと気にかけてくださり、よく面倒を見ていただいています。いい人ですわ」
「姉に代わってナルボット令息と婚約してもらえるか?」
「え?どういうことですの?」
「レイラが馬鹿みたいに卒業パーティーで婚約破棄を企んでいた」
姉を見下すような目で見る妹。
「お姉様、馬鹿ですのね」
カチンとくる姉。
「ナルボット令息の婚約者になれるか?」
「わたくしがですか?」
「そうだ。この婚約、結婚が失敗したら我が家は失爵する!」
「どういうことですの!お父様!!」
「おまえにはもう関係ない、さっさと荷物をまとめておけ!ダッテ!ダッテ」
「はい。旦那様」
「レイラを義絶する!卒業と同時に放り出せ!」
「旦那様・・・」
「お父様っ!!そんな冗談ばかり!」
またケラケラとレイラが笑う。
「ダッテ、レイラがうるさい!」
「かしこまりました」
「ローラ、ナルボット令息との婚約は嫌か?」
「いえ、嫌ではありませんが・・・」
「なら、一緒に来なさい」
「着替えなくてよろしいですか?」
「待たせているから、仕方ない」
「ナルボット伯爵お待たせしてしまって申し訳ありません」
「いや、いいんですよ」
「レイラは卒業パーティーで婚約破棄をするつもりだったようです」
「そうですか・・・ならば今のうちに婚約解消にしてしまった方がいいですか・・・?」
「重ね重ねありがとうございます」
「レイラが駄目なら次、という訳ではないのですが・・・妹のローラとの婚約を考えていただけませんか?」
「それは愚息に聞いてみませんと・・・」
「そうでしょうな・・・ご子息に会いに今からローラを連れてお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「先にレイラ嬢との婚約解消を・・・」
「わかりました」
私の帰りを迎えた執事にあらましを話した。
「アイルはいるか?」
「呼んでまいりますか?」
「頼む」
「アイル、レイラ嬢との婚約は解消してきた」
「そうですか」
平然とする息子に訝しいものを感じる。
「なんだ、ショックはないのか?」
「はい。話しかけても無視されたり、相手にされなかったりしてましたので、婚約解消は正直ありがたいですね」
「そうか・・・すまないが、婚約話があがっている」
「えっ?もうですか?」
「うむ、クライエイト家はどうしてもこの婚約を破棄するわけにはいかないんだよ」
「どういう事ですか?」
「資金繰りに相当困ってて、うちが仕事の斡旋やら資金貸付していてな、うちとの婚姻が成立しないと確実に破産するだろう」
「その状態でレイラ嬢は婚約破棄しようとしていたのですか?勇者ですね」
「そうだな」
「ですが、姉が駄目なら妹とはいきませんでしょう。世評も宜しくないのでは?」
「そうだな・・・ローラ嬢のことはどうなんだ?」
「いい子ですよ。レイラ嬢とはほとんど話していませんでしたが、ローラ嬢とは一緒に食堂で食事したりもしています」
「なら、そのまま押し通せ」
「はっ?」
「元々婚約者はローラ嬢だったことにしておけ」
「通りませんよ」
「道理を引っ込めさせろ」
「そんな無茶な。我が家がそこまでしてクライエイト家を守らなければならない理由がありますか?」
「正直、ない。が、ローラ嬢は可愛かった。お義父様と呼んでもらいたいと思った」
「私の結婚に父上のそんな感情は関係ありません」
「ゴホン。まぁ、明日クライエイト伯爵とローラ嬢が来られるから、ちょっと話してみなさい」
「断ってもいいんですね」
「嫌なら断ってもいい」
「わかりました」
「この度はレイラが本当に失礼をいたしました」
「いえ、最悪の状態は脱したので」
「本当に申し訳ありませんでした」
「お気になさらず。無事、婚約解消できましたので」
「手前勝手で・・・申し上げにくいのですが、妹のローラと婚約していただけませんでしょうか?」
「さすがにそれは・・・ローラ嬢も気分良くないでしょう?」
「いえ、わたくしは・・・」
「一度ご一考願えませんでしょうか?」
「こんな形で婚約してローラ嬢が幸せになれますか?」
「あの、アイル様、わたくしにお時間頂けますか?」
「かまわないけど・・・」
「私は伯爵と話してきます」
クライエイト伯爵が立ち上がり出ていくのを見送った二人。
「正直な所、急な話でわたくしも驚いております」
「私もだよ」
「ですが、アイル様との婚約自体が嫌かと聞かれたとき、嬉しいと思いました」
「あ、ありがとう・・・」
「姉の態度が悪いにも関わらずわたくしに優しく接していただいていて好感を持っておりました」
「そ、そう?」
「はい。わたくし共の家の事情もございますが、その事は考えずとも、アイル様との婚約は嬉しく思います」
「そう・・・」
「わたくしでは駄目でしょうか?」
「いや、そんなことはないけど・・・」
「お嫌ですか?」
「ローラ嬢こそ、本当に宜しいので?」
「はい」
「わかりました」
ローラ嬢の手をとり、父の執務室へ行く。
「婚約したいと思います」
「そうですか!!ありがとうございます」
「お父様、一体どういうことですの?」
「何がだ」
「家の者の態度が悪いのですけれど」
「当たり前だ」
「昨日の冗談をまだ続けてらっしゃるんですか?しつこいですわよ」
「おまえは都合よく忘れているようだが、ナルボット家との婚姻は非常に重要だとあれほど説明しただろう?」
「お父様が口うるさく言っていたことは覚えていましてよ」
「ナルボット家があるから我が家は今日も食事ができるんだ。婚姻が整わなかったら我が家はそこで終わりなんだよ」
「ご冗談ばかり」
「冗談でこんな事は言わない」
「え?冗談ですわよね」
「くどい」
「・・・でしたら、わたくし結婚して上げてもよろしくてよ」
「もう婚約解消した」
「また、冗談ばかり・・・」
「くどい。今日ローラとの婚約が整った」
「嘘でしょう?」
「本当だ。お前の卒業用に仕立てていたドレスをローラに着せる」
「そんな酷いこと出来ませんわ」
「レイラは持っているもので間に合わせろ。卒業パーティーの後は帰ってこなくていい」
「そんな」
「自分の相手は自分で見つけるといい。幸せになりなさい」
その翌日から、学園でアイルに話しかけようとするレイラの姿があったが、ローラが尽く邪魔している姿が目についた。
卒業パーティー会場の中央で、カーシーズ、ケントリプス、アルマイヤー、サバスコール、ポインセト、ナリカリア、ウエイパーズ、シルベット・・・が順に婚約破棄されていた。
まだ続くようだ。
この国は何時になったら婚約破棄が無くなるのだろうか?
「お父様!!お母様!!家に入れてくださいませっ!!」
Fin
王の苦悩
王は苦悩していた。
卒業パーティーでの婚約破棄をなくすため、幼少の頃からの婚約を禁止したというのに一向に減らない。
減らないどころかますます増えていく。
頭が痛い・・・。
なんとかして欲しいと貴族の親たちからせっつかれるが、その親たちも通ってきた道だ。
自分勝手にも程があると思うのはわしだけだろうか?
どうにかしたいのはわしの方だ。
いい方法があるのなら教えて欲しいものだ。
既に若者たちの遊びになっているのだから始末が悪い。
ステータスシンボルとか言われて我も我もと喜んでいるのだ。
若者受けはいいらしいが、卒業パーティーで婚約破棄した者が皆、王宮より遠ざけられていることになぜ気が付かないのか、不思議でしょうがない。
一時の悪ふざけなのか、楽しみなのか知らないが、自分の未来をつぶして何が楽しいのか、わしにはさっぱりわからない。
どうして誰も彼も婚約破棄をしようとするのか?
いや、婚約破棄はしてもいい。
婚約してみて合わないと気がつくこともあるだろうし、状況の変化もあるだろう。
だがなぜ?卒業パーティーで婚約破棄をしたがるんだ?
宰相が言うには今年は過去最大になるかもしれないと聞いた。
婚約破棄するもされるも瑕疵になるのに何故だ?恥ずかしくないのか?
どこかの国の王子など、相手を殺そうとしたと聞いた。馬鹿なのではないだろうか?
王は婚約破棄をどうしたら止められるのか今日も考える。
いっそのこと卒業パーティーを無くしてしまうか?
さすがに、婚約破棄しない生徒たちが可哀想過ぎる。
なら、卒業パーティーで婚約破棄したらその後結婚できなくするとかの法律を作ってしまうか?
それがいいかもしれない。
宰相に本音を漏らしてみた。
「さすがにそれは・・・貴族の数も減ってしまいますし・・・」
「なら卒業パーティーを廃止するか?」
「それもいくらなんでも・・・卒業パーティーでの婚約破棄が夜会に替わるだけではないでしょうか?夜会で婚約破棄がおこなわれるようになると、収拾がつかなくなるんじゃないでしょうか?」
そうかも知れない。
「もう、いっそ清々しく婚約破棄禁止令出してしまうのは・・・」
「それこそ非難轟々ですよ。本当に困っている者が破棄できなくなってしまいます」
「そうであろうな」
「今までどうにもできなかったから今があるのだと思いますが・・・」
「しかし、このままではいかんと思うのだよ」
「そうですね・・・今年は10人以上になると聞いておりますし」
「10人以上!?馬鹿しかいないのか?この国は!潰れるんじゃないか?この国」
「怖いですねー・・・」
「現状、すでに王宮の人材不足になっているだろう?」
「そうですね」
「いっそのこと降爵させるか」
「高位貴族がいなくなってしまうかもしれませんよ」
「税収が減るのはこまるが、今のままの状態で、爵位だけさげるのはどうか?」
「それならば、特に不都合は・・・ないかもしれません。やってみなければ何がどう作用するかはわかりませんが・・・」
「このままではどっちにせよ碌なことにはならん。やるだけやってみよ」
「では人目のある場所で破棄した者は有責として破棄した相手に金貨百枚支払うことを義務付けようか」
「人目は親も含まれてしまいますので・・・卒業パーティーや夜会等の、と付けたほうがいいのではないでしょうか?」
「そうだな」
「一度、議会に通してみましょう」
「うむ、頼んだ」
王はなんとなくうまくいくんじゃないかと満足した。
半年掛けて議会で話し合われた結果。
『卒業パーティーでの婚約破棄について。
夜会などの衆人環視の中での婚約破棄の一切を禁じる。
破れば有責となり、破棄相手に金貨百枚。 一ヶ月の強制労働と金貨五十枚罰金の実刑。
阻止できなかった親の降爵。に処す』
上記のように決められた。
王は直ぐに押印し、発表された。
概ね理解を得たが、今年婚約破棄をするつもりであった若者たちには不評であった。
親の降爵については愚かな子供を持つ親たちには非難を浴びたが、知ったことではない。
親が責任を持てばいいのだ。
宰相が調べてきた結果、若者たちは法の網目を潜る方法はないか、試行錯誤しているらしい。
頑張る方向間違っていると思うのだが・・・。
そして今年の卒業パーティーの日がやって来た。
卒業パーティー会場の中央。
「その貧相な体で私の婚約者を名乗るでないっ!婚約破棄はしないが、お前のその体で私を満足させられると思うなっ!」
「ここでは婚約破棄が出来なくなってしまいましたからいたしませんが、わたくしはあなたの足の臭いことが我慢できません!ご一考下さいまし!」
「私は其方の誰にでもいい顔をする所が気に入らない!婚約破棄はここではしないが、留意しておいてくれ」
「其方との結婚など考えるに恐ろしい!!」
「わたくしは、わたくしは・・・あなたが嫌いです!!」
などと「ここでは」とか「この後」とつけて、その場で婚約破棄しないだけで、卒業パーティーで相手を罵ることは止められなかった。
勉学が足りんのか?そもそもが馬鹿なのか?
誰かどうにかしてくれっ!!
宰相は考えた。
婚約破棄はなされなかったが、婚約破棄モドキはされた。
罰金だと親が苦しむだけだし、罰金をなしにして一ヶ月の強制労働に処することにした。
今年は十八人の婚約破棄モドキがいた事に頭痛を覚えた。
破棄しないならと逆に増えたと報告を受け、愕然とした。
強制労働に連れて行かれる18人の中にかなり高位の人間がいるが、本当にいいのかと何度も確認されたが、かまわないので実行しろと言い渡した。
強制労働に引き立てられた時は王と宰相の強硬手段に非難が集まった。
その中に高位の者の名を見て、皆黙った。
王宮掲示板に名前と婚約破棄モドキの内容を張り出し、次の卒業パーティーまでそのまま張り出しておくように言い渡した。
その張り出された紙を見て、王と宰相は頭を抱えた。
最近、第九王子の姿を見ないなぁ。とは思っていた。
まさか、王宮掲示板でその名を見ることになるとは思っていなかった。
「第九王子も強制労働に送ったの、か?」
「はい。送ってしまいました」
「なら仕方ない。な?」
「今更どうにも出来ません」
「私が婚約破棄に困っていたことを知らなかったのか?あのバカ息子は」
「知っていても流行りには弱かったのではないでしょうか?」
「婚約者のメルルはどう言っているのか、知っておるか?」
「貧相な体とまで言われ、お前では満足できないと言われたそうで・・・正規の手順で婚約破棄を申し込まれています」
王の首がもげたのではないかと思うほどがっくりと後に首が倒れた。
「だ、大丈夫ですか?」
「もう、結婚できないよね?」
「王の名を使えばどこにでもねじ込めるのではないでしょうか?」
「そんな事できないだろう」
「まぁ、そうですね」
「どこか遠いところで逼塞させるしかない、ね?」
「そうでございますね・・・」
実刑から帰ってきた者たちの多くの更生は上手くいった。
贅沢に慣れきった貴族には強制労働はさぞ堪えたことだろう。
中にはやさぐれてしまった者もいると聞いた。
それが第九王子だと聞かされたのは第九王子を逼塞させたあとだったが。
帰ってきた子供達を見て、親たちは人が変わったようになったと喜んでいたが、その子供達の目は死んでいた。と宰相は呟いた。
だが、この子供、いや、卒業したのだから大人だ。
強制労働に行った者たちは相手から婚約破棄されていて、結婚相手を探すのは難しいだろう。
第九王子に罰則を与えた王と宰相は称賛された。
知らなかっただけとは言い出せず、やけになった王様は、来年以降も厳しく処すと発表した。
さて、婚約破棄はこれで収まりますでしょうか。
Fin
楽しんでいただけたら幸いです。