1話
この物語は、日本を舞台に作られておりますが、並行世界としての日本という設定になります。
現実世界とは、似て非なるものとして作品をお楽しみ下さい。
また、この作品に登場する人物や、国名、地名、政党名、政治内容など全てフィクションです。
私は、気づけば病室のベッドの上にいた。
そして先程、転生魔法によって、別世界からやって来たことを思い出す。前の世界の記憶と、この肉体がこれまで経験してきた記憶の両方が、自然と自分の記憶として引き継がれていた。
この肉体の持ち主は、私が転移する前に、持病の心臓病が悪化し、心肺停止を起こしていた。心肺は蘇生されたが、発見が遅れたことで、脳に深刻なダメージを受けてしまっていた。
医師から脳死の告知を受けた矢先に、私の転生魔法が発動し、この肉体に宿った様である。
今の私の名前は、北嶺 未瑠叶と言う。偶然なのか必然なのか、前世も今世もミルカを名乗ることになった。ミルカという名前は、この世界では女性的な印象のする名前ではあるが、歴とした男性である。私が脳死の状態から回復したのは、前世の大賢者による能力が作用していると思う。
この世界では、科学が事象の大半を占めており、魔法は空想として括くられていた。大賢者の能力を持って転生したのに皮肉な話である。
「未瑠叶君~!良かったよ~。」
病室に入るなり突然飛びついて来たのは、幼なじみであり、恋人である、北条 麗美である。麗美のコロンの優しい香りが、鼻腔を擽る。麗美の香りに安心している自分が居ることに少々驚いてしまう…。
私は、消滅しかけていた未瑠叶君の魂を救う為、そして魂に刻まれた記憶を引き継ぐ為、魂ごと彼を取り込んだ。したがって、今の私を構成する魂や意識は、大賢者であったミルカであり、これまでの未瑠叶君でもあるのだ。私達は、記憶だけでなく、意識も共有する間柄となった。感情や感性、価値観なども引き継いだので、麗美の香りに反応したのだと推測する。
(転生することで、融合現象が見られるとは…。実に幸運。実に興味深い…。)
この感情は、ミルカの方の性質が表れた物だろう。
「麗美君、ほら病人相手ですよ。あちこちが潰されてしまいますよ。」
「ブゥ~。麗美は、太ってなんかいないよ~。それよか、未瑠叶君。喋りが可笑しいよ。」
「そうでしょうか?やはり生死を彷徨ったからかも知れませんねぇ。」
「あはは。やっぱり可笑しいよ。何だか大学の教授みたい。でも、もう助からないって聞いてたから…。本当に良かった。」
涙ぐむ麗美の肩を優しく摩ってから、頭を撫でた。
(未瑠叶君と私では色々と食い違いがあるようだが、今後は仮死状態の際に変わってしまったと押し切ろう。それにしても600年近くもコミュ障だった私にガールフレンドとは…。)
その後、入院中の間、身体中の精密検査を行った。しかし、異常が全く見つからなかった為に、転生より七日後に退院の運びとなった。持病の心臓病が完治したのは、間違いなく回復魔法"フルキュア"が原因だろう。
担当して下さった医師が、私の症例を学会発表すると息巻いていたので、軽い洗脳魔法で、私のカルテから脳死になった事実だけを消去して頂いた。これで、脳死から回復した人間の情報は、大ぴらにはならないだろう…。
退院後は、自宅に帰る。未瑠叶君のご両親は、私達の回復を心から喜んでくれた。そして、私達は北嶺未瑠叶としての日常を再開することとなった。
ーーー
未瑠叶君は、フリーのシステムエンジニアをしていた。融合によって、業務内容や科学に関しても理解はできてはいるものの、やはり前世とだいぶ異なる世界だと実感する。そして、未瑠叶君は、政治家の父の手伝いで、時間が取れる時には、秘書的な仕事もやっている。これは、将来政界に進む時の為に、経験を積ませておきたいという父の考えによるものである。
父は、名を北嶺源一といい、日本飛翔党に所属する、日本の国会議員である。現在は、防衛副大臣を任されている。
「未瑠叶よ。いずれは、お前が私の後を引き継ぎ、国政を荷なうのだぞ。」
「承知しております。」
父は、非常に真面目で、根っからの仕事人間である。その父も、最近は頭を抱えるシーンが増えているような気がする。父の話では、この所、日本を取り巻く安全保障環境が著しく悪化しているのだそうだ。
日本は、島国であるが、その周囲には、コルトル、ノコーシュ、アーセナ、ツーゴルなどの国々が存在している。これらの国々とは、表面上は仲良くしているものの、様々な外交的な問題を抱えており、不当に日本の領土を狙う国も存在していると聞いている。
「世界情勢は、以前とは比較できないくらいに不安定になっている。その原因の一つに国連の機能不全が上げられる。」
父の話によると、本来は国連が団結して平和や安全の維持にあたっていたが、現在は秩序を守る働きが上手く機能しなくなっており、紛争を抑えきれなくなっているという。
「こういった事情を踏まえて、周辺国が我が国に対して水面下で牙を剥いている状況だ。当然、情報封鎖で国民は知らないがな。」
「それは、戦争になると言うことでしょうか?」
「まあ、最悪の場合だがな。憲法が災いして迂闊に手を出すことも叶わない。こうした状況が関連国を増長させている原因の一助となっている。」
(戦争なんて洒落にならないぞ。まだ転生したばかりだというのに…。とりあえず情報収集はできるようにしておくか…。)
私は、父との話を終えて部屋に戻る。
情報収集には、敵を探知する手段が必要になる。私には、情報魔法"探知"があるが、範囲が約300キロ程度と制限がある。そこで、法に触れてしまう強引な手段になるが、国の機密を利用しようと思う。基地レーダーに哨戒機、潜水艦などのレーダー情報をこっそり拝借する。これらの情報は、ハッキングなどで侵入できない仕組みになっているため、直接侵入してから実行する必要がある。
この世界には、精巧な地図がある為、情報魔法"トレース"によって脳内にマップ情報を保存できる。そのマップ情報を利用すると、行ったことのない地点でも、転移魔法"テレポート"での瞬間移動が可能となる。これらを上手く使用して、レーダー基地やドックなどへ侵入する。
基地内では、隠蔽魔法"インビジブル"があるので、まず発見されることはないだろう。後は、闇魔法"ボロウ"でレーダー機能の一部を借用し、悪意探知魔法"マリスディテクション"も重ねがけすれば、家にいても敵軍が領海・領空侵犯した際に把握することができる。余りにも浮世離れした作戦だが、前世の大賢者の能力を持ってすれば容易いことである。
私は、密かに父のコンピュータにアクセスして、軍関連の情報を入手した。これは、未瑠叶君のコンピュータに対する能力が秀でていたことが幸いしていた。入手データを元に、必要な基地関連施設へ転移して、レーダーに魔法を施す。その際には、とある仕掛けも忘れずに行っておく…。
三時間程度で日本中の主要レーダーの干渉を全て完了した。罪悪感は感じるが、この事に気づいている者は、誰一人いないだろう…。これも、麗美や、両親、国内の人々を守る為である。
私は、魔力消費が激しいことや、隠密行動で極限まで精神をすり減らした為に、疲労でソファーでグダグダ寛いでいる。間違っても麗美には見せられない姿である。それでも、ミッションの成果の確認は、怠るつもりはない。私は、レーダーの情報をリアルタイムに収得して、分析している。領空侵犯に関しては、明らかな問題はないものの、海中に関しては9隻の潜水艦による領海侵犯を補足した。
実際に、レーダーと地図を元に転移魔法"テレポート"で現地に駆けつける。転移は問題ないが、海中の為に、潜水魔法"ダイビング"を使用する嵌めになった。潜水魔法は、海中でも呼吸ができ、水の抵抗や水圧を減少することができる魔法だ。潜水艦は、北斗海近郊に4隻。南国諸島近郊に5隻を確認した。
私は、情報魔法"鑑定"を使用して潜水艦の詳細情報を入手した。北斗海近郊の4隻は、アーセナの原子力潜水艦である。どれも核ミサイル搭載可能の鑑である。南国諸島近郊の5隻は、ツーゴルの原子力潜水艦で、同様に核ミサイル搭載可能であった。どちらも、通常兵器の魚雷と、弾道ミサイル、通常弾頭、核弾頭の配備を確認している。
(随分と物騒な物が遊びに来ているようですね。でも、ここは日本の海域です。あなた方は祖国にお帰り下さい。)
今回の状況は、領海侵犯しているだけで、明らかな損害を確認できないので、海自側も撃沈まではできない。それを理解した挑発行為だと思うが、領海侵犯したことに関しては、お灸を据える必要があると思う。私は、海自に代わって、これらの潜水艦にあることを行うことにした。
私は、対象となる潜水艦に接近、潜入し、時空魔法"スロウ"を使用した。スロウは、対象の動作を鈍らせる魔法で、各潜水艦に搭載されるタービンに対して行った。
タービンの動作が鈍った潜水艦は、スクリューの動力が低下し、推進力が大きく低下した。それだけではない。発電能力も低下する為に、酸素供給を始めとした環境維持機能の異常も表れたのだった。
魔法効果は、約一年は継続するだろう。全ての潜水艦は、重大なトラブルを抱えた為に、帰還を余儀なくされたのであった…。
「よし!犠牲出さずに追い払えましたね。我ながら見事でした。」
潜水艦による我が国へのちょっかいは、しばらく無くなるでしょうね。
ーーー to be continued ーーー
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