プロローグ (日本へ転生した大賢者)
この物語は、日本を舞台に作られておりますが、並行世界としての日本という設定になります。
現実世界とは、似て非なるものとして作品をお楽しみ下さい。
また、この作品に登場する人物や、国名、地域名、政党名、政治内容など全てがフィクションです。
これからお話する物語は、我々が今いるこの世界とは別の世界でのお話です。そう…。これは、並行世界での日本を舞台にした物語なのです。我々の知っている日本と同じ部分はありますが、全く異なる部分も多々あるようです。さあ、どんな世界があなたを待っているのでしょうか。
ーーー
《 202X年 日本 》
近年、日本を取り巻く安全保障環境は、悪化の一途を辿っている。世界を見回せば、戦争などの紛争は、何処かしらの国々で繰り広げられている。日本に関連した紛争は、他人事では無くなりつつあった…。
ここは、南国諸島上空。日本の領空識別圏から約50キロ地点。一人の青年が、空中に浮かんで何かを待っていた。
「おー!絶景絶景!この辺りは、海が綺麗ですね。」
「探知魔法通りでしょうか…あれはツーゴルの戦闘機CN01ですねぇ。合計15機。この地点では、明らかに領空侵犯ですね。では、早速ご退場頂きましょうか。」
青年は、飛行魔法"フライ"と転移魔法"テレポート"を駆使して戦闘機に接近する。彼は、難なく機体の上に着地した後、右手を翳すと、戦闘機のジェットエンジンからの噴射が突如停止した。同様なやり方で、CN01の15機全てが、機動力を失ってしまう。音速飛行ができなくなり、作戦不能となった機体は、これ以上の侵入を諦めてUターンして帰って行く…。
「じぁあね~。」
青年は、CN01の背中を見送りながら手を振った。
◇◇◇◇◇
少し時を遡ろう。この物語は、日本国の未来の歯車を、魔法の力で変えてしまった若者の話である。今回は、青年が超常的な能力を得ることになった経緯から紹介していく事にしよう。
《三ヶ月前》
《北嶺未瑠叶は、脳の損傷率が70%を超えています。機能復帰の為に回復魔法"フルキュア"を代理発動します。"フルキュア"を発動しました…。》
ーーー
「ん!?ここは何処でしょうか?」
私は、頭の中で変な声がしたような気がして目を覚ました…。気づいた時には既にベッドの上にいた。寝心地いい感触に驚きつつも、冷静に判断するのを忘れてはいない。
ここは、自分の知りうる世界とは違うようだ。白い壁に白い天井。俺の腕や鼻、胸の辺りには、見たこともない、不思議な紐が付けられていた。
「あっ、北嶺さん。」
全身白装束の女性が部屋に入って来た。彼女は、私と目が合うと、突然慌てて出て行ってしまった。大騒ぎしながら誰かを呼んでいるようだった…。
私は、未だに状況が飲み込めていない。記憶を失っているのだろうか…。私は、必死に記憶の回路を遡る。
◇◇◇記憶の回想◇◇◇
神々が創りし世界の一つ"ネオラーナ"は、魔王アスランテの手によって支配されていた。人族は、抵抗する力なく、魔族の支配を受け入れるしか無かった…。
時が経ち、人々の中から、神の奇跡の力"魔法"や"スキル"を持つ者達が現れ始めた。そして、勇者、賢者、聖騎士、狂戦士、超ヒーラー。様々な特徴のあるジョブが顕現されていった。やがて、超能力を所有した者達は、魔王討伐へと旅立って行く…。
その中の一人。名は、ミルカと言う。賢者のジョブを手にした者だ。賢者は、勇者に並ぶ上級職であり、魔法を極めた職業を指す。魔法に関しては、ミルカの右に並ぶ者はいない。勇者と同様、賢者は世界でただ一人。他の上級職も極めて希少な存在である。
上級職持ちである勇者タタラカ、賢者ミルカ、聖騎士ハンソン、狂戦士ガッシュ、超回復師ルーの五名が精鋭部隊として協力し、魔王アスランテの元に辿り着いた。
ミルカ達は、それぞれの能力を最大限に引き出し、そして欠点を補い合う。彼らの戦いは硬直し、既に二週間が経過していた。圧倒的な力を持つ魔王も、勇者達の善戦により、遂に膝を着いた。
ようやくネオラーナは、魔王と魔族からの支配から解放された。役目を果たした五名は、"五勇士"と称えられ、富や名誉を手にして、それぞれの人生を歩むことになる。
勇者タタラカは、現国王より王位継承し、一国の王へ。聖騎士ハンソンは、多くの女神信者の支持を集めて、教皇へ。狂戦士ガッシュは、闘技場のオーナー兼、自らも剣を取る剣闘士へ。超回復師ルーは、世界一の規模を誇る治療院の院長へ。そして、賢者ミルカは…。
ーーー 魔王城 ーーー
賢者ミルカは、魔王城にいた。ミルカは、地位や権力、金や名誉などにあまり興味を示さなかった…。彼の興味は、魔法技術の更なる高みにのみ向けられている。ミルカが魔王城にいるのは、魔法の研究・開発に最適だと判断したからである。城の主を失い、誰もいないこの空間は、誰にも邪魔されずに研究活動するのに持ってこいであった。
ここでの生活は、水や食料の確保に難があったものの、魔法によって充分な量を確保することに成功した。魔王城は、最短ルートで魔王と対峙しために気づかなかったが、まだ見ぬ部屋が多数存在していた。打ち捨てられた機械式の魔導兵や、魔道具、魔法武具など、ここは彼にとって宝の山であった。
時にはワナのトラップに掛かり、命を落としそうになることもあったが、半年もの期間を費やしてようやく魔王城の全てを掌握できたのである。
「ワォ~!素晴らしいですね!」
ミルカは、魔王城において、知識の集合体である書庫に辿り着いた。書庫は、人間の書庫では決して手にすることが出来ない、様々の情報の宝庫であった…。ミルカは、魔剣や魔防具に魔道具の書籍、見たこともない魔法の術式や、魔導生命体など、まだまだ知らない知識が沢山あることを知った。
ミルカは、書籍と睨めっこしては、実験し、失敗する。改善した後に、また実験し、成功すると、新たな課題に直面し、また実験する…。この繰り返しの日々を過ごしていた。20歳だった青年も、今は初老と呼ばれる歳になっていたのだった…。
「エンゼル君。今日のパンは、焼き加減が絶妙ですね。」
「マスター!恐れ入ります。」
「魔導農場の収穫はどうでしょうか?」
「マスター、順調です。」
「そうですか…。」
ミルカには、親もいないし、友達も居なかった。子供の頃も、成人してからも、そして…今も。勇者パーティの仲間は、あくまで戦いの仲間であり、友では無かった。
ミルカは、寂しさを紛らわす為に、魔王城で得た知識を利用して、魔導生命体を誕生させた。それでも、無機質な彼らでは、心の寂しさを埋めるには至らなかった。魔導生命体は、話し相手にはなってくれるが、友達にはなり得なかったのだ。
ある時、ミルカは肉体の老化を悟った。髪は抜け落ち、張りやみずみずしさを失った肌、広い魔王城を移動するのも辛くなっていた。絶望したミルカは、書庫に籠る。老化を食い止め、肉体を若返らせる秘薬の製法の手掛かりを探し続けた。
ミルカは、七年間の研究の末、不老の法を会得した。ミルカの身体は、二十代の頃の若さを取り戻し、その時から老化が止まったのだった…。
◇◇◇◇ 500年が経過 ◇◇◇◇
ミルカは、魔王城の書籍を読み尽くしており、必要な技術や魔法は、全て会得していた。独自の魔法も研究・開発して、多くの魔法を誕生させた。もうミルカが意欲を向ける物は無くなってしまった。ただただ、退屈と、寂しさだけが感情を埋めつくした。ミルカはこの時、人々との交流の大切さを身を持って知ったのであった。
「退屈ですね…。」
ミルカは、ようやく魔王城を後にした。世界を見る為に…。
飛行魔法"フライ"を使えば、世界中何処へでも一飛びだ。
居ないとは思うが、勇者パーティの仲間の動向を探るのが、旅の目的となった。
500年ぶりの王国の王都は、活気に満ち充ちていた。
街の人々には、笑顔が見られたり、時には揉め事もある様だ。昔とは違い、人間らしい世界に変わっており、何だか嬉しい気持ちになっていた。
中央広場には、我々五勇士の銅像が作られていた。
(あらあら。ブサイクなタタラカは、やたらとイケメンになっていますし、ルーは、世界最強の貧乳です。完全に美化されておりますね…。)
「あの…。五勇士の方々は、今はどうされているのですか?」
「あぁ~。アンタ、旅の方かい。五勇士の伝説に目をつけるとはいいセンスしているよ。まあ、500年も前のことだけどな。聞きたいかい?」
「是非聞かせて下さい。」
街のおじさんの話では、五勇士の勇者タタラカは、王になったそうだ。しかし、即位してたったの五年で、病に倒れて亡くなってしまったと言う。
(強健な肉体を持つ勇者でも、病に倒れてしまったのですか…。)
聖騎士のハンソンは、聖職者の教皇の立場にありながら、女性に溺れ、最終的には不信を抱いていた信者に暗殺された。
(ハンソンの末路は意外です。女性の女の字も無かった真面目な方でした。)
狂戦士ガッシュは、剣闘士では物足りなくなり、ドラゴンを倒しにネロゴンドラス山へ向かい、そのまま消息不明となった。
(ガッシュは、相変わらずですね。戦闘狂と言う言葉がピッタリな漢でした。)
超回復師ルーは、治療院で大成し、130歳までの大往生を遂げたそうだ。その後の話では、老化を遅らせる秘術を見つけた為に、長生きしたのではないかと言われている。
(ルーは、幸せな人生を送れたのでしょうか…。そうだったらいいのですが。)
ミルカについては…魔王討伐後、直ぐに行方不明になったとされていた。
(私は、すぐに魔王城に籠りましたからねぇ。)
「おじさん、ありがとうございます。」
仲間の様々なエピソードを聞くことができて良かったとミルカは感じた。ミルカは、満足した面持ちで、平和で満ち溢れる王都を去って行った…。
ーーーーー
ミルカは、半月もしないうちに魔王城に戻ってきた。今は、前より進化させた魔導生命体の歓迎を受けて、書斎で紅茶を啜っている。魔導生命体は、外見も人間と遜色なくなり、話す言葉にも感情が感じられる様になった。
(もう、大体やり終えた感じがしますね。残るはあれだけです…。)
ミルカには、望んではいたものの、最後まで試せない魔法が一つだけあった…。
転生魔法"リンカーネーション"である。
これは、魔王城の書籍よりヒントを得て、工夫と研究の末にようやく完成させた魔法である。実験=本番である為、この世界でやり残したことがなくなったら実行するつもりだ。もうこれ以上やるべきことを見いだせなくなったミルカは、転生魔法の実験に着手することにした…。
《ミルカは、ネオラーナにおける全ての魔法を習得しました。この結果を受けて、賢者のジョブが大賢者へと進化しました。》
(大賢者…ですか…それは…すごい…です…ね…。)
◇◇◇◇◇
「未瑠叶君!未瑠叶君!しっかりしろ!」
「はっ!はい…?アレ?」
「おぉ。気がついたか。脳死状態からの回復とは…。これは奇跡だ!」
私は、やはり異世界に転生したようだ。先程、転生前の記憶を概ね取り戻せたようだ。
赤子に転生したつもりでいたのだが、青年の肉体に転生してしまった様である。今更やり直しもできないので、消滅しかけの魂ごと彼の記憶を取り込むことにした。
「うっ。」
激しい頭痛と共に、この肉体の持ち主の記憶が、自分の中に突然押し寄せて来たようである。
ここは、日本と言う国で、今は治療を行う病院と言う場所にいるようだ。
そして、この肉体の前の持ち主は、既に脳死判定されていた。
医師によると、彼は持病の心臓病が悪化し、発作が起こり、長時間の心肺停止状態で発見された。心肺は蘇生したものの、脳死(実質的な死)を宣告したばかりなのだそうだ。
CTと言う装置で、脳死宣告直前に撮影した画像と、気がついた後に撮影した画像を見比べてみると、大きな違いが見つかったのだと言う…。
脳死宣告前の画像は、脳の多くの部分が、細胞の壊死を起こし、機能を停止していたようだ。しかし、後に撮影した画像は、脳の損傷はなく、全くの正常だったと言うことだ。おまけに患っていた心臓病も完治していた。
基本的に壊死した細胞は、回復しないのがこの世界の常識なのだそうで、私の場合は、異常(奇跡)と捉えられてしまったようだ。
私、北嶺 未瑠叶は、この様に、無事に異世界転生を果たせた様である。
ーーー to be continued ーーー
◇◇◇ 読者様へ ◇◇◇
お読み頂きありがとうございます。今後の執筆活動のモチベーションに繋がりますので、ブックマーク登録や、↓の☆☆☆☆☆のご評価を頂けましたら幸いに存じます。




