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ヤマアラシのジレンマ  作者: 巫 夏希
第一章 夜遊びはしてみるものだ
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第9話 対面③

「なあ、一つだけ聞きたいことがある」


 殺人鬼は、ぼくの数歩前に立っている。

 ずっと、カッターナイフの刃を入れたり仕舞ったりを繰り返している。

 そのたび、音が無音の夜に響き渡る。

 チャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキ。

 一定間隔で、入れては仕舞い込み、入れては仕舞い込みを繰り返す。

 苛立っているのか、或いは興奮しているのか。

 ……或いは、そのどちらでもないか。


「……ずっと聞いていれば、やはりというか何というか、話術ばかりじゃ何も始まりやしないよ」


 殺人鬼は、歩き始める。


「――ただ、ツマラナイ存在ではないことは間違いないよ」


 歌うように。

 流れるように。

 揺蕩うように。

 話を続ける。

 殺人鬼はポエマーであり、話し好きであり、それでいて……寂しがり屋に思えた。

 何かの講義で教授が無駄話の一環として、こんなことを話していたような気がする。

 罪を犯してしまう人間というのは、大なり小なり何処かが欠けているのだ――と。

 欠けているが故に、そこを満たそうとするか、或いは他の人間にもそれを経験させようとするのかは、分からない。

 いずれにせよ、それは犯罪者にしか分からないし、犯罪心理学のスペシャリストが散々研究したところで、それを解明するのは難しいのだという。

 もし、それが目の前の殺人鬼に適用されているのだとすれば、殺人鬼は話し好きであり――それを裏返しに考えると、話し相手が欲しいのではないだろうか、という結論に辿り着く。


「ツマラナイ存在というのは……面白い存在の裏返しということだ。或いは、そうでないのかもしれないし、そうであるのかもしれないし、それを判別するには時間を要することだろう。それをするだけの価値があるか? ……価値を見出させてくれるんだろうな」

「どうだろうね。それについては……、そう簡単に話してはいけないような気がするよ」


 答えをそこで言ってしまったら、終わりだと思う。

 さっきも言ったけれど、いかに時間稼ぎするかが勝負だと言って良い。


「……はっはっは!」


 数瞬の沈黙の後、殺人鬼は笑い出した。


「そんなに面白い話をしてくるとは思わなかった。普通、カッターナイフの音を立てたら、大抵の人間は恐怖で恐れおののくというのにね。……でもまあ、それもまた一興。あたしがずっとやって来たスタンスとは違うのは、それなりに色々とめんどくさいところもあるけれど。別に人を殺すのが最終的な着地点でもねーからな」

「……どういうことだ? 殺人鬼でも、人を殺さないで終わらせようとする時があると?」

「あるというか、何というか……。まあ、それについては長々と話す必要もない。で? 何が聞きたいんだって? 機嫌が良いからな、答えてやろうじゃねーの」


 それなら、一つ質問させてもらおう。

 ぼくがずっと思っていたこと――そして、それを聞かないと話が進まないこと。


「お前は――レディ・ジャックだな?」


 それを聞いた殺人鬼は一瞬の空白を置いて、こう言った。





「――――――ああ、その通りさ」



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