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臆病者、運命に流される  作者: 跳猫ひらり
1/2

1:出会い

 真昼の空は、今にも雨が降りそうな曇天だった。

 街中には人影は少なく、誰もが足早に家路を急いでいる。


 大通りから離れ、庶民の多くが暮らす下町の細い裏路地を行く小さな二つの影も、足早に石畳の道を歩いていた。

 だが不意に足を止めた影の一つが、囁くように呟く。


「なに?か……きこえた?」

「どうしたリセル?いそげ。雨がふってくるぞ」


 急に動かなくなった隣の影に、頭一つ分大きな影が振り返る。


「うん。ロンにぃごめん。でも……あっ、またきこえた」


 腕を引かれ、歩き出そうとした幼い影は、再び届いた微かな叫びに、首を捻って路地の脇へと目を遣る。


「あっちから、何がきこえるんだ?」


 動かない弟の視線の先へ、兄も釣られて顔を向ける。

 そこには、長い間放置されているのだろう、ぼろぼろになった布の塊が、幾重にもなって積み上がっていた。


「んと、たぶん……どうぶつのなきごえ?だとおもう。ちいさいから、よくわからないけど」

「えっ?どうぶつ?あの中にいるのか?」


 パッと表情を緩ませた兄は、弟の言葉に興味を持ったのか、握っていた手を離してぼろきれの山へと駆け寄った。

 躊躇なく両手を突き出し、埃と泥にまみれた布の中をごそごそと探り始める。


「うーん、どこだ?あっ、いた!」


 程なくして、嬉しそうな声を上げた兄が、両手に何かを抱えて振り返った。


「わあ、……かわいい」


 自慢げに差し出された手に乗せられていたのは、全身黒い毛をした小さな猫だった。

 思わず小さく呟いた弟リセルは、釣られるように側へ歩み寄った。そしてピクリとも動かない子猫に恐る恐る手を伸ばして、小さな頭をそっとひと撫でする。

 その瞬間、スッと冷たい風がリセルの体から熱を奪うように周りを通り抜けていった。


「うわっ雨だ!リセルかえろう!」


 突然降り出した大粒の雨に、兄は子猫を片手で胸に抱えると、反対の手で弟の腕を掴み走り出す。

 瞬く間に地面を濡らした激しい雨に、霞んで滲んだ小さな二つの影は、いつしか路地の奥へと消えて見えなくなっていた。

お手柔らかにお願い致します。

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