表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/36

第八章 マーラ辺境伯

 第八章 マーラ辺境伯へんきょうはく


 紳士物しんしものの服に着替えた後、んでマーラへ行けと言われたが、コウモリに変身することも背中からコウモリの翼を出すこともできず、結局馬を走らせて行くことになった。飛べない私を見てパパもママも絶句ぜっくしていた。


 さいわいい、マーラはそう遠くはない。三日三晩みっかみばん走り続ければ・・・と思ったけど馬が持たない。野宿のじゅくしながら行くしかないか。

 魔界の空はいつも暗い。日中も暗いから吸血鬼の私も出歩ける。夜はやみく、魔族の動きが活発になる。二十四時間働ける環境が整っている。こりゃあ不健康になりそうだ。


 結局、四日かけてマーラへ行くとお城にはあっさり入れた。私とマーラ辺境伯は面識めんしきがあるらしい。何となくだがまずいことになりそうな予感がした。


 謁見えっけんに通されると、マリウス王子と同じ牛のつのが頭に生えた成人男性がいた。きっとこれが第一王子のシリウス王子だ。


 「久しぶりだな。カイン。」

 シリウス王子が言った。やっぱり面識めんしきがあった。こちとら覚えがありませんが。

 「お、お久しぶりです。シリウス王子。」

 「俺がマーラにほうじられてから一度も顔を見せなかったくせに、今更何の用だ?」

 シリウス王子が嫌味いやみっぽく言った。カインは意外に薄情はくじょうだったのか。


 「じ、実は魔王様が危篤きとくとなり、それに乗じて宰相さいしょうカノープスが謀反むほんを起こしました。カノープスと敵対てきたいする諸侯しょこうおよびドラキュラ公国こうこく挙兵きょへいします。どうかシリウス王子もお力をお貸しください。」

 私はそう言って、かしずいた。私はパパから交渉における助言じょげんをもらっていた。それはマリウス王子の名を口にしないこと。理由を聞く前に馬が走り出してしまったから、なぜかは知らないがしたがっておいた。


 「マリウス王子はどうしている?」

 シリウス王子が尋ねた。ドンピシャNGワードだ。

 「え、マリウス王子ですか?王子は・・・生きています。」

 「どこにいる?」

 「王宮の外に。」

 「ドラキュラ公国こうこくか?」

 「・・・そうです。」

 「・・・」

 シリウス王子があからさまに不機嫌ふきげんになった。

 「おい、ハダル。カインをろうに閉じ込めろ。」

 「はい。」

 シリウス王子がそう側近そっきんの男に命じるとひかえていた兵士たちが一斉いっせいに私に剣を向けた。


 「なぜです!?シリウス王子!?」

 本当何でなの?弟助けないの?

 「カイン、お前は今日ここへは来なかったということにする。」

 シリウス王子が言った。意味が分からない。何を考えているんだ!?

 「ドラキュラ公国こうこくがマリウスのうしたてについたなら、お前は敵だ。」

 シリウス王子が冷酷れいこくな目で言った。


 「カノープスの謀反むほんの件は知っている。魔王が危篤きとくなのも。魔王が死んでいたら、すぐにでも挙兵きょへいするつもりだった。あるいはマリウスが捕らわれの身となっていても挙兵きょへいするつもりだった。だが、実際はどうだ?マリウスは秘密裏ひみつりに城から逃げ出し、ドラキュラ公国こうこくうしたてに戻って来る。」

 シリウス王子が忌々《いまいま》しそうに言った。


 「それのどこに問題が!?ご兄弟で城を奪還だっかんすればいいではありませんか!?」

 私はそう大声で言った。

 「カイン、お前は馬鹿ばかか?」

 シリウス王子が嘲笑あざわらうような笑みを浮かべた。

 「カノープスなどどうでもいい。あんなのは雑魚ざこだ。その気になればいつでも玉座ぎょくざ奪還だっかんできる。問題は魔王とマリウスだ。魔王はマリウスを次の王にするつもりで、この俺をマーラ辺境伯へんきょうはくほうじた。城から俺を追い払ったんだ。」

 シリウス王子はうらみのこもった目をして言った。


 「魔王は危篤きとくだが生きている。マリウスは強力なうしたてを伴って戻って来る。挙兵きょへいして何になる?俺に何の旨味うまみもない。」

 シリウス王子がやさぐれて言った。


 「先に城を奪還だっかんしましょう。先にカノープス軍を制圧せいあつできれば魔王様もマリウス王子もあなたを見直すでしょう。」

 私は言った。

 「今更挙兵(きょへい)してもドラキュラ公国こうこくよりも先に城には辿り着けない。同着どうちゃくなら意味がない。」

 シリウス王子がひじ掛けに頬づえをついて言った。この人を信用していいか分からない。だがこのままろうに入れられたら一生出て来られないのは分かる。この場を乗り切ることが先決だ。


 「・・・城につながる秘密の通路を知っています。」

 シリウス王子の目の色が変わった。

 「人払いを!」

 シリウス王子の右腕と思われるハダルが私に剣を向けていた兵士たちを部屋から追い出した。

 「詳しく話してみろ。」

 シリウス王子が真っ直ぐ私の目を見て言った。

 「城につながる秘密の通路があります。ドラキュラ公国こうこくと到着が同じでも、先に城に乗り込むことができます。カノープス兵にも見つかることはありません。」

 私もシリウス王子の目を見て言った。

 「嘘だったら、殺す。」

 シリウス王子が言った。恐怖で背筋がゾクリとした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ