第七章 魔界の華麗なる一族
第七章 魔界の華麗なる一族
王子に引き合わせると、パパとママは一緒にドラキュラ公国へ行くよう説得した。王子は二人が駆け付けたことを喜んだし、真剣に話に耳を傾けたが、隣にいたアベルは終始怪訝そうな顔をしていた。
パパと王子とのやり取りを聞いていて分かったが、魔界は他民族国家で、王子はタウルスという悪魔の一族らしい。ちなみにアベルはカプリコナスという山羊の角を持った悪魔の一族で、今回謀反を起こしたカノープスはヒドラという海獣、つまり海の魔物の一族だ。みんな魔族という言葉で一括りにはできないのだ。
さらに領地も複雑で、魔王が直接統治しているのは首都のディアボロのみ。他は貴族が王に代わって統治し、力のある貴族はその領地を国と称していた。
ドラキュラ公国もその一つだ。独立性が強く、表向きは魔王に忠誠を誓っているが、実のところは虎視眈々《こしたんたん》と魔界を牛耳ろうとその玉座を狙っていた。しかもパパはドラキュラ公国大公の弟だった。アベルが警戒するのも無理ない。
「ドラキュラ公国にお越し下されば大公が挙兵いたします。もちろん王子の御身もお守りするとお約束いたしましょう。」
パパが言った。私には分かる。この人は王子のことをそれなりに気に入っている。だから大人しく言うことを聞いてくれれば生かしてやりたいと思っている。
「行かなければダメか?挙兵して首都ディアボロで合流するわけにはいかないだろうか?」
王子が尋ねた。この私?カインが教育を施していただけあった王子は馬鹿ではなかった。ドラキュラ公国に赴く危険性を理解していた。
「それは難しいですね。大公には挙兵する大義名分が必要です。王子からの直接の要請がないと兵を起こすことはできません。」
パパは王子が抵抗しても落ち着いて交渉を進めた。
「カノープスと敵対する諸侯も挙兵する。それでもドラキュラ公国は王子であるこの僕に赴けというのか?」
意地の悪い言い方だが、これも交渉における一つの手法。悪くはないが、パパには通用しないだろう。
「カノープスと敵対する諸侯ですよね?ドラキュラ公国は己の私利私欲で動くわけではありません。王子のために挙兵するのです。そのことをお忘れなきように。」
ほらやっぱりね。パパは手強い。
「分かった。ヴラド卿の言う通り、ドラキュラ公国に赴き、直接大公に挙兵を要請しよう。」
王子は諦めて折れた。まだ子供なのにこれだけ大人とやり合えるのだからさすがは王子様。将来が楽しみだ。
「では早速行動に移しましょう。カイン、お前は着替えたらすぐにマーラへ発ちなさい。王子もどうかお召替えを。」
パパがそう言うと、王子が驚いたように大きく目を見開いた。
「マーラだって!?シリウスのもとへカインを行かせるつもりか!?ヴラド卿はカインが記憶喪失なのを知らないのか?」
王子が大声で言った。私の身を案じているような口ぶりだった。
「もちろん、知っています。けれど私に息子はこのカインしかおりません。カインにしかできないのです。」
パパはそう言って私を見つめた。どうやらヤバい仕事を任せられたらしい。