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第三章 カイン逃走中

第三章 カイン逃走中


 隠し通路は城の外につながっていて、しかも出口の目の前に馬がつながれていた。

 「カイン、馬に乗れる?」

 王子が私に尋ねた。

 「もちろん。」

 私は自信をもってそう答えた。なぜなら中高共に北海道ほっかいどうのド田舎いなか育ちで馬術部ばじゅつぶ所属!ここで役に立つとは。まさにげいたすくとはこのこと。


 「行って欲しいところがあるんだ。近くの町にクレイジー・キャットっていう宿屋やどやがあって、そこへ行けば助けてくれる人と落ち合えるんだ。」

 王子はそう言った。『助けてくれる人』か。私は助けてくれる人じゃないのかな。心に引っかかるものを感じながらも私は引き受けた。

 「その宿屋までお連れします。」

 「ありがとう。カイン。」


 王子と一緒に馬にまたると、手綱たづなにぎめ、馬を走らせた。城での一件からして、おそらく魔王の危篤きとくじょうじて宰相さいしょう謀反むほんくわだてたというところだろう。王子の身柄を押さえておきたい宰相さいしょう追手おってはなっているはずだ。宿屋で王子の言う『助けてくれる人』に無事会えるかどうかあやしいものだが、行ってみるしかない。


 道中どうちゅう宰相さいしょうの息のかかった兵士に姿を見られて追われたりもしたが、全員()いてやった。足場の悪い泥濘ぬかるみ岩場いわば渓流けいりゅう。どれも上級者コースだ。追って来られるほどの手綱たづなさばきをできる者は追手おってにいなかった。


 「もうすぐ例の宿屋やどやです。馬からりましょう。」

 私は背にしがみついている王子に言った。青い顔をしていた。乗り物酔いしたのかもしれない。だが追われる身。のんびりはしていられない。

 「王子、変装して宿屋に入りましょう。敵に待ち伏せされているかもしれません。」

 私はそう言って古着屋ふるぎやした。

 「分かった。」

 そう返事をする王子の瞳は灰色で、髪はサラサラの黒髪だった。私はこの王子を私と同じ金髪の美少女に変身させようと決めていた。


 古着屋ふるぎや一悶着ひともんちゃくになった。王子が女装を嫌がったのだ。

 「カイン、お前はとんだ変態へんたいだ!」

 今まで礼儀正しかった王子が急に汚い言葉を使った。まったく、元気じゃないか。

 「変態へんたい?この私が?私はいたって普通です。敵の目をあざむくために着て下さいと言っているんです。」

 「嘘だ!そのクルクル巻き髪の金髪のカツラとフリフリのドレスには悪意を感じる。それにお前が当然のようにドレスを着こなしているのもおかしい。日頃から着慣きなれているだろう!?」

 意外に鋭い王子だ。女ものの服は当然着慣(きな)れているし、フリフリのロリータは私の趣味だ。


 「いいから着て下さい。待ち合わせの人、帰ってしまうかもしれないですよ。」

 「そんな薄情はくじょうな奴じゃない!」

 「ずいぶん信頼の厚い方のようですね。誰なんですか?」

 「会えば分かる。カインも知っている人だ。」

 王子はそう言ったが、私は今日この魔界まかい転生てんせいしたばかりなので、その人のことは知らないと思う・・・とは言えないので、

 「私、記憶喪失きおくそうしつなので。」

 そう言っておいた。

 「そうだった。でも相手の身の安全を守るためにもまだ言えない。」

 王子はそう言って黙り込んでしまった。


 そうか。この王子はまだ私を信用していないのだ。私が宰相さいしょうの手先で味方の振りをしていると疑っているのだ。もし王子を助けに来るその誰かの名を知れば、裏切って宰相さいしょうに報告すると思っているのだ。命がけでここまで来たのに信用されないなんて悲しいことだ。


 「早く着て下さいね。外で待っています。」

 私はそう言って試着室しちゃくしつから出た。十分後、観念かんねんした王子がドレスを着て出て来た。うん、似合にあっている。


 「私たち、姉妹に見えますかね。私のことはカインではなく、カミラとお呼び下さい。王子のことは何とお呼びしましょう?」

 「マリウスだからマリーとかどう?」

 王子が言った。そうかマリウスというのか。

 「いいですね。マリー。」

 恥ずかしそうにはにかむ王子にそう言った。


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