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おんねん【城の日記念番外編】

今回は『城』のお話です。

甲信研究所 当直司令室


「肝試し?」


「はい! 東京にすごい曰く付きの遺跡があるらしくって! 来週一緒に行きませんか?」


当直司令室に差し入れを持ってきてくれた小笠原ちゃんが目をキラキラ輝かせながら言う。

アン・マリーのケーキはありがたいが、提案はあんまり…だ。


「小笠原ちゃんね、機構であんまりそういうこと言ってるとバカだと思われちゃうよ?」


そもそも普段から呪いだ幽霊だという類いのものの正体を暴いているのだ。

幽霊の正体見たり枯れ尾花…とはよく言ったもので、結局正体は大したものじゃない。

というか、大抵は事案性事物ですらない。

ただの勘違いだ。


「えー酷くないですか?」


「幽霊みたいなの見たきゃわざわざ東京まで行かなくても、くろ収にいっぱいいるでしょ」


「そういうことじゃ…あ、まさか怖いんですか?」


「残念ながらそんな古典的な煽りには乗りません。というか若い娘さんがわざわざ東京行くんなら他にもっとやることあるでしょうに」


「うーん、意外とやること無いですよ? 東京の大学通ってた時も休日は暇で仕方なかったですし」


…なんとも色気の無い生活だ。都内の大学生なんて勉強そっちのけで遊び呆けるものだと相場が決まっている。と、ネットに書いてあった。

こちとらあいにくと文字通りの化石人類なので、情報の真偽は知らないが…


「そもそも折角の休日に仕事の延長みたいな事したくないよ」


「博士、たまにはダムとアン・マリーと睡の華以外にも行きましょうよ…博士だってまだ若いじゃ無いですか!」


「まあ…私もまだ十(万)代だけど」


「流石に十代は無理がありますってー」


「えー、そうかなぁ」


捉えようによっては嘘は言っていないのだが


「ちなみにその心霊スポットってどこなの?」


「確か…滝山城って…」


ああ、なるほどね…これはいい機会かも知れない。



東京都八王子市 滝山城跡


安曇野ICから長野道と中央道を二時間程度走った先、八王子ICの比較的近くに滝山城跡はある。

心霊スポットとしては近傍の八王子城跡の方がメジャーではあるものの、どちらも豊臣の北条攻めで落城しているので心霊スポット化するには申し分無かったのだろう。

そもそも人が大勢死んでいるという『曰く』があると、そこに続きを求めたくなるのが人情というものなのだろう。

私の名前の由来となった千人塚も元々は北山城という武田家配下の春近五人衆片切氏が治める城だった。

織田信忠の伊那路攻めの際にあえなく落城し、周辺での戦死者やその武具などを城内に埋めて処理した。これが千人塚の始まりである。

その後周辺で疫病が流行り、破れ去った侍達の怨念だと思われて供養が行われたのだが、そもそも大量の死体を一ヶ所に埋めたら疫病が流行るのは当たり前だ。

結局のところ死者の怨念などほとんどが見立ての形でしかないのである。


「うぅ…結構雰囲気ありますね…」


「別に山なんて珍しくも無いでしょ?」


「そうですけどぉ…」


「ほら、さっさと行くよ!」


「待ってくださいよぉ! 博士ぇ…」



草木も眠る丑三つ時…魑魅魍魎が跳梁跋扈する人外魔境がそこに広がっている。

みたいな事を信じられるかどうかで肝試しを楽しめるかどうかは変わってくる。大抵の人は心のどこかにそういった未知への恐怖心の様なものがあるので大なり小なりエンジョイ出来るものだが、反面人間というのは慣れる生き物でもある。

心霊、呪い、怨霊、妖怪…日々そういったものと接している私の様な機構の職員は大抵瑞々しい恐怖心を失ってしまっている。

そう思えば小笠原ちゃんの様なタイプは珍しいとも言えるが、彼女の場合ただ単に経験が少ないだけだ。数年もすれば曰く付きの事故物件を掘り出し物のお買い得商品としか見られない普通の機構職員になっているだろう。


「博士ぇ…何でそんなにすたすた行っちゃうんですか…」


「そりゃまあ、慣れてるからねえ…っと、ここだ」


私は道から外れた場所にポツンと置いてある地蔵の前で足を止めた。


「…何がここなんですか?」


「小笠原ちゃん…何でここに一体だけお地蔵さんが置いてあるかわかる?」


「えっと…なんかあった場所だから…ですか?」


「滝山城が落城するときね、城内にいた女性と子供が敵の手に落ちないようにここで首を落とされたの…」


「えぇ…」


「それから今お地蔵さんが立ってる回りでいるはずの無い女性の姿が見られるようになってね…ほら、あんな感じの…」


小笠原ちゃんの背後を指差す


「ひいいいぃいぃっ!」


そこには白い服を着た髪の長い女性が何かを抱き抱えて立っていた。


「はか、博士! 出た! 出ました!」


「ほら、しっかり見てあげて…」


「博士! どうしちゃったんですか?! いやだぁ…来ないでぇ…」


うぅむ…なんだか流石にかわいそうになってきた。仕方ない、ネタばらしをしようか…


「小笠原ちゃん、いいからよく見てみて?」


「何でですかぁ…もういや…来るんじゃ無かったぁ…」


…思いの外大ダメージだった様でその場にへたりこんで泣き出してしまった。


「千人塚博士…あんた普通に連れて来れんのかい…」


「いやぁ…ちょっとしたドッキリのつもりだったんだけどね…」


「ったく…おねえちゃん、よう見て見ぃ、人間や!人間!」


「へ…?」


「立ち話もあれやから…付いてきいや」



「首都外郭防衛線…?」


ようやく落ち着いた様子の小笠原ちゃんに状況説明ネタばらしをする。


「そ、ここもその関連施設の一つで甲信研所属の出張所な訳」


地方から東京都中心部へ逆に東京都中心部から地方への事案の流入・拡散を防ぐために主要な国道や高速道路、鉄道ターミナル駅近傍に設けられた機構の施設を総称して首都外郭防衛線と呼んでいる。

ここは国道20号、16号、411号、中央自動車道、圏央道、JR中央線を監視して主として神奈川及び甲信地方方面の事案から首都を守るための施設KSOP-011である。

滝山の地下に設けられたこの中央指揮所施設から、周辺の各種センサーを用いた監視業務と駐留する調査員小隊による初動対処及び対事案遅滞戦闘を主な任務としている。


「小笠原ちゃんが滝山城跡に興味持ってくれたみたいだから、いい機会だし案内しとこうと思ってね」


「それにしたってあんな趣味悪い演出は要らんかったやろ…」


そう言いつつお茶とお菓子を持ってきてくれたのは加西主幹調査員だ。彼女はこのKSOP-011の責任者である。

幼少期から世界中の紛争地帯を渡り歩いていた伝説的傭兵だった彼女は何故か関西弁風の謎の方言を話すが、そこには深く突っ込まない方が身のためである。


「さっきは驚かしてもうてほんますまんかった。堪忍したってや」


「いえ…私こそすみませんでした…あまりにも博士が迫真のお芝居をするもので…」


「えー、私のせい?」


「どっからどう見てもそうやな」


いや、そりゃまあ私にも落ち度があったとは思うが…あれ? 考えてみれば私にしか落ち度が無い…参ったねこりゃ


「えっと…改めて、こちらがここの責任者の加西主幹調査員、そんで彼女がうちの期待の超新星小笠原富江主任研究員」


「あ、申し遅れまして…小笠原です。よろしくお願いします」


「加西や、よろしゅうな」


さて、二人を引き合わせ終わった事だし、早速本題に入ろう。


「そんで、小笠原ちゃん肝試ししたいらしいんだけど」


「肝練り?」


「肝試し!」


別に薩摩隼人になりたい訳じゃない。


「…いえ、さっきので大分肝は冷えました」


「まあまあ、なんかいいスポット無い?」


しばらく考えた後、加西調査員は一綴りの書類を持ってきてくれた。


「多分ここなんかちょうどええと思うで」


「道了堂…ね、オッケーじゃあちょっくら行ってきますか!車借りていい?」


「いや、うちも一緒に行くわ」


「えぇ…もう帰りましょうよぉ…」



東京都八王子市 鑓水 道了堂跡地


現地に到着すると、既に周辺の封鎖は完了していた。うん、仕事が速くて助かるね!

ここは都内でも有数の心霊スポットとして有名な場所だ。

効能は啜り泣きが聞こえたり、足音が付いてきたり、気分が悪くなったりと簡単に言ってしまえば代わり映えのしないごくごく普通の心霊スポットである。


「おんどりゃ、はよ出てこんかい!」


そんな場所に関西弁風の怒鳴り声が響いていた。


「えっと…私達何しに来たんでしたっけ?」


「ん?肝試しだけど…」


「いや、なんか取り立てとか出入りみたいになってませんか?」


確かに加西調査員は白衣を着ていなかったら完全に反社会的勢力の構成員にしか見えない状態だが…


『わかった!わかりました!出ますから!あんまり散らかさないで!』


「ひっ!」


急に頭のなかに響いた声に小笠原ちゃんが小さな悲鳴をあげた。


「おるんなら最初っから出てこんかいボケカス!」


わお、お下品


「博士…これ何ですか…?」


「幽霊って呼ばれるやつ」


「へ…?」



日本に幽霊が現れ始めたのは、少なくとも原始的な社会が形成されはじめて以降の事だ。

一般的には死んだ人間の魂や何かだと思われがちだが、その実として私達とは原理の異なる知的生命体というのがその正体である。

身体を構成するのは物質ではなく微量のエネルギーであり、自然界に存在するエネルギーや人間の感情の揺れ動く時の振幅を糧とするエネルギー生命体だ。

その性質上人間を驚かせてエネルギーを得ようとする傾向があり、古来より恐ろしいものだと思われているが、保有できるエネルギー総量が小さいため物質生命体である人間に対して物理的影響を与える事はほぼほぼ不可能と言っていい。

個体数もそれなりに多く、人間に近い精神構造を有している事もあり、機構は住み分けを条件に管理収容を行わないでいる。


「で、その住み分けの中に能動的に人類に干渉する事を禁止するっていう部分があるんだけど、たまに自分から出てきちゃう連中もいて、そういうのは管理収容する事になってるわけよ」


『いやいや、誤解ですってばぁ…』


「もうネタはあがってるんや! 観念せえ! 今度こそぶちこんだるわ!」


『人間が勝手に来て勝手に怖がってるだけですってぇ~勘弁してつかぁさい~』


なにやら古典的なヤクザものみたいなやり取りを背に小笠原ちゃんに説明する。


「はぁ…何て言うか…」


「意外と怖くもなんとも無いでしょ?」


「はい…こういうのを見せてくれるためにわざわざ?」


「まあ、小笠原ちゃんには期待してるからね」


知らないものへの恐怖を克服するためには、単純に知ってしまうのが最も簡単な方法だ。

危険な致死性事案に対しては適度な恐怖心を持って対応にあたることも重要だが、無闇やたらな恐怖心は判断力を鈍らせてより大きな危険を招くことにも繋がりかねない。

感覚としてそれを分かるのにはまだ時間が掛かるだろうが、それでもこの経験を糧に長生きして欲しいというのが、私の偽らざる本音である。



甲信研究所 千人塚研究室


「で、結局無罪だった…と」


あの肝試しから一週間後、加西調査員が報告のために甲信研にやって来ていた。


「しゃーないやろ…あいつは初犯ちゃうし、報告もぎょーさんあがっとったんやから」


あのとき捕まえた『幽霊』を調べた結果人間との接触の形跡は発見されず、謝罪の後釈放となった。


「なんか話を聞いてるとあんなに怖がってた自分が馬鹿みたいです…」


「まあ、慣れないうちはしゃーないわな。ただまあ、ほんまに厳ついもんが動き回らんようにするためにうちらがおんねん。気張りや?」


「はい!」


心霊スポットと思われている城跡の地下で、人々を守るための現代の城が人知れず動いているというのはなんとも皮肉な話だが、まあ幽霊話以上に荒唐無稽な団体で働くというのはそういうことなのだろう。


幽霊の正体みたり枯れ尾花


彼女の言う通り、人々がそれを枯れ尾花だと思えるようにするために私達がいるのだから…

城の日ということで、このような内容にさせていただきました。

タイトルはちょっと下らなかった気もしますが、私的にはきにいっていたりもします。


また何かの記念日にお会いしましょう!

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