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46:続・冬籠りの日々

 冬籠りが始まって変わった事は他にもある。朝晩の挨拶の時、カークが口付けてくるようになったのだ。

 最初は髪や頭への口付けだったから、恥ずかしくてもどうにか耐えられたのだけれど。日を追う毎に額に頬にと位置が下がっていって、ある日ついに唇にキスを落とされるようになった。


「おはよう、カーク」

「ラクリス、おはよう。今日も可愛いね」

「んっ……あ、あの、これってどうしてもしなきゃいけないかしら」

「口にはダメ?」

「そういうわけではないけれど……。その、ドキドキして眠れなくなるから」


 想いを通わせたあの日と同じ、軽く触れるだけの短いキスだけれど、私はなかなか慣れない。恥ずかしくなって悶えてしまって、どうしても寝付けなくなってしまうのだ。


「それはごめんね。でも、今は朝だからいいよね?」

「えっ。あの、その」

「ラクリスが嫌なら夜はやめるから、朝は許してほしい。君の唇に触れたいんだ」


 ついさっきまで幸せそうだったカークの表情が、寂しそうなものに変わる。そういう顔をされてしまうと、私は弱い。


「嫌なわけではないのよ。ただ、その、慣れなくて」

「ドキドキしてもらえるのは嬉しいよ。きっと毎朝していたらそのうち慣れると思う。そうなったら、夜もしていい?」

「えっと……うん」

「ありがとう。慣れてもらえるように、頑張るね」


 幸せそうに微笑んで、カークはまた口付けてくる。流されてしまった気もするけれど、この笑顔にはどうしても勝てない。

 そうこうしているうちに身悶える事も減ってきて、むしろ夜のキスも期待してしまう自分に気がついて、また恥ずかしさが戻ってきたり。

 とにかく私の心は、冬籠りが始まってから慌ただしく跳ね続けている。


 そして変化は私たちの関係性だけでなく、カーク自身にも現れ始めた。呪いで使えなくなっていた魔法が、少しずつ使えるようになり始めたのだ。

 冬の寒さを乗り切れるように温泉に入る時間を増やしたから、きっと効果が出始めたのだと私は思っている。


 その結果、クロムへの魔法指導も変わり始めた。冬の間は家からあまり出ないようにしているから、当初クロムは洗濯を魔法で出来るようになるための練習をひたすらしていたのだけれど。なんとカークと一緒に、魔法で雪かきを始めたのだ。

 手をひょいとカークが動かすだけで、雪が勝手に傍に避けて道が出来ていくから驚いてしまう。クロムに教えるカークの立ち姿も、以前よりさらにしっかりしたものになってきていて。真剣な横顔も素敵過ぎて、心臓に悪い。


 とはいえ、ついつい二人の練習風景を眺めてしまう。何せ、雪で外に出られないから家でのんびりするしかないのだ。これまであまり見る機会がなかったから、せっかくだし見学させてもらっている。

 カークの話によると、雪や氷のように溶けると水になる物も水魔法で扱えるらしい。作り出した魔法の水ではなく、自然にある水やお湯、雪などを扱う時は加護の力を大きく使うから、呪いで弱っている状態では手本を見せる事も出来なかったそうだ。


「あ、そうだ。ラクリス、畑に行く時は教えてね」

「畑の雪かきなら今はまだ大丈夫よ」

「いや、そうじゃなくて。降らないようにすることも出来るから」


 どうやら雪かきだけでなく、温泉に入っている時や畑で作業する時などに、降ってくる雪が頭上に来ないようにも出来るらしい。

 気が付けば、確かに今、私たちの周りだけ雪が降っていない。これはカークが魔法でやっているという事なのだろう。


「すごいですね、カーク。こんなに色々出来るなんて」

「まだまだ力が戻ったとは言えないけどね。だからクロムには頑張ってもらわないと」

「はい、師匠! 頑張ります!」


 こんなに凄いのに、まだカークの力は完全に戻ったとはいえないらしい。全快すれば、一日中この家全体を雪が降らないように出来るし、村までの除雪も簡単に出来るのだとか。

 そんなわけで、クロムが魔法で雪を自在に動かせるようになったら、村までの道を作るつもりだとカークは話した。


 こうして三人一緒に過ごす時間が前よりずっと増えたから、知らなかったカークの一面をたくさん発見出来た気がする。

 家事や訓練以外の時間は、三人でカードゲームをしたりお茶を飲んだりして。暖かで優しく穏やかな冬の日々を、私たちはしばらくまったりと過ごした。

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