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39:キャベツ王子の本気

 収穫祭の翌朝も、いつもと同じく良いお天気だった。今も毎日、夜半過ぎになると雨が降っているようで、朝日が照らす木々の葉からは雫が滴っている。

 そして昨日、戸惑う私を色々と気遣ってくれたカークも、スッキリと爽やかな笑顔で起きてきた。私の答えを待ってるだろうに、優しく微笑まれると胸が痛い。

 私の心は晴れないままだけれど、カークにどう答えるかは決めてあるから。二人きりになり次第、返事をしようと考えていた。

 けれど……。


「……狩り、ですか?」

「そう、狩り。だからお弁当を作ってほしくて」


 朝食後、カークは今日、森へ狩りに行くつもりだと話した。もちろん一人ではなくクロムと一緒だそうだ。

 でも狩りといっても、一体どうやって。なぜ突然に?


「危なくはないんですか? 罠とかを仕掛けるんですか?」

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ。クロムの訓練の一貫だし、魔法を使うから」

「魔法って……あのお水でですか? そういえば攻撃にも使えるって、前に言ってましたね」

「うん。やり方は色々あるんだ」


 すっかり忘れていたけれど、確かカークが呪われる原因となったのも、お城に入り込んだ賊と戦ったからだったはずだ。なかなか信じられない話だけれど、どうやら本当に水魔法は攻撃手段になるらしい。

 いつもはお皿を洗うのに使っている水球で顔周りを囲ってしまうと、溺れさせる事が出来るんだとか。他にも小さな水の球を高速で打ち出すと、小石をぶつける以上の傷を与えられるそうだ。

 水が石のようになるなんて信じられないけれど、弟子を持つカークが出来るというなら出来るんだろう。


「それでもう一つ頼みがあるんだけど、獲物が取れたらそれを料理してほしいんだ」

「それは構いませんが……実を言うと私、丸ごと捌くのはやった事がないんです」

「それは心配しなくていいよ。オレとクロムでやるから」

「カークが? そんなことまで出来るんですか?」

「まあね。野営も何度もしているし、食料の現地調達はこれでも結構得意なんだよ。今はそう見えないかもしれないけれど」

「あ……ごめんなさい」


 私としては、王子がそんな事を出来るのかと思って尋ねたのだけれど、カークはそう思わなかったようだ。カークに対して、私が病弱な印象しか持っていないと考えているみたい。

 でもそれを否定出来るほど、カークがキビキビと動く様を想像出来るわけでもないから、私は素直に謝った。するとカークは、じっと私を見つめてきた。


「謝らなくていいよ。ただ、これからオレが変わる所を見ていてほしい」

「カーク……」


 カークの蒼い瞳からは、告白してくれた時のような熱が感じられる。もしかして昨日私が迷ったのを、呪いで体が弱ってるからだと勘違いしているのかしら。もしそうなら、それは違うと言わなければ。

 そう思ったのに、続けてカークから言われた言葉に唖然としてしまった。


「肉料理も、ちゃんとオレの分も用意してね。これからはしっかり食べたいんだ」

「え……お肉そのものを食べるんですか?」

「うん。やっぱり体を作るのは肉だと思うから」

「でも、それでまた体調を崩したら」

「大丈夫だよ。ラクリスの料理なら大丈夫。それに今ならまだ医者だって呼べるから。冬になってから試すよりずっと良いでしょ?」


 ニッコリと笑みを浮かべるカークは、譲る気がなさそうだ。心配ではあるけれど、そもそも私もカークには一日でも早く元気になってもらおうと考えていたのだ。

 お肉も食べてもっと元気になれたら、春になる頃にはカークは国に帰れるようになるかもしれない。そう思うと、ギュッと胸が痛むけれど、好きだと言葉を返せない私が持っていい気持ちじゃない。

 止める理由なんて何もないから、私は精一杯の笑みを返した。


「……分かりました。カークが美味しく食べられるように頑張りますから。新鮮なお肉、お待ちしてますね」

「うん、ありがとう」


 頼まれたお弁当を渡すと、カークとクロムはすぐに森へ出かけていった。二人が初日に仕留めたのはウサギで、シチューにして出したけれど、カークはしっかり食べて美味しいと笑ってくれた。幸いな事に、隣町の医師の出番は全くなかった。


 この日から、カークとクロムは毎日狩りに出かけるようになった。お留守番をしている私は、配達される野菜を受け取ったり新しく出来た畑で作業をしたりと忙しい。

 カークと二人きりになったら伝えようと思っていた返事は、結局言えないまま日々が過ぎていく。それに焦りもしたけれど、同時に直接断らずに済んでホッとしている自分もいる事に嫌気がさした。


 それでも日は巡り、冬が近づくにつれてカークはどんどん健康的になっていった。お肉を食べて毎日森に入る事で、かなり体力が付いてきたようだ。今まで一度も見た事がなかったけれど、剣を手に朝早くから素振りをしている姿まで見るようになって驚いてしまう。

 筋肉も程よくつき始めたカークは、相変わらず綺麗だけれど男らしさが増してきていて、ついドキドキしてしまう事も多い。

 クロムが手洗いしていた洗濯物も、いつの間にかカークが水魔法で綺麗にするようになったから、どうやら水魔法も使えるまで回復し始めたようだ。もしかすると本当に、春頃には国に帰れるぐらいにまで回復するかもしれない。

 それがとても嬉しくて、同時に寂しくも感じてしまう。


 あの日、蓋を閉めたはずの恋心は、変わらぬカークの微笑みや優しさを受けるうちに大きくなっていて。このままではそう遠くないうちに溢れ出してしまいそうだ。

 カークからは一度も返事を促される事なく来てしまったけれど、これ以上時間が経つと本気で断る事が出来なくなりそうで。

 どうにかして二人きりの時間を作らなければと、そう思っていたある日。ついに辺境の村に、真っ白な雪が降り始めた。

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