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29:棒占いの不思議

「ラクリス様、どうしたんですか?」


 ちょうど良さそうな枝を手に、出来るだけ平らな場所はないかと辺りを見回していると、クロムが不思議そうに尋ねてきた。

 するとカークが、キラキラと瞳を輝かせた。


「棒占いをやるんだね」

「棒占い? ああ、アレですか」


 クロムは平民だったからか、棒占いを知っているようだ。でもそれは遊びの棒占いだろうから、苦笑いを浮かべている。

 きっと「いい年なのに遊び出すなんて」なんて思っているのだろう。あまりいい気はしないけれど、クロムは私の事情を何も知らないのだから、そう思われても仕方ない。


 そんな風に私は思って、気にせずに棒占いを始めようと思ったのだけれど。カークが私を庇うように声を挟んだ。


「クロムも棒占いを知ってるんだね。オレの時は全部ラクリスに向いてたけれど、幸運の棒占いはどう出るのかな」

「幸運のって……。師匠、何ですか、それ?」

「ラクリスの棒占いは当たるらしいよ。それでご両親は財を築いたそうだから」


 なぜか自信満々に言うカークの言葉に、何となく照れくさくなってしまう。あの話をカークは信じてくれているんだなと、胸がほんのり温かくなった。

 けれど同時に、クロムの訝しげな視線も痛い。どうにも居た堪れずに、私はさっさと枝を地面に立てた。


「と、とにかく! 手がかりはありませんし、やってみますね!」


 深呼吸をして気持ちを落ち着ける。今はカークのために温泉を見つけるのが先だ。温泉はどこにあるのだろうか。

 願いを込めて手を離すと、思った通り枝はきちんと倒れてくれて、隣国との国境になる山の方を指し示した。


「あっちみたいです。いきましょう」

「うん、行こうか。……クロム?」


 枝が変に立ち続けたりしなかった事に安堵して振り向くと、カークは頷いてくれたのだけれど。なぜかクロムが驚いた顔で動かないから、カークと私は首を傾げた。


「クロム? どうしたの?」

「あ、いや……あの」


 クロムは倒れた枝と私を交互に見ながら、何か言いたげにハクハクと口を動かしている。

 そのあまりのおかしさに、カークが心配そうに眉根を寄せた。


「クロム、何かあったのか? 息は出来てる?」

「……はい。大丈夫、です。大丈夫……」


 顔を覗き込んだカークにハッとした様子でクロムは頷くと、思案顔で何やら一人ぶつぶつと呟いている。

 一体どうしたのか分からないけれど、私はカークと顔を見合わせて、とりあえず歩き出した。


 当たり前といえば当たり前だけれど、森には道なんてない。帰り道を見失わないように所々に目印をつけながら、私たちは進んでいった。


「ラクリスは手慣れてるね。怖くないの?」

「森がですか? 特に怖くはないですね。家族で行商していた頃も、何度か森に入った事がありますし。それより私としては、カークが慣れている方が驚きました」

「ああ、それはオレが王子だからかな? ラクリスは知らないかもしれないけれど、どこの国も城の敷地に森があったりするんだよ。王家直轄領の森には、狩りにも行ったりするし。まあオレなんかは、魔法の練習で行ったことの方が多いけど」


 他愛無い話をしながらある程度進んだけれど、なかなか温泉は見つからない。もう一度棒占いをしてみようかと、手頃な枝を手にする。

 すると、クロムが食い入るように見つめてきた。


「ラクリス様、またやるんですか?」

「ええ。どうかしたの?」

「いえ……どうぞ」


 何一つ見逃さないと意気込むかのように、クロムはじっと私を見つめてくる。どうにもやり辛くてカークをちらりと見れば、カークは苦笑して足元の枝を拾い上げた。


「今回はオレがやってみようか」


 クロムの視線を遮るように、カークは私とクロムの間に立って枝を地面に立てる。「温泉はどっちかな?」なんて明るく言いながら手を離すと、パタリと枝が倒れて。

 それと同時に、クロムが「あっ!」と声を上げた。


「師匠! 今の!」

「ん? どうした?」

「もう一回やって下さい!」


 頬を紅潮させて言うクロムのただならぬ圧に負けて、カークはもう一度棒占いをした。先ほどと全く同じ方角に、枝はパタリと倒れる。

 クロムはそれを穴が空くように見つめた後、急に私に振り向いた。


「ラクリス様もやってくれませんか!」

「え? ……ええ」


 本当にクロムは、どうしてしまったのだろうか。意味が分からないけれど、あまりの形相に気圧されてとにかく棒占いをする。

 すると私の枝も、カークの枝と同じ向きに倒れた。


「すごい……すごい!」

「クロム?」

「さっきからどうしたんだ、クロム」


 クロムが一人で興奮し始めたから、なんだか心配になってきた。カークが真剣な眼差しでクロムに問いかけると、クロムはキラキラとした顔で、倒れた二本の枝を指した。


「今、妖精がいたんです!」

「……へ?」

「すごい、初めて見た。こんなのってあるんだ! 本当に温泉があるかも!」

「く、クロム⁉︎」


 クロムは興奮したまま私とカークの手を掴み、枝の倒れた方向へ、ぐいぐいと引っ張っていく。突然の事に戸惑いながらも足を進めると、程なくして森が開け、沸々とお湯の湧き出る泉が現れた。

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