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1:親友に奪われました

甘々目指して書いていきます。

今日のみ5話投稿。明日から1話ずつ投稿予定です。

よろしくお願いします!

「ラクリス。こうなった以上、このままというわけにはいかない。聖女の称号は剥奪し、婚約も解消する。速やかに荷物をまとめ、城を出てくれ」


 王城裏の聖なる森にひっそりと佇む聖神殿。その祈りの間に神官たちの驚きと喜びの声が響く中、呆然とする私にハーウィル王国王太子フェルシオン殿下は淡々と告げた。


 望んでもいない城に十年も留め置かれ、聖女、そして婚約者として義務を果たしてきたのだから、こんな話をされて悔しくないわけがない。

 でもこれも仕方ない事だと理解出来る。本来、聖石を光らせるのは聖女である私の役目だったけれど、私の力は一ヶ月前に突然消えてしまって。女神像の持つ聖石に虹色の光を宿したのは、私ではなく侯爵令嬢オルカ・クレイメアだったのだから。


 百年に一度現れる聖女は、王族と婚姻するのが習わしだ。私と殿下の婚約に愛はなく慣例的なものだったけれど、それなりに互いを思いやってきた。殿下も色々と思う所はあるのかもしれないけれど、お役目としてこうするしかないのだろう。

 聖女の力は国を守る大切なもので、聖石に光がなければ王国の土地は痩せ、魔獣も闊歩するようになってしまう。殿下は新たな聖女となったオルカを受け入れるしかない。婚約解消を告げた殿下の瞳がどこか申し訳なさそうに揺れて見えるのが、せめてもの救いだろう。


 だから私は殿下に対して怒りはない。ただ、オルカに対しては別だ。

 私がつい先日まで親友だと信じていた彼女は、殿下の隣で憂いに満ちた視線を私に向けた。


「長い間ご苦労だったわね、ラクリス。でもどうか心配なさらないで。これからはわたくしが殿下と国をお支えしていくわ。あなたは安心してお行きなさい」


 穏やかなその声は、何も知らなければ聖女に相応しいと感じられるものだ。けれど私にだけ見える口元は、嘲るような笑みを浮かべている。

 とんでもない女がいたものだと、腹が立って仕方ない。だってこれはきっと全て、オルカが仕組んだ事なのだから。


 一ヶ月前、私はオルカが淹れたお茶を飲んで意識を失った。そうして目を覚ました時、私の聖女の力は消えていた。

 その日から私の世界は一気に変わった。神殿や城の人々は私に辛く当たるようになり、殿下から贈られた品も含めて多くの私物が壊されたり盗まれたりして消えてしまった。

 それを誰かに訴えても、誰も取り合ってくれなかった。殿下に取り次いでもらう事さえ叶わなくなった。


 それでもオルカだけは励まし慰めてくれていたから、信じていたのに。私の力が失われた原因を探っていた大神官様が急逝されると、オルカも態度を一変させた。


 大神官様は、王宮に来た私にずっと親切にして下さっていた方だ。私にとって殿下とオルカ、大神官様の三人だけが、王宮内で信頼できる相手だった。

 そんな優しいおじいちゃんだった大神官様が、女神様の御許(みもと)へ召されたあの日。オルカは『いい気味ね』と泣いている私に言った。

 そして、『聖女の力がなければ、あなたの居場所なんてここにはないの。さっさと出て行ってくれないかしら。あなたよりわたくしの方が聖女にも殿下にも相応しいのだから』と言って笑ったのだ。


 私は最初、信じられなかった。大神官様の死が悲しすぎて、おかしな聞き間違いをしたのだと思い込もうとした。

 けれどオルカは『わたくしはずっとあなたが嫌いだった。それなのにわたくしに縋ってたなんて、本当に惨めね』と言って、消えたはずの殿下からの贈り物を私に見せてきて。返してと叫ぶ私の目の前で、オルカはそれを砕いて見せた。

 私の私物が消えたのも、殿下に会えないのも、周りのみんなが急に冷たくなったのも、全てオルカが裏で糸を引いていた。今までは大神官様がいたから猫を被っていたのだと分かって、私はただただ悲しかった。


 そして今日の出来事だ。

 聖女は百年に一度しか現れないのだから、オルカが新たな聖女だなんて絶対におかしい。彼女が何かしたのだとしか考えられない。


 でも何も証拠なんてない。どうやったのかも分からないのだから、オルカが何かをしたなんて話を信じてもらえるとも思えない。本当に私の聖女の力が消えて、オルカが新たな聖女として目覚めた可能性だってないとは言えないのだ。

 だから私は精一杯笑みを浮かべて、粛々と頭を下げた。


「お世話になりました。どうぞお元気で」


 二人に背を向け、私は聖神殿を出る。殿下は荷物をまとめて出て行くようにと仰ったけれど、私物なんて使い古しの下着ぐらいしか残っていない。

 私は自室には戻らずに、聖なる森の片隅にある小さな畑に向かった。

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