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領主と商人と転生者

「さて、商人殿、本日はどのような用件で参られたのかな?」


「これは、これは、領主様。本日はご面会いただき、ありがとうございます。この商人、本日はお見せしたい物がございまして参上いたしました」


 早速ですが……と、商人が品物を広げる。刺しゅうが施されたベルトのような物に、∩型のストラップが2本付いている。


「……これは?」


「授乳ブラでございます」


「ブラジャー? ブラジャーというのは、女性の乳房を支えるカップが2つ付いている物ではないのか?」


「恐れながら、これは『カップレスブラ』と呼ばれる異世界のブラジャーを模した物でございます。日本では『えーぶいじょゆう』と呼ばれる女性が愛用すると聞いております」


 ……


『えーぶいじょゆう』についてなら領主様も知っていた。『スマホ』という魔道具を使えば、『ぽるん〇ぶ』などでその姿を見ることができる。ただし、それ相応の魔力が必要になる。ぶっちゃけると、異世界から映像を転送するだけでなく、モザイクの面積を小さくするために信じられないほどの魔力が必要になるのだ。そして、領主様が持つ魔力では胸にさえモザイクがかかってしまう。そうか、あのモザイクで隠されていたのは『カップレスブラ』であったのか。そんなことは恥ずかしくて、とても商人には言えない領主様であった。


「うむ、知っていた、知っていたぞ。ところで、この刺しゅう、魔法陣に見えるのだが、何か魔法が付与されているのではないか?」


 これは、これは、と商人は大げさに反応する。


「確かに魔法陣がアラクネの糸を使って刺しゅうされております。これに魔力を注ぐと授乳魔法が発動いたします」


「授乳魔法?」


「はい。この授乳ブラを着用した男子は、おっぱいが出るようになるのです」


「なんと! 加護がなくとも授乳夫になれるというのか?」


 領主様は考える。この世界では、生まれてくる赤ちゃんの半数近くが母乳中毒症にかかっている。授乳夫を雇って、母乳中毒症の赤ちゃんにおっぱいを飲ませることができる親は限られている。金のない平民の母親から生まれた赤ちゃんの半数は、なすすべもなく死んでいくのだ。この領主様は、善政をしいているとは決していえないが、母乳中毒症を何とかするべきだと考える程度の良識は持ち合わせていた。


「これがあれば、母乳中毒症で亡くなる赤子が減るわけだな」


「左様でございます。ただ、これを売るにはいくつか問題がございまして……」


「申してみよ」


「この授乳ブラを使うと父乳が出るのは、精通前の男子のみでございます」


「精通前!?」


「この授乳ブラを作った魔道具技師が申すには、自然のおっぱいを作る力には勝てないとのこと」


「意味がわからん。詳しく説明してくれ」


 授乳ブラには男性の乳房からおっぱいを出させる授乳魔法が組み込まれている。その魔法はゼロからおっぱいを作り出すものではなく、人間が自然に作るミルクの『矛先を転じる』だけにすぎない。


「日本では精液は『おち〇ぽミルク』と呼ばれております。この授乳魔法はミルクを作ろうとする未熟な自然の力を乳房に導くだけです。男子が精通を迎え、実際にミルクを作るようになると、自然の力には勝てず、効力を失ってしまうのです」


 領主様は、商人の説明にうなずくだけだった。『お〇んぽミルク』のことは初めて知った。領主様の魔力を使って日本のエロコンテンツを読んでも、『おちん〇ミルク』にもモザイクがかかり、せいぜい『〇×△〇ミ〇ク』としか読めないため、当然といえば当然である。


「精通前の男子は、冒険者でいえばFランクかGランクの駆け出しになります。その年ごろの冒険者の仕事には『子守り』も含まれます。授乳ブラがあれば彼らが金を稼ぐことが容易になりましょう」


 再び領主様は考える。平民の子どもは5~7歳になると教会で読み書きを習い、8歳ぐらいで親の仕事を手伝うようになる。親が日雇いだったり、冒険者だったりした場合は子どもも冒険者になり、下水道の掃除や片付け、薬草の採集、子守りなどの依頼を受けることになる。しかし、これらの依頼は大した金にはならず、親に何かがあれば子どもも路頭に迷うことになる。十代前半の子どもが経済奴隷として売られるのは珍しいことではない。領主様は、そのような状況も何とかするべきだと考える程度の良識も持ち合わせていた。


「しかし、このような魔道具、駆け出しの冒険者が買えるような値段とは思えないが」


「そこでお願いがございます。手前どもの授乳ブラを領主様がお買い上げいただいたあとに、ギルドを通じて冒険者に貸し出すという形はとれないものでしょうか。貸し出しであれば、価格も抑えられます。依頼報酬と相殺するのであれば、冒険者もお金を用意する必要はございません」


「おお、それは良い考えだ。母乳中毒症で死ぬ赤子も減り、駆け出しの冒険者の稼ぎが増えるとなれば、領主としてもうれしい。多少の赤字になってもかまわない。詳細は執事と詰めるように」


 ※※※


 こうして、領主様が購入した授乳ブラはギルドを通じて、子守りを依頼された冒険者に貸し出されるようになった。


 その結果、新生児の死亡数が減り、経済奴隷となる子どもの数も減った。その一方で授乳夫の依頼は激減し、授乳夫という職業は2つのギルドとともにまもなく失われた。時代に追放されたのである。


 やがて、あちこちで赤ちゃんにおっぱいを与えるショタの姿が目撃されるようになる。


 これに反応したのが、日本からの転生者達である。彼らはチート特典で得た膨大な富を惜しげもなくつぎ込んで授乳ブラを購入し、推しのショタに贈るようになった。


 最新の流行は、アラクネの糸でなく、さらに高価なミスリル繊維で編んだ授乳ブラとボトムブラ(日本ではタマブ〇と呼ばれる)のセットを贈ることだ。


 トップとボトムのペアがあれば、授乳のバリエーションが広がり、楽しめるらしい。


 日本からの転生者達は、ミスリル繊維を手に入れるために難易度の高い依頼をこなし、希少な素材を流通させることで、この世界の経済を活性化させていく。


 さらに、ショタでは満たされない一部の日本人は、初潮前の女子がおっぱいを出せるようになる授乳ブラの開発に取り組んでいるという。


 結局、この世界を動かすのは、日本から転生してきたHENTAI達のパッションなのであった。

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