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奥様×旦那ちゃん

最後の一行さえあれば、どんなカップリングにも使えるお話。

「あ……う……」


 旦那ちゃんが赤い顔をして、わたしに訴えかけている。抱えているのは『はい/いいえ枕』だ。わたしに見せているのは『はい』の方である。疲れているんだけどなぁ、仕方ないか。


 旦那ちゃんが望んでいるのは、アレではない。そんなのは、わたしが押し倒せばいいだけだもん。旦那ちゃんがしたいのは、授乳なのだ。


 旦那ちゃんは授乳夫だ。母乳を飲むと死んでしまう赤ちゃんに、自分が出した父乳を飲ませる職業である。この世界では生まれてくる赤ちゃんの半分が母乳を飲むと死んでしまうため、お金持ちの奥様が産気づくと、旦那ちゃんのような授乳夫が呼ばれる。赤ちゃんが母親の初乳を飲めないと、その後は授乳夫が授乳することになる。それはつまり、その後半年以上、授乳夫に安定した収入が約束されるということ。反対に、赤ちゃんが母乳を飲むことができれば、別のお金持ちの妊婦が出産するまで授乳夫の仕事はない。当然、収入もない。今の旦那ちゃんはその状態なのだ。


 ところで、授乳夫にはやっかいな性質がある。授乳夫になる男子は、十五歳ぐらいで授乳の加護を得るわけだけど、その後ずっとおっぱいが出るわけではない。だいたい一週間授乳しないと、乳房が張り出し、激しい痛みとともに高熱にうなされるようになる。その熱と痛みは十日ぐらいで消えるが、その後、おっぱいが出なくなる。つまり、加護を失って授乳夫として働けなくなってしまうのだ。


 そうなるのを防ぐためには、乳房の異常な張りを予感した時点で父乳を誰かに飲ませる必要がある。不思議なことに、母乳と違って父乳は乳房を絞るだけでは出てこない。誰か人間が乳首を吸わなければ出てこないのだ。そのため、普通は家族の誰かがおっぱいを吸う。旦那ちゃんに聞いた話では、結婚するまでは母親に吸われる授乳夫が一番多いそうだ。次に多いのが妹や弟。我が家では、もちろん、わたしが吸う。


 家事を終えて、ソファに座ったわたしは、旦那ちゃんに「始めよう」と言った。


 旦那ちゃんは上着を脱ぎ、胸をさらす。赤らめた顔が可愛い。アレの時みたいだ。


 旦那ちゃんはわたしの前に立ち、前かがみになる。旦那ちゃんの胸は、この時はまだ膨らんでいない。


 この段階で乳首を吸っても、おっぱいは出てこない。旦那ちゃんに教えられたマッサージをする必要がある。


 まず、左手で旦那ちゃんの左乳房を左上から覆うようにつかみながら、右手の小指の付け根から手首までの小指球を左乳房の付け根のバージスラインに沿って滑らせながら胸の真ん中に向けて数回押す。


 次に左手を軽く握るように下方にねじり、右手で私の左手を支えながら、両手を旦那ちゃんの右肩方向、私から見ると左上に4~5回押し上げる。


 さらに左手を下方にねじり、小指が乳首のすぐ下に届くようにしながら、右手とともに旦那ちゃんの乳房を真下から4~5回すくい上げる。


 これら一連の動作をゆっくりと繰り返すと、旦那ちゃんの乳房が膨らみだし、まもなく立派なおっぱいになる。


 正直に言おう。わたしのおっぱいより立派だ。わたしのより大きいのが悔しい。さらに悔しいのが崩れないこと。大きくなった旦那ちゃんのおっぱいは、どんな姿勢でも垂れないのだ。


 でも、乳首はわたしの方がかわいいぞ。ピンクだし、小さいし。


 やがて、旦那ちゃんが持つ加護によって、頭の中で『満タン』というメッセージが数回点滅し、続いて『反対側』というメッセージに切り替わる。それを合図に、わたしは旦那ちゃんの右乳房に対してマッサージを始める。


『準備完了』


 このメッセージが頭の中に浮かび上がったら、いよいよ授乳だ。左乳房の場合、乳首を囲むように右手を添える。この時、親指と人差し指が乳首を挟んで対角線上にあることを確認してから、旦那ちゃんの乳首を口に含む。が、吸ってはいけない。乳首を吸うのではなく、右手の親指と人差し指の腹を近づけるように圧迫しながら、乳輪ににじみ出るおっぱいを舐め取っていく。


「う……ううん」


 旦那ちゃんが甘い声をあげる。わたしは、あざとく上目遣いでおっぱいを飲む。この方が早く終わるのだ。『反対側』というメッセージが頭に浮かんだら、反対側の乳房からおっぱいを飲む。


 やがて旦那ちゃんの乳房は小さくなり、おっぱいが出なくなる。『お疲れ様でした』というメッセージが頭に浮かぶと終了だ。この頃の旦那ちゃんは、顔が赤く、息が上がり、目がとろんとしている。これはもう事後である。アレとは違う事後だけど。わたしの方は両腕がだるく、明日の筋肉痛は確定である。ついでに言えば、あざとい表情を続けたおかげで、表情筋も筋肉痛になりそうだ。授乳夫の妻の務めとはいえ、もう少し何とかしないと割に合わないと思う。そうだ、いつか言おうと思っていたことを、今、このタイミングで言ってやろう。


「ねぇ、旦那ちゃん?」


「……なに?」


「上でも下でもいいから、もっとおいしいのを出してほしいな。てか、出せよ」

「上でも下でも」っていうのは「(品質が多少)上でも下でも」って意味です(断言)。

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