五、失礼な
「うひゃー。やっぱり花粉すごい。目痒過ぎ!」
「くしゅんっ。千晶ちゃん、気持ちは分かるけど何回も同じこと言わな…クションッ。あぁあぁああ!」
私たちは茉恋さんたちと合流し、山中を歩いていた。狒々のせいで発生している風により舞った花粉が、花粉症もちのメンバーを苦しめる。
「少し落ち着きましょうです。私は残念ながら花粉症の方の気持ちが分かりませんが、それ程までに情緒不安定になっていると、狒々に足をすくわれてしまいますよ?」
若葉ちゃんがそう言った直後、一際強い風が一行の横を通り抜けた。
「ひゃー!」
「もうやだ!」
花粉から目を守るべく、目をぎゅっと瞑る。
『ヒヒヒヒヒヒ。ひぃ。ふぅ。みぃ。よぉ。これはいい。』
唐突に山に生えている木々のどこかから、不気味な笑い声が聞こえてきた。
『1人鮮度の悪いのがおるが、暫くの食料には困らんぞ。ヒヒヒヒヒヒグハァッ!』
ーードサッ。
うめき声と何かが落ちた音が聞こえると風が収まり、私はそっと開けた。左斜め前に、木から落下したと思われる、草刈り鎌が刺さった大きな毛玉と、顔に青筋を浮かべいる紡さんがいた。
紡さんが鬼の形相で悶える毛玉に歩みより、それを鷲掴みにする。
「てめぇ。だ〜れの鮮度が悪いって!?もういっぺん言うてみぃ!!!耳の穴から指突っ込んで奥歯ガタガタ言わせ…!!!」
紡さんが最後まで言い終わる前に、毛玉は彼女の腕を振り払った。あっと言う間に、毛玉ら山中へと姿を眩ます。
「紡さん!大丈夫ですか?」
眉間に皺を寄せている紡さんに駆け寄り、声をかける。
「…あのやろう。」
先ほどまで毛玉を掴んでいた紡さんの腕からは血が滴り、獣に引っ掻かれたような傷ができていた。