二、気にするな
「仙太郎さん、帰ってきませんですねぇ。」
陰陽神社での修行の休憩時間、若葉ちゃんがタオルで汗を拭きながら、そう呟いた。
「陰陽戦術使えるメンバー、急に増えたからね。陰陽術教える時間減って、仲間探しの情報収集に時間使ってるんだろ。」
茉恋さんも休憩に入り、乱れた髪をポニーテイルに結い直しながら、そう答えた。
現在、陰陽戦術を使えるようになったメンバーは、私、恭士さん、仙太郎さん、そして紡さんの4人である。
ん?紡さん陰陽戦術使えるようになったっけ?と思った人に説明しよう。
彼女は今いる陰陽師メンバーの中で、1番最近仲間になった訳だが、たいして合同修行に参加しないままに、いともあっさり陰陽戦術を習得してしまったらしい。
本人曰く、『何十年陰陽師しとると思ってんねん。』ということだった。
「あたしらも早く習得したいなぁ。」
「ホッ!ハッ!フッ!ハッ!」
呟く茉恋さんの後ろで、そんなことを言っている暇があったら鍛えろと言わんばかりに、休憩時間にも関わらず、黙々と腹筋をしている拳心さんの姿があった。
「あ、若葉ちゃんはまだ成長途中だから、拳心君ほど体酷使しちゃダメだよ。」
ひたすらに腹筋していた拳心が、一瞬だけピタリと動きを止めた。しかし、また何事も無かったかのように腹筋を再開する。
「うんうん。やりすぎは良くないよ。何事も適度が一番。」
よいしょと、腹筋を止めてあぐらをかくいて座った。
「なんすか。いちいち勘に触る言い方なのは俺の気のせいっすか?」
頭の辺りに怒りマークのつきそうな表情で、拳心さんが私たちの方に顔を向けた。
「拳心さん、身長が低いからって気にし過ぎでありますよ。」
「そうだよ。身長なくたって拳心君はムキムキでかっこいいんだから気にしなくても…。」
「身長なくたっては余計だ!」
その時、遠出をしていた仙太郎さんが、どこかから帰って来た。
「何をしている。次に調べるべき目的地に検討をつけて来た。場所は…。」
仙太郎さんが言いかけたその時、拝殿内のちゃぶ台上に乗っている地図、その中の一つの文字が光って動き出す。
「中部地方の北側だ。」
ちゃぶ台上の地図の上、『申』の文字が忙しなく動きまわっていた。