一、新たな一面
「えっ?立ち会い人…ですか?」
陰陽神社の拝殿の中、私は目の前に立つ金髪の陰陽師、恭士さんの頼みの内容を聞き、間の抜けた声を上げた。
恭士さんは少し照れくさいのか、ふいっと顔を横に背けて頬を掻きながら言った。
「…せや。あん時橋姫倒せたんも、結果として千晶の協力があったお陰やし、…できればそれも見届けてくれへんかなぁおもて。」
橋姫を倒したあの日、恭士さんは過去との決着をつけた他に、一つ決意したことがあったらしい。
それは、音楽活動を再開すること。つまり、再びサックスを手にして、ジャズミュージシャンを目指すことだった。
6年前の橋姫との一件以来、精神的ショックでサックスを吹くことができなくなってしまった恭士さん。彼は、彼の事情と事の顛末を見て知っている私に、再びサックスを吹けるようになる場面を、その目で見届けて欲しい、見守って欲しいと言っているのであった。
今まであまり自分のことを話さなかった恭士さんが、そういった踏み込んだ話をしてくれるようになったことを嬉しく思うと同時に、そんな大切な役目を私が請け負ってしまっていいのかという疑問が頭に浮かぶ。
「私は構いませんけど…。そんな大事な役、私が仰せつかっちゃっていいんですか?何なら紡さんの方が適任じゃ…。」
あの日の私は、自分の動きたいように行動したに過ぎない。信頼して貰えるようになった気がして悪い気はしないが、本当に私で良いのだろうか?
「…それも一応考えたんやけど…『そないな女々しい儀式に付き合う趣味無いわ!』て一蹴されそうやし?」
「あ〜、言いそう。すごく言いそう。」
拝殿内にある書物を整理しながら、苦笑いでそう答える。
「まぁ…そないな訳で、女々しい自覚はあんねんけど、見届けて欲しいねん。千晶に。」
“千晶に”という言葉に、思わずドキリとする。
恭士さんの珍しく真剣な様子に、胸の奥がざわついた。整理の手を止めて、くるりと顔を彼の方に向ける。
「分かりました。立ち合わせてもらいます。その代わり…じゃないですけど、吹けるようになったら何か曲、聴かせて欲しい…かな?」
変に動揺して、ぽろりとそんな余計な言葉が零れた。
「あっ…ごめんなさい。今の忘れ…。」
「分かった。」
「え?」
私の言葉を遮り、彼は微笑みながら、何かを決意したかのように力強く頷いた。
「俺の復活ライブ、特別に千晶限定で参戦させたるわ。楽しみにしとき。」
悪戯っぽい笑顔で、恭士さんが私にそう告げた。
「あっ…はいっ!」
元気に返事をして、止まっていた書物整理の手を再び動かす。
陰陽師としての生活が、少し強くなった絆と共に再び動き出した。
陰陽師の仲間が全員揃うまで、後5人。