入学式前日
ちょっと長くなりました。
翌日、俺たちはある物を探すために街に出ることになった。通販で済ませようとしたがそれでは勿体無いとカグヤが言うので素直に従うことにした。俺は首都には任務で長く居座ることがなかったから全てが新鮮に感じた。街は昼前ということもあり、かなりの人で賑わっていた。至るところに建物が立っており、あまり慣れていない俺は道に迷いそうになったが、カグヤのおかげでようやく目的の場所に辿り着いた。
「ここが噂に聞くショッピングモールというところか」
写真で何度かみたことはあるが実際に見るのは今日が初めてだ。入り口から入ると前の前には大量の人が行き来していた。そして周りには立体的に映し出された広告の映像が流れていた。
「私は何度かここに来たことがありますので案内させてもらいますね。」
しかし俺たちの持っている端末には目的の物までの道のりをナビしてくれるアプリが入っているのでその必要はなかった。
「別にそんなことしなくてもアプリのナビに従えばいいじゃないか?」
「いえ、私が案内しますね。」
しかしなぜかカグヤは譲ろうとしないので俺は諦めた。そこまでしたいならカグヤの好きなようにさせるべきだと判断したのだ。
エスカレーターに乗って二階へと移動した。どうやら周りを見回した感じどうやらここは服などを売るフロアのようだ。
「今ここにある店は全てバラバラの店からの主張店なんですよ?」
「そうなのか? それは知らなかったな」
そう言うとカグヤは嬉しそうに説明を始めた。
「ここの経営者は人が集まるような場所を買収してこういった建物を建てます。そしてこの建物の場所を貸し出すという経営をすることによって儲けをだしてるんです。」
効率的だな。専門店がこぞって場所を借りたとしよう。するとここのいる人は他の目的のついでで顔を覗かせるかもしれない。そうすれば本店なら顔を出しづらい雰囲気でもここなら気軽に見ることができるというメリットもある。
「経営って意外と面白いんだな。」
フフッとカグヤは笑うと俺の手を引き歩き始めた。
「目的の物があるのは3階にあります。行きましょう!」
カグヤに連れられエスカレーターで上階へと上がっていった。
俺たちはCAWの補助デバイスが売っている場所を見つけそこで足を止めた。ここが俺たちの目的である場所だ。CAWには基盤となる術式を書き込むのだが、そこにもう一工夫加えたい時に出てくるのが補助デバイスのだ。
これは術式をどう起動させたいのかという元の情報に新しく別の情報を持つ補助デバイスをインストールさせることでCAWとは別で起動することができる。つまりCAWを単純に強化することができるのだ。
「やはり専門店だけあって、種類が多いな。」
補助デバイスには着脱可能なタイプとCAWに直接組み込む2パターンがある。基本的には着脱の方で自分に合うものを見つけて、それと同じのを組み込み式でカスタマイズするっていうのがセオリーだ。
「アルスさんはどういったものを探してるんですか?」
「俺のCAWはちょっと特殊でな。着脱式じゃないと本来の効果を発揮できないんだ。」
俺は目的の物があるか一通り見てみたがやはりなかった。念のため他の店もまわってみたが結果は同じだった。
「はぁ〜やっぱ軍を通さないとダメっぽいかぁ…」
「でしたら、私のCAWに合うような補助デバイスを見繕ってくれませんか?」
「いいのか!?」
(そこまで食いつくんですね)
「ええ。」
あまりの食いつきにカグヤは驚いたが少し嬉しかった。
「カグヤのCAWってどんなやつなんだ?」
「私のCAWは刀ですね。補助デバイスは技術者に任せていましたが多分、術式の組みやすさから察するに補助型だと思いますわ。」
「補助型か。誰にでも合うしシンプルだな。だが、あれは初心者用だ。確かに自分に完璧に合うよう調整してもらったらその恩恵は大きいと思うが。それなら速度型や威力型に自分の術式の構成速度を訓練した方が断然強力だと思うがな。」
「へ、へぇそうなんですね。」
(しまった! 研究者魂に火をつけちゃったかしら?)
「だったらこれとこれ、これも良いかもしれないな」と言って物色してレジへと持っていた。
「私のCAWの補助デバイスなんだし私がお金払いますよ?」
するとアルスは電子通帳の残高情報をカグヤに共有した。
(なにこれっ……偽造データとかじゃないでしょうね)
そうカグヤは思い、もう一度目を擦って見直したがそこには先ほどと変わらず凄まじい数字の羅列があった。
「金は腐るほどあるから心配するな。」
(もはやこれ国家予算並みじゃない…)
アルスは小さい頃から軍に所属していた。給料もちゃんと取っていた。歳を重ねるに連れて凄まじい成長を見せるアルスはどんどんと高難易度な任務への参加も認められ、そこで十分な戦果を何度も挙げている。しまいには悪神竜の討伐だ。当然その報償金は凄まじい額になっている。結果、普段からお金を使わないアルスの残高は凄まじいことになったのだ。
「とはいえ、無闇に奢るつもりはない。これは実験費用として出しただけだ。」
会計が終わるとアルスはそのまま店を出て、カグヤの案内のもと今度は別の店へと共に向かったのだった。
――
「うーん、たくさん回りましたね。」
時間で言えばちょうど昼頃、2人は4階のフードコートで休憩を取っていた。
「俺はともかく、お前はお金大丈夫なのか?」
「失礼ですね。あなたほどではないですが結構もらってるんですよ?」
「そ、そうなのか。」
アルスはカグヤの横にある大量の袋を見てこんなペースで買い物してたら金なんて一瞬で消えるのでは?という危機感を感じてしまった。
「私はあちらの方でハンバーガーを買ってきますけどいアルスさんはどうしますか?」
「そうだな、俺は特に食べたいものはないから適当に買ってきてくれないか?」
アルスは自分の端末を操作し、適当にお金をカグヤの端末に移した。
「ちょっ! いくらなんでも多すぎです! こんなに使いませんよ!」
「そ、そうなのか…?」
アルスはまるで訳が分からないという顔をしていた。
(これは重度の金銭麻痺ですね。早いとこなんとかしないと)
そう思いつつ、カグヤは長蛇の列に並びに行った。
(さて、時間かかりそうだし、どうやって時間を潰そうかな)と考えていると近くの方で小さな人だかりができているのを見つけた。
(暇だし、見に行くか)と思い、自分のクローン人形を置いて人だかりへの方に見物しに行った。
そこには薄い赤色の髪をしたサイドテールの少女と青年が言い争いをしているのを見つけた。
(何があったんだ)
アルスは意識を集中し、言い争いの方へと聴力を集中させた。
「えーいいじゃん、俺らとちょっとだけ遊ぼうよ」
「ちょっとだけだって!」
「カラオケとかどうよ!」
(男性が3…女性が2ってところか)
「しつこいわね! あんたたちと遊ぶ気なんてある訳ないでしょ! さっさと向こうに行きなさいよ!」
すると先ほどまでツインテールの少女に話しかけていたが
「ちぇっ、じゃあじゃあショートカットの君。君はどうかな?」
「リーナ様が良ければ構いませんが、リーナ様が嫌がるなら断固として拒否させていただきます。」
「おいおい、またこれじゃあ振り出しじゃん? ねぇねぇリーナちゃん頼むよ」
するとリーナと呼ばれた少女はついに怒ったのか不快感をあらわにした。
「お前みたいなクズが私の名前を気安く呼ぶな。」
この言葉に流石に我慢できなかったのか男性のリーダー格である金髪の男の少女を見る目が変わった。
「俺ってさ、実は結構良いとこの坊ちゃんなんだよね? それに加えて格闘技もそこそこできて魔法も扱えるんだよ? あまり自分じゃ言いたくないんだけどそんな俺をクズ呼ばわりって……ぶっ殺すぞ?」
一触即発のムードになり険悪な雰囲気がその周囲を覆った。
(厄介なことになりそうだな)
するとリーナと呼ばれた少女が席を立った。
「リン? ここは蛆虫が這い寄ってきて不快だわ? 別の場所に移動しましょう?」
するとリーダー格の男から魔力が迸り、つけているピアスが発光するのが見えた。
(ピアスがCAWか……仕方がない。)
「くたばれクソアマが」
魔法を発動させようと手をかざしたときだった。
(分析術式スタート。術式名雷電。構造術式分析完了。対抗術式詠唱…完了。ディスペルスタート。完了。)
「対抗魔法・分析妨害」
アルスがそう呟くとリーダー格の男の魔法式が消し飛ばされた。
「なっ…!?」「えっ…!?」
2人から驚愕の声が上がった。
「公共での魔法の行使において意図的に相手を傷つけた場合、法で裁かれることになるぞ?」
「この罪はちょっと重めだからな。親の力を持ってしてもこれをもみ消しにするのは相当苦労するはずだ。目撃者もこんなにいるからな。」
「その点、魔法反射だけで様子を見てた君は素晴らしい判断だ。」
俺はそう言いリーナと呼ばれた少女のそばにいる人物に話しかけた。
「バレていましたか。」
「まあな。」
(あの状況で未だに防御の気配すら見せなかったら他の可能性を疑うだろう。)
「おい、てめぇ邪魔すんじゃねえよ」
恥をかかされたリーダーの男がファイティングポーズをとりそのまたジャブを繰り出してきた。
しかし
(遅いな)
アルスは繰り出されるパンチを全て払い落としていていた。どうやらこのままだと勝てないと判断したリーダー格の男は一旦距離をとった。
「おまえらっ!」
他の2人の男もリーダーの男にどやされ俺に攻撃をしてくるが、こちらはリーダーの男よりも酷かった。
向かってくる拳を半身ずらすことで回避しそのまま足を引っ掛けて転倒させた。
その隙にもう1人の男が殴りかかってきたが首を傾けて拳を避けてそのまま腕を掴み、投げ飛ばした。
「本命はこっちだよ!!」
リーダーの男は他の2人が俺の相手をしている隙に準備を再度魔法の準備を完了させていた。
(馬鹿が)
放たれた魔法はアルスを貫く前に何かに阻まれて放たれた雷撃は撃った本人へと戻っていった。
「ぁぁぁぁぁぁ!!」
リーダー格の男は自分の魔法をもろに受けてしまいそのまた気絶した。
「そこの2人、今すぐこいつを病院に連れて行ったほうがこいつのためにもなるしお前たちのためになるぞ?」
「は、はいっ!!」
そう睨みを効かせると2人は男を背負ってこの場を離れて行った。
(ハァ……やってしまった。極力無視しようと思ったが法に反することは軍人として阻止せねばならないしな)
アルスが反省していると先ほどの少女らが話しかけてきた。
「さっきはありがとうね。私リーナっていうの。」
「リーナ様がお世話になりました。リンと申します。」
「いや、別に構わないんだ。それよりも一旦ここを離れないか? かなり人が集まってきてる。」
「わかったわ。とりあえず5階にあるシャンデリアってカフェの店に来てくれない?話が聞きたいの。」
話?と思ったがとりあえず待ち合わせ場所を指定し、彼女らと別れた。しばらくして戻ってきたカグヤに俺は事情を説明し、シャンデリアに向かうことにした。
席を離れる前にカグヤがこちらをジト目で睨みつけ
「アルスさま?大人しく過ごしたいなら次からはもっとスマートにしてください。」
と少しだけ注意された。
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