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決意

前回は即堕ち二コマみたいなスピードでやられたグレイですが、立ち直れるのか?三話更新、ではどうぞ。

最悪な事件の後、俺は王都ルビアで母さんや孤児院の家族の葬式に参加していた。母さんが転移者ということもあってか多くの人が参加していた。なんだか今見ている光景は夢なんじゃないかと思ってしまう。悪い夢から目が覚めたら母さんや子供たちが笑顔で待っている、そんなふうに。


「.....イ......イさん.....グレイさん!」

「あ、すみませんちょっと考えごとをしてて。」


今俺に話しかけてきたのは騎士団のカドルさんだ。この葬式は騎士団が執り仕切っている。カドルさんは昔母さんに世話になったらしく率先してやってくれているらしい。自分よりも年下の女性が騎士団として活動しているという事実に、あのとき何も出来なかった自分の不甲斐なさに腹が立つ。


「グレイさん、辛い気持ちはわかります。でもこれからも生きていかなきゃいけません。何かやりたいことはないですか?私経由で仕事を斡旋することもできますよ。」

「すみません、今は考えたいことがあって...」

「そうですか...困ったら騎士団を頼ってください、ツバメさんにはお世話になったので!」

「...っ、はいありがとうございます。」


俺はそう言って足早に葬式場を去った。彼女が厚意でああ言ってくれたのはわかっているつもりだが、その眩しさに自分という存在が否定されてるような気さえした。何も出来なかったお前に価値はないと。それに考えたいことなんて本当はない。何も考えたくない、それが本音だ。考えていると悪いことばかり考えてしまう。早く宿に帰って一人になりたい。走って宿まで行くと入り口に誰かが立っていた。


「グレイ、話したいことがあるんだ。」

「ゲオルグ兄さん..」


俺は今一番会いたくない人に出会ってしまった。ゲオルグ兄さんはきっと俺を恨んでいるだろう。何も出来なかった俺を。あの日孤児院に誕生日プレゼントを持ってきた兄さんの顔は酷いものだった。自分が隣町にいる間に俺以外の家族が全員死んでいたんだから無理もない。兄さんは俺に何があったかを聞くだけで俺を責めるようなことはしなかった。いっそ責めてくれたほうが楽なのに。兄さんのやさしさがこんなに辛く感じるなんて考えたこともなかった。


「グレイ、一緒に冒険者をやろう。」

「えっ、何言ってるんだよ兄さん。俺にその資格はないよ。みんなを守れないでおいて自分だけ夢を叶えるなんて...」

「いい加減にしろ!」


耳をつんざくような大きな声で兄さんは言った。

兄さんがこんなふうに声荒げて言うのは初めてなのでびっくりしてしまった。


「僕だって自分が不甲斐ないさ。あそこに居ればみんなを守れたかもしれないって。悔しいのはグレイだけじゃないんだ。でも居ても守れたかはわからない。だから冒険者になって強くなるんだ。もう後悔しないために。」

「でも、俺に出来るわけがない。あのときアニマの力を使っても何も出来なかったんだから...」


そうだ。俺に出来るわけがない。誰も守れなかった俺が。


「冒険者としてのランクを上げれば多くの情報が手に入る。そうすれば犯人の行方もわかるかもしれない。」

「兄さん、やっぱり俺に冒険者をやる資格はないよ。なったとしてもきっと強くなれない。」


兄さんは俺に冒険者をやらせようとしているが正直どうでもいい。今はなにも考えたくない。みんなもきっと俺のことを恨んでいる。


「みんなのために冒険者をやらないっていうんならそれは大きな間違いだよ。」

「..っ、兄さんは何が言いたいんだよ!」

「みんなを言い訳に自分が考えるのをやめるのはやめたらどうだい?」

「兄さんに何がわかる!俺のほうがみんなと長くいたんだ。みんなことは俺が一番わかってる!みんなは俺のこと恨んでる、助けてくれなかった俺を!」


兄さんにわかるわけがない。俺はみんなと一番一緒にいたんだ。


「そんなわけないだろう。グレイより短くてもわかるよ。あの子たちはそんな風に思ってないって。みんなグレイが好きだったんだ。グレイには報われてほしいって思ってるはずさ。だからグレイ、あの子たちの気持ちをねじ曲げてまで言い訳するな。それこそあの子たちに恨まれちゃうよ。」


兄さんに言われてみてやっと気づけた。あの子たちはそんな風に思ってないだろうって。あの純粋な子たちがそんなふうに思うわけがないって。みんなを言い訳にしてた自分にムカついてきた。


「兄さん...俺ほんとに冒険者になっていいのな?」

「いいに決まってるじゃないか。夢を叶えてみんなに誇れるような人になるんだ。」

「二人ともちょっといいか?」


兄さんと話していると神父が帰ってきて話しかけてきた。神父は俺たち孤児院の子供にとっては祖父のような存在でレアーリおじさんと呼んでいる。


「レアーリおじさんどうしたの?」

「二人にとって朗報かもわからんがツバメは生きているかもしれん。」

「えっ、シスターが!」


朗報以外の何者でもないと思うがどういうことなのだろう。


「グレイが生きてたことから考えたんじゃがおそらく犯人はツバメを狙って襲撃したんだろうと思ってな。」

「どうして犯人はシスターを狙ったんだ?」

「それはあの子のアニマに関係しとる。」

「シスターのアニマ?」

「あの子のアニマは神眼。その名の通り神の眼じゃ。」

「どうしてその力が狙われるの?」

「まあ、ちょっと落ち着いて話を聞け。あの子が生きていて嬉しい気持ちはわかるがな。」


質問責めしてしまったことを申し訳なさそうにするとレアーリおじさんは話しを再開した。


「端的にいうとあの子の神眼は鑑定魔法と違い魔力を一切使わずに他人のアニマを見ることが出来るのじゃ。鑑定魔法は使用者の少なさに加えて大量の魔力を必要とするのじゃ。それを魔力を使わず無制限に使えるとなればとんでもなく有益じゃからのう。それに神眼は他にも多くの力を魔力なしで行使出来るからのう。おそらく犯人は何処かでその力の情報を手に入れてきたのじゃろう。そしてグレイが殺されなかったのはおそらくあの子が交渉したのじゃろう。そうでなければ犯人にグレイを生かすメリットはないからのう。」

「犯人はシスターの力を使って何をするつもりなんだ?」

「おそらくアニマの力を使えるものを増やし兵力を強化するためじゃろう。」


シスターの力がそんなに凄いものだとは思いもしなかった。母さんのことについて色々聞いていると、黙って何かを考えている兄さんが口を開いた。


「シスターの情報はどうして漏れたんだろう?」

「すまんの、それはわしにもわからん。調べてはみるがのう。ちなみにツバメが死んだことにしたのは犯人にわしたちがツバメが生きていることに気づいていることを悟られないためじゃ。そうすることで犯人を油断させあの子をいち早く救出するためにのう。ただグレイとゲオルグには本当のことを知ってもらおうと思ってな。あと二人が冒険者になるのは構わないが無理はするんじゃないぞ。二人にもしも何かあったらツバメが悲しむからのう。それに既にツバメの行方はカタルーニア王国に秘密裏に調査してもらうよう頼んでおるからのう。」


母さんのことについて色々話したあと俺と兄さんは冒険者になったら何をするかを話していた。


「レアーリおじさんが色々しているとはいえ冒険者の立場からしかわからない犯人についての情報もある筈だ。まずは冒険者ランクを上げて少しでも情報を手に入れられるようにしよう。」

「方針はそうするとしてのは兄さんのランクは?」

「僕のランクはCだよ。グレイはFからだね。」

「早く兄さんに追いつかなきゃな。」

「そう焦る必要はないさ。それに犯人が恐ろしく強い可能性もあるから、神の加護を増やす必要もあるね。」


俺と兄さんのやるべきことは決まった。あの惨劇の悔しさを胸に俺は強くなる。強くなって犯人を捕まえてみせる!




序章はこれで終わりです。一章からは冒険者としてのグレイとゲオルグの活動が始まります。次回もお楽しみに。

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