テンプレ展開なんて期待してないから!
頭を空っぽにしてお楽しみください
ハロー!親愛なる同士諸君。
さてさて、今回私が紹介させていただくお話はひとりの少年の物語。
異世界に転生させられてしまった少年は、勇者としてその世界を救うことになる。
転生チートで世界最強に!?
旅の道中で仲間になった女騎士女魔術師女僧侶女武闘家女賢者とイチャラブしながら魔王討伐までの道のりを描いた冒険譚!!
『異世界ハーレム?!〜勇者に転生したら嫁がたくさん出来ました〜』
絶賛発売ちゅ......
「おいちょっと待て」
長い黒髪が揺れた。このクールビズでもないのにノーネクタイ、胸元のボタン開けすぎて谷間が常に見えてるアウトローな女性は2年F組の担任柏原 弓教官だ。その美貌から弓ちゃん、弓の姐御、鬼、悪魔、行き遅れなどと呼ばれている。ちなみに28歳独身彼氏無しである。
「私はお前に何を書けと頼んだ?答えてくれ、佐倉 圭」
「ハッ!小官イチオシのラノベ小説紹介文であります!」
「おい、寝ぼけてるのか?一発逝っとくか?」
「教官!それをくらうと眠気が覚めるどころか小官が永遠の眠りにつくことになりかねませ...ちょっ、まっ、すいませんごめんなさいごめんなさい真面目にしますぅ!」
「チッ、全く、初めから真面目にやれ」
そう言うと教官は天高く振り上げていた握りこぶしをおさめて、ソファに座りなおした。教官マジコワイ。
「で、これは何だ佐倉 圭」
「え?見て分からないんですか?」
「あ〜なるほど、これは矯正が必要なレベルだな!間違いない!うちのテレビみたいに一発殴れば治るかな〜?」
「ヒィッ!冗談です冗談です!反省文ですよ!今朝の遅刻の件の!」
ていうか叩けば直るテレビてあんたいつのテレビ使ってんだ...
「そうだな。で、これの何処が!!反省文なんだ?」
「異世界に転生してハーレム築くような高校生には反省して欲しいなって...」
「いやそれ願望だよね?というか遅刻に関しての反省文を書けと私は言ったんだが!別に異世界でハーレム作ろうが魔王倒そうが君には関係ないだろうが!」
「あーはい、言われてみればそっすね」
「急に塩対応するなぁ!お前が書いた物だぞ?!」
何を一人で盛り上がってるんだこの人は...まったく歳を考えてほしいものだ、これだから結婚できな...ゲフンゲフン。
「...まぁいい。お前が反省文を真面目に書かないのはもう慣れた。となればもうお前が遅刻しないように私が毎朝佐倉家に迎えに行くしかないな!む、実はそれが目的か?」
ちょっと何かを期待した目で教官が俺を見てきた。何だこの人。
「断じて違います。というか用件は何です?わざわざ反省文なんかだけで僕を呼び出した訳じゃありませんよね?」
そう、何を隠そうこの佐倉 圭、この生徒指導室に呼ばれること実に184回!
その全てが遅刻に起因するという奇跡の高校生なのだ!
それ故にもう反省文くらいでは生徒指導室に呼ばれなくなったのだが、今回は教官から放送で直々に呼び出されてこの部屋に舞い戻ったという訳なのだ。
教室ではついに佐倉が教官に殺られるとか、東京湾に沈められるとか噂されていたが、幾度となくこの独身女性の猛攻をかいくぐってきた俺を甘く見ないで欲しいものだ。今なら猫パンチも避けられそうだぜ。
はぁ、と教官がため息をついた。何気ない仕草も何処となく中年のおっさんっぽい。そういうとこだぞ。
「分かってるなら変におちゃらけるな...私のテンションまでおかしくなるだろう...」
「いやそれは僕のせいじゃ...」
「あ?」
「ナンデモナイデス」
目が怖いよこの人ぉ!戦闘力53万はあるよフリー◯様だよこの人ぉ!
俺が内心怯えていると、教官は唐突に話し始めた。
「実はな来月頭に転校生が来るんだが」
「こんな時期にですか?珍しいですね」
今は梅雨が明けたかどうかといった時期だ。だんだんと蒸し暑い日が増えている。来月頭ということは六月の最初か。
「あぁ、まぁそこは特殊な事情ってヤツだ。詳しくは私もよく知らん。ただ転校生側が妙な頼みごとをしてきていてな。」
「はぁ...何ですかその頼みごとって」
「お前に会わせろ、とのことだ」
「エッ」
なになになになに何ですかぁ?急に怖くなってきましたよ?
こんなにも可愛い高校生♂に直々に会おうとするなんて絶対マトモじゃない。
悪いがパスという奴だ。
俺がプリンよりも固く意志を決めたところで教官がまた話を続ける。
「しかしまぁ会ってくれといってお前が素直に会うような奴ではないことくらい分かっている」
ほぅ、よく分かってるじゃないかフ◯ーザ。
この調子ならもしかしたら結婚でき...
「だからこの場にもう呼んである。」
結婚できなぁぁぁぁい!!!結婚なんぞ出来ませぇぇぇん!!
「ちょっ、何勝手なことかましてくださりやがってんですか?!」
「語尾が変だぞ語尾が。すまんな、どうしてもって言うんで佐倉ぐらいなら良いかと思ってな」
ハッハッハッハと教官が笑う。クッソ、他人事だと思いやがって...!
転校生って誰だ?ハッ!まさかたかしくんか?!たかしくんの『ポケッツモンスター』を借りパクしたまま売っちゃったから怒ってるのか?!
俺が思考の渦にのまれようとしているその時に、教官が生徒指導室の扉に声をかけた。
「おーい、もう入っていいぞー」
その言葉と同時に扉が開き始めた...
「くっ、南無三たかし!」
「コラ逃げるな」
窓からの逃走を図るも教官に押さえつけられた。これが独身の重みという奴なのか......!!
そうして生徒指導室の扉が完全に開ききった。
そこに立っていたのは本当にたかしくんだった!!
訳はなく。そこに立っていたのは女の子だった。まぁそうだよね。たかしくん今アメリカだもんね。
それはさておき、その少女を言葉で言い表すならばそう、絶世の美少女とでも言うべきだろうか。10人すれ違えば15人振り向くような美少女が、建てつけの悪い生徒指導室の扉の前に控えめに立っていた。
「あぁ、入りたまえ」
教官に促されて少女が中に入ってきた。陶磁器のような白い肌に、パッチリした二重の瞳。手入れの行き届いた黒髪は僅かに腰にかかる程度の長さで、その黒色とは対照的な白い頬は紅く上気していた。またスカートからのびる美しいふとも......
「何をジロジロ見ているんだ佐倉。気持ち悪いぞ」
うげ、と教官が顔をしかめて俺を見ながら言った。
「今大切な人物描写中なんだから邪魔しないでくださいよ!!」
「訳が分からん...さっさと席に座れ」
いつのまにか教官は俺の拘束を解いていた。思い切り背中に乗られたせいで体が痛え...
俺がよろよろと先程まで座っていた椅子に腰掛けると、所在なさげに部屋の入り口に立っていた女の子もおそるおそる椅子に座った。
...俺の隣に
「えっ?」
「えっ?」
俺が思わず驚いて声を上げると彼女もまた驚いて声をあげた。
何だこの状況は。解せぬ。というかスカート短すぎやしないですかねぇ、パンツ見えちゃいますよそんな短いと。
「あの、何で隣に座るんですか?」
「...何か問題、ある?」
まぁたしかに問題は無いが強いて言うなら君のスカートの長さは問題にしても良いと思うんですがどうですか?
というか助けて結婚出来ないウーマン!!
「何だ佐倉?そんなに瞬きして。ドライアイか?」
そうじゃないだろ!思わず心の中で突っ込んだ。
気付いてくれよ!隣に手頃な太ももあったら思わず揉んじゃうかもしれんだろうが!!
しかし俺の無言の訴えも虚しく、結婚出来ないウーマンは「後は若い二人に任せるわ〜」とか妙にババくさい台詞を吐いて生徒指導室を出て行った。
「......」
「......」
ほらぁ!こういう空気になるじゃん!
隣の女の子すっごいこっち見てるし!
ガン見だよ!お前が何か喋れみたいな顔してるよ!
「じー」
「あの...俺に会いたいって何の用?」
「じー」
「ちょっ、聞いてます?」
「じー」
あ、この子セミなのかもしれない。
とりあえず名前だけでも聞いてみることにした。
「君、名前は?」
「...浅倉 舞衣」
「アブラゼミさんって言うんだ。俺の名前は...」
「佐倉 圭」
「えっ?」
「知ってるよ、ずっと昔から」
「えっ?」
まさかの二度漬け「えっ?」である。
それにずっと昔からって...正直言ってこんな美少女と今まで会った事はない。
会ったら確実に忘れられないだろうし。
とは言っても相手は俺のことを知っているようだ。
つまり...ドユコト?
「えーと...」
「やっぱり覚えてないんだ」
浅倉 舞衣はそう言うと椅子から立ち上がった。
見上げた彼女の瞳は涙に濡れていた。
大粒の涙が木製のタイルの床に吸い込まれてゆく。
「やっと、会えたと、思ったのに」
その小柄な肩を震わせながら、言葉を絞り出していた。
「す、少し待って!思い出す、思い出すから!」
ヤバイヤバイヤバイ何で泣いてるんだこの子?やっと会えたって?俺にか?
そんなラノベの主人公みたいな展開俺にあるわけ......あったわ。
「もしかして...お前、泣き虫マイマイか?!」
途端に彼女の顔に光が弾けた。
「うそ...」
また彼女の瞳から涙が一筋流れた。
悲しみではない、喜びの涙だ。
「やっぱりケイ覚えてたぁぁぁ」
「ちょっ、泣くな、寄るな、鼻噛むな!」
「うわぁぁぁぁぁ」
この泣き虫っぷり、間違いない。
泣き虫マイマイこと浅倉 舞衣は
俺の幼馴染だ。
続きも一応書いてはありますが、反応次第で公開しようかと思います。