プロローグ
少年は絶望感に呑まれた。今さら戦おうなんて微塵も思わない。なぜなら、戦う理由を失ったから。
彼は何もできなかった。ただ、ただ仲間が殺されていく風景を眺めていることしか出来なかった。
ーーどうして…。どうしてこうなった…。
少年は涙しながら1人の女性の遺体を抱きかかえる。
「ごめん…僕は君を守れなかった」
悔しさと共にどこか諦めもある。頭の中ではどうしようもないことぐらい分かっているのだが、悔しさが入り混じる。
そして少年は落ちていた短剣を手に持った。
ーー死のう…。
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夏目 創太はどこにでもいる平凡な16歳の高校生である。
夏目漱石と同じ夏目なのでよく、国語が得意というイメージを持たれることの多い創太だが、どちらかというと国語よりも数学が得意である。
特に特徴的ではない髪型に体型。以前少し特徴を持たそうと、夏休みの間だけ黒髪を金髪にすることも考えたものの結局変えることはしなかった。
成績は中の上くらいなので特に先生に目をつけられることもなく、平穏に学校生活を楽しんでいる。
強いて言えば…、いや唯一の欠点と言おうか?彼には友人と呼べる存在がいなかった。
中学校の頃はよくつるむ友人がいたものの、別の高校になってしまい離れ離れになってしまった。
友達なんて自然にできるものだよね!何て呑気なことを考えていた創太は見事に友達作りに遅れてしまい、今では見事にボッチである。
そんな彼には今、悩むべき案件が存在する。それは…
「おはよう、夏目君!」
にっこりとまるで天使のような笑顔を見せて近寄ってくるこの女子生徒。名前は瀬能 麗華。成績優秀、スポーツ万能、容姿鍛錬とこの世のものとは思えないほどのハイスペックを誇るため、男子からの人気は勿論、女子からの人気も壮大である。
今では校内ヒエラルキーの頂点に立っていてもおかしくないほどだ。
そんな、全員から好かれる彼女が彼に話しかけるとどうなるだろうか?もちろん、男子は「何であんなやつ…」と思うだろうし、女子は「あんなボッチにまで話しかけるなんて優しい〜!!」なんて思うわけで。
そんな視線を向けられる創太にとって麗華から話しかけられることは苦痛でしかなかった。無論、創太も男なのでこんなハイスペックな女子生徒から話しかけられると嬉しいのだが…それはこの視線がなかったらの話し…。
(はぁ、今日もみんなの視線が痛い…)
朝から鋭い視線を向けられ、胃が痛くなる思いをした創太はお腹を抑えて机に伏せる。別に寝るわけではないのだがこうしていると周りの視線は見えなくなるし、寝ているのかな?と思われてこれ以上麗華に話しかけられることはなくなるだろうという創太のあみだした名案である。
…が、それもすぐに打ち砕かれ…
「ねえねえ、夏目君!ちょっと今日の放課後私に付き合ってくれない?」
「っ!!??」
麗華がそう言葉を放った途端、騒がしかったクラスは一瞬で静かになり、全員が一斉に創太の方へと目線をやった。
(やめてくれ…こんなの公開処刑だ…)
「………」
創太はとりあえず寝たふりをしてやり過ごすことにした。
だが、それを周りは許さなかった。
「何であいつなんかが…?」
「何なのあいつ?瀬能さんがせっかく話してくれてるのに!マジ意味わかんないだけど」
なんて声がクラス中で飛び交う。
(陰口のつもりかもしれないけど聞こえてるんだよ…)
創太は少し顔を顔を上げて周りの様子を見てみるものの、周りの視線が痛いのですぐに伏せる。
「あっ、夏目君おきてるじゃん!ねぇねぇ!」
周りの様子を確認したことが仇となり、せっかくの寝たふり作戦が麗華にバレてしまった。
(やばい…もう耐えられない…。僕の命日は今日になるのか…)
そろそろ限界を迎え、死を覚悟した時(精神的にだが)先生が教室の中に入ってき、なんとか死は免れた。
「ほーい、朝のホームルームを始めるぞー」
周りで創太に睨みを効かせていた生徒達もボチボチ自分の席の方へと向かう。
ーー先生グッチョブ!
と、思ったのもつかの間、麗華が顔を伏せていた創太にこっそりと「また、あとでね」と耳打ちをし、自分の席へと向かった。
創太はビックリして恐る恐る麗華の方を見ると麗華はニッコリと笑いながら手を振っている。
もしかしたら、今日1番の幸運であると同時に不運なのかもしれない。
そんな、創太の気も知らずに先生は淡々と出席確認を取っている。
周りを見る限り全員に白い目で見られている。
(あぁ、もういっそのこと異世界にでも逃げたいよ…)
そう思った途端、教室の床一面に突如光る線が現れる。いや、もっと離れたところから見れば線ではなく、魔法陣に近いものが光りながら現れた。
「うわっ!なんだこれ!」
「きゃっ!なんなの!?」
教室内にいた生徒は口々に叫んでいる。珍しさのあまり動画を撮るもの、焦るもの、呆然とするもの、そして無関心なもの。
魔法陣は爆発した。その一瞬、本当に一瞬だけ。
何と言えばいいのだろう。あぁ、そうだ。映画のフィルムが突然切り替わったような…。
「うっ…」
突然の出来事に思わず目を瞑ってしまい、再び目を開いたときはそこは知らない場所だった。
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