危うく犠牲者を出すところだった
おお、中にいると意外と広く感じるもんだな。テリアがこっちに手を振ってる。かわいいなぁ、俺も振り返しておこっと。
「よう、兄ちゃん。さっきぶりだな、早くお前をぼこぼこにしたくてたまらねぇよ」
「返り討ちにしてやるよ。俺は優勝しないといけないからな」
「優勝だって? 馬鹿だな、お前なんて見たこともなぇし、センヤって名前にも聞き覚えねぇ。そんな奴が優勝できると思ってんのか? この大会にはSランク冒険者も出てるんだぞ」
ほう、やっぱりSランク冒険者も出てきてるんだ。どれくらいの実力か気になるなぁ。ちゃんと試合見るか。まずはこいつをさっさとかたずけないとな。
「試合開始」
横の試合と一緒に試合開始が告げられた。思ってたよりも緊張しないな。相手がこいつだからか? まあ、なんでもいいか。
「ギブアップするなら早めにするんだな。すぐにしゃべれないほど痛めつけてやつから」
「やれるもんならやってみやがれ。一瞬で終わらせてやるからな」
「調子に乗るんじゃねぇぞ!!」
怒りで動きが単純になってるのか、もともと大したことないのか知らないがまっすぐに突っ込んできた。思ってたよりも素早いがまったくもって大したことない。こんなのであの傲慢な態度が取れるなんてな。かわいそうな奴だ。
「オラァーー!!」
わかりやすく叫びながら持っていた剣を抜き放ち攻撃を仕掛けてきた。ただでさえ遅い動きにそれは駄目だろ、マジで話にならない。最初の試合がこいつみたいなあほでよかった。
真上からたたき下ろすように振られる剣を右にスッとかわすとボコッと言う音を立てて剣が地面にめり込んだ。力だけはそれなりにあるのか深々とめり込んだ剣はそう簡単に抜けそうにない。
「くそっ、抜けねぇ。たまたまよろけて俺の攻撃を避けるとは運のいいやつだぜ。ちっ、マジでぬけてぇぞこれ」
締まらないなぁ、一生懸命剣を抜こうとしながらも俺を煽るって…………ダサすぎるにもほどがあるだろ。見てて恥ずかしいわ。
「かわいそうですね。手伝ってあげましょうか? 武器がないと戦えないですもんね」
「ああ!? ぶっつぶすぞ、なんだその口調は気持ちわりぃな」
折角俺が優しく言ってあげたのに、この態度だよ。もうこれ以上続けたところで意味もないし、終わらせてもいいかな?
「それじゃあ、行きますよ」
さっきは叫びながら攻撃してくれたお礼に俺もしっかり宣言してからゆっくりの手加減パンチを必死に抜こうとしている顔面に打ち込んだ。
「おい、待て!! グハッ!!」
ドゴンッ!! バキッ!! ゴロゴロ!! ガスンッ!!
強面の冒険者は俺のパンチを受け、吹っ飛びバウンドして転がった後に壁に激突して止まった。
あれ? やりすぎちゃったかな? 相当手加減したんだけど…………これは無意識にイライラが出ちゃったやつだ。まさか、死んでないよな?
「大丈夫ですか?」
俺が慌てて壁のほうへ走って行って声をかけたが返事はなかった。完全に意識を失ってる。一応、心臓が動いてるか確認したところ問題なかったので一安心だ。
「勝負あり、センヤ選手の勝ち」
お、放送で勝敗も言ってくれるんだ? ルリの時もたぶん行ってたんだろうけど、今気が付いた。放送はいいけど早く救護班を呼んでほしいな。今は生きてるけどその後はちょっとわからないし。
「大丈夫ですか? ゲルマ選手。意識が戻りません、早くタンカを」
いつの間にか運営のスタッフが気を失った冒険者に呼びかけていた。てかこの人ゲルマっていうのか。名前も知らなかったな。次の対戦相手は名前くらいは事前に調べておこう。相手は俺の名前知ってたし。
「救護室に運びます。センヤ選手、いくら何でもやりすぎです。これほどの力量性あるのならどうして手加減してあげなかったんですか?」
「そういわれても、相当手加減しましたよ。みませんでしたか、あのゆっくりのパンチを」
「なにを言ってるんですか、パンチなんて見えませんでしたよ。我々にはいきなりゲルマ選手が吹っ飛んだようにしか見えませんでした」
あのパンチでも駄目なの? こうなったらユウナにやるみたいなデコピンくらいしかないよ、俺。デコピンで勝ち上がっていったりしたらそれこそ注目の的だ。なんとか手加減できるようになったつもりだったんだけどな…………。ルリたちにはそれで行けても普通の冒険者たちはもっと弱いんだもんな。もう少し慎重にいこ。
「お帰りなさい、すごかったですよ。センヤさんも人が悪いですね。あんな雑魚冒険者にあんなパンチ食らわせるなんて。危うく死にかけてましたよ」
「手加減したつもりだったんだけどな。同じことを運営の人にも言われたよ」
「剣が抜けなくなってる様は傑作だったわ。久々つぼにはまったわ」
ユウナのやつあれ見て爆笑してたのか? でも俺も対戦相手じゃなかったら確実に笑ってるわ。
「すごい歓声だったんだよ、気づいてた?」
「なにがだ? 何かあったのか?」
「センヤの試合がだよ。あんなにぶっ飛んでたのセンヤの試合だけだよ。目立たないようにするとか言って今までで一番目立ってるよ」
おい、マジかよ。目立たないようにするはずだったのに。
「流石はセンヤだね。この調子で頑張って」
「ありがとう。モエナも頑張れよ」
こうして一回戦は進んでいき、やっとテリアの出番がやってきた。




