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Pora-Stars  作者: 御月さくら
二人の距離、わずか一枚
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2. 星空の舞台で会いましょう (2)

『Pola☆staRのスターライトステージ』が始まり、陽菜がCM明けを待つまでの間、彼女をブースの外から見つめるファンの中に、一人の少女の姿があった――

「――改めまして、速水陽菜です。それでは早速、番組に頂いたメールを紹介して頂きたいと思います」


 イヤホンから流れてくる彼女の声を聞きながら、わたしは陽菜さんの一挙手一投足を見逃すまいと、他のファンと同じかそれ以上に、陽菜さんの姿をじっと見つめます……


 ……そうしようと思ったのですが、この位置とわたしの身長では辛うじて顔が見えるだけで、その手元どころか身体すら見ることはできません。


 今日はほんの数分の出遅れがすべてでした。脱出前、上司に押し付けられた余計な雑用、それを解決するために要したほんの数分。


 そのせいで普段なら三十分前には来ているのですが、今日はラジオの開始になんとか間に合っただけ。既にブースの前には人だかりができていて、わたしにできたのはその隙間に体を潜り込ませることだけでした。


 「ままならない」がわたしの好きな陽菜さんの口癖ですが、わたしは今日のことをそれで済ませる気はありません。絶対に、いつか、一泡吹かせてやるつもりです。だいたいあの課長はいつもいつも――と湧き上がってきた恨み辛みを今は一旦胸の奥に押し込んで、意識を陽菜さんに戻します。


「ではでは次のメールに行きましょうか」


 ……ああ、しまった、一通分聞き逃してしまいました。帰ったら録音したのを聞こうと思いながら、わたしはメモを取ります。


 今日の陽菜さんは黒のロングスカートとピンク色の可愛らしいブラウス、そしてその上から赤いカーディガンを羽織っています。


 Pola☆staRのステージ衣装は露出が多いのでその反動なのか、それともこういったコーデが好みなのかはわかりませんが、陽菜さんはあまり際どい服を着る印象はありません。ノースリーブとか、ショートパンツやスカートのような、肌を見せる私服を見たことがありませんし、キラキラとした華美な色使いもなく、今日の桃色でさえ珍しい方です。


 だからかどうかはわかりませんが、グループ内での陽菜さんの人気は最下位、良くて下から二番目です。というのも、Pola☆staRの並び順は人気順位によって決まるという話で、最も人気のある柚月(ユヅキ)はいつもセンターで、その両脇をリーダーの千煌(チアキ)と最年少の耀(ヨウ)が固めています。残る陽菜さんと星華(セイカ)が両端。それがPola☆staRの通常の並び順なのです。


「次のメールは、ラジオネーム、カスミソウさんから。いつもありがとうございます」


「……あっ」


 思わず声が漏れました。そのラジオネームはなんとわたしのものです! ああ、今日諦めずに来てよかった……ああもう、今日はこれだけで救われた気分です。


「『陽菜さんこんばんは』、こんばんは~。『新曲、とってもよかったです。何度も何度も、CDが擦り切れるぐらい聞いています』、ありがとうございます。カスミソウさん以外の方からもたくさん新曲の感想頂いています。好評だったようで、とても嬉しいです。まだ聞いてない方は音楽配信サイトに今すぐ――じゃない、この放送が終わってから行ってみてくださいね! 来週の定期公演は、これを引っさげてのライブとなりますので、楽しみにしていてください」


 もちろんチケットは取得済み。運良くかなり若い整理番号が取れたので、今日みたいに陽菜さんを見るのに苦労することはないはずだ。いつもは最後列だから、ほとんど見えなくて、背伸びをして足が攣ったことが何度もありました。


「さてさて、メールの続きを読みますね。『気の早い話ですが、次の新曲はいつ頃になりますか? 気になって夜も眠れません。わたしの安眠のためにどうか教えてください』、……あー、そうですね、多分まだ言っちゃダメだと思うんですけど――」


 陽菜さんが奥のブースを覗き込むと、ディレクター、あるいはプロデューサーらしきスーツ姿の人がバツ印を掲げるのが見えました。あれ、でも初めて見ますけれど、Pola☆staRのプロデューサーって女性だったんですね。知りませんでした。


「――あ、やっぱり、ダメみたいです。でもきっと次のライブではなんらかのお知らせがでいると思いますので、それも含めて次のライブに足を運んで頂けたら嬉しいかな」


 へえ、次のライブで何か発表があるんですね、メモに残しておきましょう。今から来週のライブがとても楽しみです。


 それにしても、とわたしは思います。目の前でこうして微笑みを浮かべながら話す陽菜さんの声が、前からではなく耳元で、しかもわずかに遅れて聞こえるのは少し不思議な気分です。


 たった一枚ガラスを挟んだだけなのに、まるでわたし達は別の世界の住人のようで――でもきっと、住む世界が違うというのは、こういうことをいうのでしょう。


「『それでは健康に気をつけて、これからも頑張ってください』、ありがとうございます。皆さんも風邪とか引かないように気をつけてくださいね。……さて、それでは丁度ライブについての話題が出たところで、先日発表したばかりの新曲を聴いてください。Pola☆staRで、『Moonlight Dancing』」


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