166話 慈悲なき追撃。
楽しそうに剣を振っていた国王様も、今は真面目な顔つきで剣を持ち立っている。
「すみません。お待たせしました。」
「……あ、あぁ。問題ない。」
なんか口調がいつもと違うな。緊張しているわけないから、あれが戦闘モードの勇者様って所かな。
♢
おかしいぞあの威力。ソラヤ殿はノインの妹達と一緒に旅をしてきたと聞いている。前にあった時もLv20くらいのはず。腕試しと我の凄さを見せつけ、旅の友にしてもらう作戦が。
思わず振るった剣が止まり、思考も停止をしてしまった。大人気ないと言われようとこれは本気で行くしかない。
「我が鎧よ。力を!装備!!」
「本気ですね、勇者様。」
突然勇者様とか。ぞくっとしたぞ。
「その呼び名はやめてくれ。」
「では国王様?」
これは最近やっと慣れてきた呼び名だが。役割であって俺の名前ではない。
「…ファングでいい。行くぞソラヤ。」
「肩を借りますよ。ファング!」
ふっふっふ。どちらにしろ今は楽しませてもらおう。この決死の戦いを!
♢
―ミシッ、パン!
地面にヒビが入り、空気が割れた音がした。ここの闘技場頑丈じゃなかったか?
「危な!?」
ギリギリで躱した僕は、後ろを振り返ると同時に銃を構える。まずは通常ので反応を見よう。
―ガチャ、ズゥゥン!
―ッス!
あの体勢から避けるの?あんな全身鎧の割によく動くな。さて、次は…。
―ガチャ、ズゥゥン!
―ッス。
やっぱり躱すんだね。鎧で受けたり、剣で切りつけたりはしそうにも無い。さっき試しで撃った弾丸を警戒しているんだろう。でもそれなら近づいて来そうなんだけど。
「近づかないの?」
「えぇ。今はこれでいい。」
「僕の攻撃範囲に入ってて、逃げ切れるでしょうか?」
「それはやってみなければ、分からないでしょう?」
僕を試しているのか、それとも別の意味で何かがあるのか。とにかくこのチャンスを逃す手はない。
―ガチャ。
込めるのは緑、風魔弾で魔力は10。威力より速さを。
―ズゥゥン!
―ッチ。
「掠っただけか。ファング速いんだね。」
「ちょっと驚いたよ。」
「まだ余裕そうだな。少し戦い方を変えよう。」
―ガチャ。
―カチャ。ズゥン!
ハンド銃の方に氷魔弾を入れ、自分の足元に即発射。僕とファングの間に氷の壁ができた訳だ。
「ここで……。」
―ガチャ、ズゥゥン!
「隠れて不意を狙ったかな?出来るも俺には当たらない!」
避けられるのは承知の上。僕の狙いは……。
―キラッ、ドゴォォン!
壁に当たった聖魔弾は、目の前の氷ごと吹き飛ばす。
「あっぶな!これあってギリギリか。」
氷魔弾の壁は目隠しでは無く、あくまでも僕を守る盾。ファングは大丈夫かな?これで少しはダメージあるといいけど。勇者だしこのままって事はないよな。
―ガチャ、カチャ。
メインの武器に球を込め直して次に備える。爆風も収まり、煙の中から人影が見える。
「この闘技場で自分も危険な攻撃をしてくるとはな。」
剣を振り煙を払うファング。怪我は無さそうだし、喋る余裕があれば大丈夫か。
―ズゥゥン!
「甘い!」
―ギン!
煙の不意打ちも、弾丸を斬って回避するファング。
「甘いのはファングだよ。それ斬らない方がよかったよ。」
「ん?」
僕が撃った弾丸はさっき貰った重魔弾。見た感じは効果無いように見えるけど、動けばバレちゃうから追撃を今のうちに。
―ダン!ダン!
「それも…!んな?体が重い!?」
―カン、カン……バリ。バリィィン!
2発の氷魔弾は魔力を10しか溜めてないけど、効果は絶大。ファングの左腕と右足を氷漬けにした。
「な、これはさっきの氷!っく!」
―ガチャ、ズゥゥン!バリ……。
「え?」
―バリバリバリ!!
重魔弾で速さを下げ、氷魔弾で動きをさらに制限。そこに雷魔弾を撃ち込む。これで多少痺れてくれればいいな。
「ぐぅぅぅ!!」
この後は動けるようになった時の剣撃を気をつけないと。右で剣を持ってるから……。
―ガチャ。
魔力は少し多めに…50くらいでいいかな。
―ズゥゥン!チュン!
「っが!?」
右の肩口を狙った風魔弾は、鎧も貫通してくれた。予想よりうまくいったな。まぁ魔力込めたし、動きを制限された中では、回避は出来なかったんだろう。リナみたいな回復とかもありそうだな。
「次は……。」
「!!」
―ガチャ、ズゥゥン!チュン!
あの鎧って脆いのかな?2発目の風魔弾は、ファングの左足を貫通した。逆にこの魔力で頭を狙うと危ないんだな、覚えておこう。
―ガチャ。
動く気配がないから、ここで完全に足を止めよう。魔力は10…30…60……100!
「止めろ氷魔弾!」
―ズゥゥン!バリ、バリィィン!
ファングを中心に闘技場の半分は氷漬けになった。
「…………。」
静まり返る場内。
氷漬けのまま動かないファング。
「これ、追撃か?」
「「「「「「「「「鬼か!」」」」」」」」」
「空ちゃん、もうやめた方がいいよ〜HP無くなっちゃう。」
部隊長の全員につっこまれ、母さんが見てくれたか注意してくれる。
人間最強?勇者との戦いがサクッと終わってしまった。




