堕落した18歳
「本当に気持ち悪い。頭おかしいのよ」
蔑んだ視線とともに躊躇いもなく浴びせられる罵声。
激昴した声は、醜くて聞き取りにくい。
「あんたがそんなんだから嫌われるのよ皆に!知ってる?お父さんだって、お母さんだってあんたのこと“腫れ物だ”って言ってるのよ」
ゴミを見るかのような目で、淡々と罵詈雑言を吐き出すその姿は肉付きがよい。ふっくらとした頬には、べったりと粉が乗っている。
「私は腫れ物扱いなんてされないし?可哀そう。まぁ、あんたみたいな事しないしね」
見下すように笑ってみせる顔は、どこまでも汚かった。
言いたいことをすべて言い切った“それ”は、勝ち誇ったように部屋を出て行った。
扉が閉まる音とともに、ふつふつと湧き上がってくる何か。
私は気持ち悪い。
私の頭はおかしい。
私は嫌われている。
私は腫れ物。
ああ、うるさい。
知っている、そんなことは。
私が気持ち悪い?
私はこの容姿とこの性格の持ち主だ。誰よりも1番わかっている。
私の頭がおかしい?
こんな環境で普通に育つはずがないだろう。よく考えてほしい。
私が嫌われている?
生まれてこの方好意なんぞ受けたこともない。嫌悪の感情しか知らないのだ。
私が腫れ物?
生まれて来なければよかったことなど、物心ついた時から自分に言い聞かせている。
ああ、もう、あああああああああああ。
鈍い音が部屋に響いた。
壁にぶつかった無機物が、威力を失って床に転がった。
面倒くさい。何もかも。
他人を蔑み、笑い、自身を優位に立たせることで自尊心を保っていく奴らの踏み台に、何度なってきただろう。
そう考えた瞬間、ふ、と笑いがこぼれた。
こぼれた笑いは、止まらない。
乾いた笑い声が気味悪く部屋にこだました。
あはははははは、と。
止まらない。面白くて。可笑しくて。
あはははははは。
あはははははは。
あはははははは。
あはははははは。
あはははははは、と笑い続けたところで、はたと笑いが止まり、それまでの自分の声が脳内で反芻する。枯れて、汚れた、酷い声。
あはははははは、あはははははは、あはははははは、あはははははは、あはははははは、と壁に向かって、止まらない笑いを止まらないまま生み出し続ける姿が脳裏を支配した。
わけも分からずただ流れる涙を拭うこともなくそのままに笑い続ける姿は、滑稽。とても滑稽で、気持ち悪い。
気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
ああ汚い、ああ醜い。
なんで私は生きているんだろう。
生きる価値も権利も何も持っていない。
ただのうのうと息を吸って、吐いて、栄養を摂って、生きながらえて。
嫌悪。
ふつふつと湧き上がった何かは、嫌悪だった。
他でもない、自分への、嫌悪。